4:SIGN†OGRE爆◯!その2
2016/08/20 3:23 よろしくお願いします。
「こらぁ!? ぺっしなさい! ぺって! 早く!!」
猫耳環恩の舌っ足らずでかわいらしい、音声ライブラリ。
その慌てふためく、問いかけ、いや、懇願に対するは、落書きみたいな宇宙服。
■コレハコレハ、ミス環恩、本日モ、ゴ機嫌ウルワシク_
カタカタカタタタン。
宇宙服は、内部処理的には、遠長な距離をものともせずに、環恩を見上げた。そして、開かれたままのチャット画面へ返答してみせたが、冷静ではない環恩は、それに気づかない。
環恩が講座中にいつも使っている、ピンク色の髪色の猫耳キャラ。
巨大な立体ドット絵から、フォトリアルなポートレートまで、時には手書きのアニメーションだったりと、多彩な表現形態で特別講師に成り代わるネコミミ。軸索さんに、専用ページが作られる程度には有名だが、隠れキャラ扱いされており、特に重視はされてない。
今回は4頭身の彼女を、自分のゴツい開発者用デバイスから、猫掴みで取り出して、対戦画面の中へ放り込んだ。
ちなみに環恩の開発者用デバイスは、VR・AR対応の腕時計タイプ。色は、蛍光黄緑にブルーのロゴ入り。
尻の所で若干の抵抗を受けつつも、スルスルと、対戦空間の中へ入り込み、クルリと回って着地した、ピンク髪のネコミミ。若草色のツーピース。襟袖が白い折り返しで装飾されている。胸と手首を留めている、大きめのボタンは、突起2つの猫耳形。尻尾は無くて、皮製のミュールを履いている。とてもカワイらしく、利発そうな印象だ。
ただ、全体的な形状が、データマテリアル対応紙粘土製のような、どこか、作りの甘い印象を受ける。この辺は、VR設計師に軍配が上がるのかもしれない。
姉さん!?、先生!?、笹ちゃん!?
ギョッとした3人は、声を揃える。
「「「ソレ? どうなってんの?」」…んだぜ?」
『アバターを直接掴んで、対戦中の空間に投げ入れる』
コレは、さっきまでの、アイテムを投げ入れたりするのとは、訳が違っていた。
「先生……それは、ワルコフのイケズと……おんなじ手口と……違いますのん?」
このチャット対戦空間は、驗と歌色の持つ、キャラクタ同士が、V.R.IDシステムを使い、限定的に開かれたもので、その量子鍵を相互に監視することで、接続を維持している。VR・AR問わず利用出来、ポピュラーだが、個人間通信としては、大げさといえる。
量子鍵を持つ、他のキャラクタが、介入した時点で、鍵は書き換わり、リアルタイムに通信を維持する事は、不可能なはず。つまり、この対戦空間は接続が切れるはず。
この辺までは、あまり理論上のことを深く勉強できていない、驗や刀風にも、理解できる事だ。
本来不可能な、リアルタイム通信への介入。
宇宙服×特別講師。不可能の2乗だ。
通信中の対戦空間は、大きな買い物カートみたいな物で、アイテムを出し入れしたりは出来る。だが、荷物の入った買い物カートに、別のカートを入れようとしても、クラッシュするに決まってる。
簡単に言うとこんな感じ―――VR関連の特別講座中にチョットだけ触れた、”V.R.ID間通信”の説明。その猫耳好きな特別講師の壇上での言葉を借りると、そう言うことらしい。
「ワルさんのぉ、リアルタイム通信介入のぉ、ログを取って置いたんですけどぉ」
環恩は、VR対応のゴツい腕時計型デバイスを、目の前に持ってくる。オレンジと赤でデザインされた、小さな〝空間認識用アダプタ〟が差し込まれている。
「ワルさんの手順だと、量子鍵生成にー、力任せなトコが有ったからぁ、量子鍵検出モジュールと一体化してみたんですけどぉ。そしたらぁ、処理効率を2%も改善出来ちゃってぇ」
デバイスの表示面を突いて何かを確認する。そして、側面に付いた小さなスイッチカバーを開いて、中のボタンを押した。
「そのお陰で先生もー、ギリギリだけど、回線の量子状態をー維持したまま、リアルタイム通信に介入出来るようになりましたぁー❤」
カヒュッ。圧縮空気の抜けるような音がしたかと思うと、腕時計デバイスの、表示板面が空へ飛び上がった。ソレは幾重にも積層表示された、処理モジュール自体だった。
「先生ぇ、……理論上宇宙最堅牢の暗号通信規格の、量子鍵に、……介入しただけじゃのうて……2%改善って……」
細身で巨漢な悪夢の処刑人が耳をふさいで、唸りだした。
禍璃の腕一本分くらいの長さに伸びた、何千枚もの処理モジュール。その、最上段が、巨漢の唸り声に引き寄せられるように、ゆっくりと降りてくる。光の粒子になって消えていく最上面の内容を、受け継ぐ度に、降りてくる平面の輝度が増していく。
まあ、危険色の出てない、特別講師が、それをヤッてのけた事は、大問題である事は間違いない。
VR設計師も、似たようなことを、すでに披露しているが、資格を持つものが、多少強引な手順を踏めば可能な範疇だ。
実際ワルコフは、接続維持に必要な、驗のチャットアバターだけでなく、セキュリティー上、最優先のはずの本体にまで影響を及ぼしている。
不可能を可能にしすぎである。
そして、特別講師謹製のチャットアバターは、今まさに、乱入者に対して、乱入を仕掛け、あまつさえ、その胸ぐらをひっつかんでる最中だ。
先行入力された、チャットコマンドで言えば、『@F @F @F @F @C』。
VR対応のゴツい腕時計型デバイスを、戦闘出力稼働させっぱなしの、猫耳ヒューマノイド。腕時計に齧り付き、苦渋の表情で、呪文を、……呪いの呪文を吐いている。
「お給料日前の」「高課金量子演算は」「卵かけご飯」「ふりかけ」「塩パスタ?」
腕時計の角に付いた、表示板を留めている様にも見える、大きめの捻子が、結構なスピードで旋回している。何を意味しているのかは、解らないが、節約レシピが、どんどん質素なモノになっていく事と、無関係では無いだろう。
「えっと、水?」
不可能を可能にしすぎである。
「鋤灼、どこ行っちまったんだぜ!? 大丈夫なんか!?」
オロつく刀風。四六時中連んではいたが、親友と言うほどには、付き合いの深くない驗の事を、本気で心配して居るようだ。
鋤灼驗に、お前は生まれついてのイケメンだなあと、言わせる由縁と言える。
「そうでしたぁ、鋤灼君をー、返してぇー! 出来るだけ早くー!」
刀風だけで無く、環恩も、取り乱す程度には本気で心配してるように見える。……本日以降の食事メニューの心配も、若干含まれているようだが。
残りの二人は、直接、ワルコフ達の、強制バトルレンダを目の当たりにした事がないせいか、静観していた。少しくらい、変なことがあっても、まさか、VR空間内部での事が現実に、影響を及ぼしかねないとまでは、思っていないのだろう。
それほど真剣じゃない事もあるが、鋤灼驗少年、自体はともかく、そのプレイヤーとしての、キャラクタ構成には、全く、興味がなかったのかもしれない。
妙に、慌てふためく猫耳と、魔女っ娘を目の前にして、禍璃が、音声チャットへ怒鳴った。
「ちょっと、鋤灼!? アンタ、今何処に居るのよ!?」
「ザザッ―――えー? 笹木ー? うふふー、どこだと思うー?」
オラついた同学年に対し、にこやかな応答をする音声チャット。
「だからアンタは女子か!……何よ、ちゃんと居るじゃ……」
「ザザッ―――俺はねぇー、なんか、宇宙っぽいとこにいるんだけどサー」
刀を背負った海賊が、安堵の声を上げる。
「鋤灼、居たわよ! 何処だか解んないけど、宇宙に居るって言ってる!」
メカ猫耳を頭から生やした、作り物のように整った美少女が振り向く。
そして、側にいた魔女っ娘と、平手を打ち合わせて、消失したハンサムサイボーグの安否確認を喜んだ。
項邊歌色も、何かをしようと思ったのか、驗の周囲を映し出すはずの、映像空間を、素手で、ひっぱたいている。
素手と言っても、腕に巻かれた、ゴツくて白い腕時計型デバイスから、はみ出すように積層表示されているのは、明るい赤の地色に真っ白い文字だ。
それなりの効果はありそうだったが、瞬間的に、明暗が生じる程度で、依然砂嵐のままだ。ちなみに、特区にも、スターバラッドの世界にも、スノーノイズは無い。
■現在、破損個所ノ修復ヲ試ミテイマス_
「ワルさぁん!? 何とか言ってくださぁい! 怒りますよぉ!? 鋤灼君をー返してくださぁーい!」
かわいらしいお出かけ服に身を包んだ、4頭身のピンク髪の猫耳が。
落書きのような4頭身の船外活動用宇宙服の耳から。
手を突っ込んで、奥歯をガタガタ、させようとした時。
■現在、破損個所ノ修復ヲ試ミテイマス_
チャットに表示されている、ワルコフの書き込みに気づいた、刀風兼魔女っ娘。
■現在、破損個所ノ修復ヲ試ミテイマス_
「なんだぜ、こりゃぁ!?」
■現在、破損個所ノ修復ヲ試ミテイマス_
■現在、破損個所ノ修復ヲ試ミテイマス_
「修復を、……試みとる、……ようどすなあ」
■現在、破損個所ノ修復ヲ試ミテイマス_
■現在、破損個所ノ修復ヲ試ミテイマス_
■現在、破損個所ノ修復ヲ試ミテイマス_
「姉さん、叩きすぎたんじゃないの?」
「そうかもだぜー、旅館のテレビじゃ無えからなー」
「先生は、まだ、何もぉしてませんよおー?」
『@D』
”避ける”入力により、ワルコフに掴みかかっていた、猫耳がペリッと手を離した。
■現在、破損個所ノ修復ヲ試ミテイマス_
■現在、一生懸命ニ、破損個所ノ修復ヲ、試ミミル事ガ、急務ト思思ワレレレレマs_
「あ!? なんか、……ワルコフの……緊急システムメッセージが……日和りよった!」
「調子悪いみたぁい……ワルコフシステム? 的にー、良くないー兆候よねーこれぇ」
「……そうどすなぁ。IME……も……なんか……回らなくなってしもて……」
専門家達は、不吉なことを言い出す。
「ねぇー、鋤灼! あんた、しょうが無いから、一回、ダイブアウトしちゃいなさいよ!」
「ザザザッ―――そーすっかな……おーい。ワルコフー、居るのかー!?」
微かに届く、10秒の呼吸。
その間も、4頭身の素朴な印象の猫耳と、4頭身の落書きみたいな宇宙服は、ややうつむいて、顔をつき合わせている。
見方によってはほほえましく。見方によってはもう、とっくにホラーだ。
「……ワルコフここには居ないみたいだし、一回教室に戻るよ。ピピ♪」
驗が、VRメニューを開く音が聞こえた直後。
砂嵐の詰め合わせみたいになってた、定格サイズの映像空間が、復活した。
何故か青ざめる、美人女性陣。
「鋤灼はん、……逃げはなれ!」
「鋤灼君ー、逃げてぇー!」
「ザザザッ―――えー!? どうしたんすかー?」
映像再開直後、逃げろと言われ、顔をしかめるハンサムなサイボーグ。
「ん? なんだ、どした、そこが宇宙?……なんか殺風景なペントハウスみてえな」
「ほんとね、なんか、真っ白くて、ワルコフの家? なのかしら? どうしたの姉さん、項邊さんも……」
魔女っ娘と海賊が肩を並べて、注目する映像空間の中。真っ白い壁、床、左側に大きく開けた窓には漆黒の夜空。散りばめられている星の1つは、惑星ラスクからも見る事が出来る、第圄惑星の様に見える。
透けて見える、映像空間の向こうの、美人女性陣が、寄り添って、ガタブルしだした。




