9:優等生と小鳥とブラックボックス、その11
2016/07/03 18:02 デイリー無題(台詞無し版)を追加。
2016/07/03 16:56 細かい所を整頓。
2016/07/03 15:49 ストーリーはコツコツと進んでいます。よろしくお願いします。
「ワルさぁん!? 何したのぉ?」
カチャカチャタタン
■P.B.Cヲハッキングシマシタ_
「え? それ大丈夫なのか?」
■PBC内蔵画素ノ、表層座標ヲ、発熱サセ所謂、”サーモホン”ノ原理デ、音声出力出来ルヨウニ、シタダケデス_
「コウベ、小鳥も問題はないか?」
うなだれ、直上を見上げる小鳥騎士一式と、目を合わせる驗。
「だーいーじょーおーぶー!」
小鳥を蹴り上げ、ビョンヨヨヨヨヨォン!
と、どう言う仕組みなのか、面白い音を立てた。
「ピッピチュチュチューン♪」
面白い音と同じ節を付けて鳴く小鳥。
「プフッ!」
笹木専門家は、面白い効果音にも脆い様だ。素直とも言える。
「ワ、ワルさぁん、ちゃあんと、量子アドレッシングでぇアクセスしてるぅ? ……それ以前に稼働中のPBCに介入するなんて、ほんとはぁ言語道断ですがぁ……」
■PBC表層ノ、パイロットランプ部分ノ輝度補正インターフェースヲ実装シマシタ_
「うぬぬぅ」「音声入力」「ボイスメモ」「稼働中カーネルへのIF実装とか」「まじウケるー」「あわよくば」「特許……いえ、やっぱり」「実用新案申請案件」
”スタイル抜群”は、宇宙服を押しつぶさんばかりに、身悶えながら、怪しげな覚え書きをしている。
「……鋤灼、サッパリ解らねえぞ」
「安心しろ。俺にも解らん」
「あードレッシングでしょ? 知ってる」
「何ってったっけあれ、この間喰ったヤツ……そう、シーザーサラダ!」
「アレ、超、旨いよなー」
「「「…………」」」
やや、冷静に、スッと、立ち上がる若者達。
「そしたらワルコフも、ソレやって、話せるようにしてくれよ」
「そうね世話ないし、アナタ意外とお喋りみたいだし、その方がストレスなくて良いんじゃないの?」
「そうだぜ、いや、何でそうしなかったんだって話かー?」
カタカタカタカタタン
■宇宙ニハ大気ガ無イタメ、音声ヲ伝播スル物質ガアリマセン_
「またその初期設定かー」驗が肩を落とす。
「そしたらよ……オマエのメット内蔵の通信装置を介して、外の通信装置と通話するってのはどうよ!?」
「お!? それだ! やるな刀風!」
「刀風君! ナイスアイデアよぉ!」
「見直したわ! 刀風の癖に!」
とびっきりの笑顔で、刀風の背中をバシンバシン叩く禍璃。
■シマッタ! ソノ手ガアッタカ_
わたわたする宇宙服。
「コイツ、今、しまったって言いましたよ」
「そうねぇ、確かに言ったわねぇ」
「へへ、観念しろ、設定なんて面倒なもんとはオサラバしようぜ」
手のひらを振る刀風。
「年貢の納め時かしらね」
逆手で人指し指を突きおろす禍璃。
■ミス、環恩_
「はぁい?」
■一時ダケ、物理解像度デ、視覚化シテモ、宜シイデショウカ?_
正面の驗を見上げる宇宙服。本当は環恩を見上げたいのだが、関節自由度の問題で出来ないのだと思われる。
「ん~。じゃあ、そっちの木陰で、ソレできる?」
「はい、可能です」
禍璃がアクションヒロインの様な颯爽とした声色で読み上げた。
◇◇◇
「まあ、こんなこったろうとは思ったんだけど」
「……なんかホラーSFみたいだぜ」
「そうねぇ、結構シュールよねえぇー」
「ワルコフ、お前、中身はどうした?」
1メートルほど大きいためか、昨日と違い、所々直線形を残した精悍なフォルム。白地に、オレンジ色のラインや金色のパーツを付けた、船外活動用宇宙服。
ちょっと見上げた高さにある、ヘルメット内蔵の、金色がかったバイザーは上へ押し上げられており、その中には何もなかった。
何もしなくても、勝手に磨き上がる表面構造を持つ、耐圧透過ハイプラスチック越しに見える空っぽ。さらに、その向こうにはヘルメットの裏側が見えている。
「コレじゃしょうがねえぜ」
と腕組み。
「そうねぇ、中身がないんじゃねぇー」
と頬に手を当てる。
「まあ、本質はソコじゃ無ぇけど、徹底した初期設定に免じて乗ってやる」
禍璃の小さな手が、驗の腕を取る。
「あんまり見ないでください。いやぁーん?」
と、恥じらう成分が1個もない、勇ましい朗読。禍璃は驗の腕を掴んで水平にしている。今から腕に食らいつこうとしている訳でなく、ワルコフの流す文字を、読みながら何か作業を始めたのである。
「こうなったら仕方ないわね。音声ライブラリの月額料金かかっちゃうけど、解説ちゃん使うわよ」
「男の腕ばっか見てるのも、あんまり楽しくねえしな」
「俺だって、好きで見せてるんじゃ、無ぇんだからね?」
驗は気のない返事で返す。
「音声ライブラリ?」
そっか、ソノ手があったわねぇ。ふだん使わないから忘れてたわぁ。
と、鞄の中から少し大きめで厚みのある、オレンジ色の台形を取り出す笹木特別講師。
ワルコフはピッ♪と音を立てて、鏡のようなバイザーを締めてから環恩の元へ戻る。一歩ごとに実体が薄まり、全長を縮小しながら、見えない階段を駆け登り環恩の胸元へ無事到着。
再び、通路上に円陣を組んで座る一同。人通りが以下略。
環恩の持つ雑多なツール、プラグイン、ライブラリ群が一同に表示される。具体的には1メートル四方に、3センチ角のアイコンが、印刷品質でビッシリ。
「わ、いっぱいある。っていうかコレ、無制限使用可の、製品版ばっかり!」
「うえっ? 始めて見たぜ!」
「じゃ、この渋い声の人のライブラリ良くね?」
驗が指先で、地面から積層を引っ張り上げて、目当ての音声ライブラリを選択する。
「いいわね」「なんだっけその顔、確か」「悪夢の処刑人のナレーション・トラックとかやってたわね」
「そうそれそれ」
「これに決まりました」
ワイワイと悩む生徒達に、宣言する笹木環恩特別講師に迷いはなく、生徒達は「あ、うん」「そーお?」「じゃぁ、それで」と賛同する。
その、細い指先がハイ・プラスチックの地面から、つまみ上げたライブラリデータには、ネコミミ美少女の弾ける笑顔がドット絵で描かれている。
ドット絵を顔面のバイザーで、喰ったワルコフは3秒ほど瞬き、
「■ご主人様、お帰りなさいませニャン♪」
と、着てもいないエプロンドレスの裾をつまみ上げた。
「かぁわぁいーっ。かぁわぁいーぃ❤」
「……ホントだ! 目を瞑っていれば愛くるしいわね、発音も流暢だし」
「おう、宇宙服は、合ってねえげどな」
「とりあえず、ライブラリのプロファイルイメージに合わせなくていいから」
「■そうですかぁ。了解でーす。じゃぁ、このプロファイルデータはぁー、”禁則事項リスト”に入れとくニャン♪」
ああああぁっ! 嘆く笹木環恩推定以下略。
ワルコフは身をひねり大事そうに仕舞った。
「■ってのは、何だぜ?」
「それは、ワルコフIMEのチャットモードがオンになってるんじゃね」
「■ハイ。コノサウンドアイコンハ、仕様デスノデ、削除ハ出来マセン」
「まあ、いいんじゃね」驗をみる刀風。
「そうだな、とりあえず、これでいいか。俺も腕伸ばして歩かなくて良くなったし」
腕をブラブラさせ、その場で体操する驗。
「それで、……何の話してたんだったかしらぁ?」
「えーっと、ワルコフが、どれくらいで、バカでっかくなんのか? じゃなかったけ?」
「■量子状態二ヨルノデ何トモ言エマセンガ、倍ノ大キサニナルノニ、6時間カラ100日間ノ開キガアリマス」
「そりゃほんとに何とも言えねえぜ」
「でも、6時間でも、倍の大きさでしょう? 姉さんが監督するとして、朝イチで対応すれば、大丈夫じゃない?」
スタイルの良い姉の、胸元に下がる箱を指さす妹。
「そうだな、急激にでかくなると思ったら、小分けに椎茸出力して置いてもらえば大丈夫だろう」
「アタシが食べてあげるよ!」牙をむく、怪獣型美少女優等生。
「ピピピチュイッ♪」羽ばたく、丸っこい抹茶色。
直下の怪獣と抹茶の、”ニヤリとした表情”が、見えてなくても、見逃さない”飼い主”。
「昨日の、お化け椎茸が、まだまだ、死ぬほど残ってるだろ?」
「ソレはソレ、コレもコレじゃん。シルシはバカなの?」「ピチュチュイ♪」
「それと、コウベも、食べ過ぎたらその後ろ髪が、どこまでも伸びちまうんだろ?」
小言と思ったのか、”小鳥騎士”に合体して、どこへともなく飛んでいこうとするが、その場でクルクルと回転するだけである。
「……キリがないわね、”余剰リソース”っていうヤツ」
禍璃がシルシの胸のあたりを突く。
不意に、”ネコミミプロファイル”禁止の憂き目から立ち直った、スタイル美女が、子供声で宣言する。
「はぁい。一連の不測の事態の概要がやっと掴めましたぁ。ということで、安心して今日の目的である、カタログ贈答品の受け取りに行くわよぅ!」
早速、豪華そうな厚紙を、オーバーブラウスの小さなポケットから取り出す顧問。
部員達も鞄から取り出す。顧問に習って、天高く見せびらかすように掲げた後、両手でしっかりと抱え、左右の安全を確認する。
「みんなぁっ! 着いて来なさぁーい!」
贈答品カタログを大事そうに抱えて、満面の笑みで、行進する”VRE研究部”の面々。
公園を出て、時には左右の安全を執拗に確認しながら、駅へ向かう歩道を歩く。目指すは、厚紙の裏に書かれた地図によると、最寄り駅からふた駅。VR拡張遊技試験開発特区直営アミューズメントパーク。カラーバーが意匠されたロゴで、お馴染みの、”VRーSTATI◎N”だ。




