2:スキヤキシルシ、起床
2017/02/23 9:39 やや、難航しました。設定変更はありませんが、面白くするために、手を入れるかもしれません。よろしくお願いします。
AR・VR対応のデータウォッチを確認する、灰色髪のサイボーグ。
目の前の映像空間は、砂嵐のままだ。
次に、頭の上の小鳥を外して、手元で観察する。
白目をむいたままで、一切応答なし。設計制作者本人が、問題ないと言っていたから、バグったり壊れたりは、していないと思われる。
「懐中電灯に使えるか?」
少年は、小鳥型ライトを地面に置いた。
「さて、どうすっかな。まずは、通信機能がダメだろ。あと、表示周りも、消えたままで、ダメと」
置いたばかりの抹茶色を、指さしてみる。
『LV11:小鳥』
ヒョコリと、抹茶色の頭上に表示されるHUD。
「あれ? 出るな」
「俺の状態を表す、いろんなゲージとかは出ない」
少年は、腕の武器スロットから、単発銃を取り出したり格納したりしてみている。
「すまん小鳥、ちょっと叩くぞ?」
ぼかり。
小鳥はボールのように跳ねて、倒れた。
頭をさすってやりながら、元の位置にたてる。
次に少年は、自分の頭も叩いてみた。
左右を見渡し、視線だけを動かしたり、急に真後ろを振り返ったりした。
「ダメだな。マジで出ねえや。自分の状態がわからん。小鳥のHPバーも表示され無えーし」
「なんか、どんな形でもいいから、HPとかMPとか読み込んで、強制的に見る方法ねえかなー」
「音声入力」「ライブラリ検索」
「強制音声入力」「量子ビット精査」
彼は、VR空間でも使えるはずの、音声コマンドを唱えた。
……ギャイッ……ギョーーッ……。
遠くの方から、動物の雄叫びみたいなのが、届く以外は静かなものだ。
「しゃーねー。コンソールから直打ちで」
データウォッチの表示板を指先で叩く。
『Quby 3.0.1p76 (2016ー1ー11 revision 34) [Qcore706ーDW128]
QC:¥VRID¥@shovel_steak>_』
文字盤の上に表示された、15センチ四方。
少年は、その表示を指先で動かして、目の前の見やすい所へ張り付けた。
「うん、コンソールは出る」
「じゃー、何でもいいから、……つか、HPとMPが表示できて、RPGのバトルシステムに適合するモノなんてさー……」
彼の口が、パカリと開く。
「ココ、ひと月、ずっと作ってきたじゃんか……」
『QC:¥VRID¥@shovel_steak>battle_mode.exe■』
スススススッ。手の甲に走る指先。
「どうだ?」
手の甲をつつく。
『QC:¥VRID¥@shovel_steak>battle_mode.exe
’battle_mode.exe’は、内部量子状態参照コマンドまたは外部参照コマンド、操作可能なプログラムまたは拡張ビットファイルとして認識されていません。』
「ふぬ?」
彼が、ひと月かけて作ったモノは、動かなかったようだ。
『QC:¥VRID¥@shovel_steak>dir』
スススッ、トッ。少年が、今、参照できるファイルリストを表示させる。
『―――、―――、―――、―――、
禍祓グリッドシステム115.exe、―――』
ズラリと表示された、中の一つ。
日本語で書かれたファイル名を、指先で押した。
ビュワワワァン♪
『彼の血に蛮勇が降り立ち―――』
見おぼえがあるIP表示をキャンセル。表示されたGUIメニューの中から、『EDITER』をつついた。
上下を多数のアイコンで飾られた、画面が現れる。
その真っ黒い中央部分の左上。蛍光ブルーの、『_』が点滅している。
「よし、エディタは、直接、起動できる!」
彼にとって、必要最低限だが、それでも、ギリギリ、好ましい状態であったようだ。
「―――使えるけど、手先で入力するのはキツいな。画面ちっさいし」
アイコンを押して、キーボード表示を出現させる。
何かを、打ち込もうとした手が止まる。
2本指での、盤面を叩く。画面が再び『コマンドプロンプト』へ切り替わった。
『QC:¥VRID¥@shovel_steak>tasklist_』
スススス、ススススッ、トッ。
今度は、今、腕時計上で動いているプログラムのリストを表示させている。
『―――、
DINNeRVeNDeR_ANALYZeR、
――――――、―――、―――、―――、――――――、―――』
「これ自動屋台追跡アプリじゃん。起動させっぱなしだったっけ? わすれてた」
新たなリストの中の、最初の方。やたらと長いアプリケーション名に、注目している。
「切っとくか……いや、まてよ?」
ビュワッ。
少年の腕時計から、小さなMAP画面が浮かび上がる。
現在位置である、VRーSTATI◎Nが中央に配置され、その上に、二重丸とその内訳が表示されている。
MAPの左下、ジオ・レール乗り場の近く、四角い自動屋台アイコンが点滅している。
「あれ? 自動屋台、しばらく出没予定無かったはずだけどな。ワルコフに、仮想電子戦で負けて、スケジュールでも狂ったのか?」
少年は四角いアイコンを押して、追跡モードにした。
「もし、早くダイブアウト出来たら、先生にコレ、教えてやらないとな」
次に彼は、『 ◎ 』を指でつついた。
『LV7:@SIGN†OGRE
HP :■■■■□98%
MP :■■■■■MAX
状態 :正常』
「おし、出た。俺のキャラがちゃんと登録されてる。最悪、データウォッチで、自分のステータスを確認することは出来るな」
一息吐き出す、サイボーグ。灰色の髪が揺れる。
「じゃあ、ほかになんか、ねえか? なんでもいいから、ゲーム、出来ればHP表示がある、対戦ゲームの体裁をとっててくれりゃ、ホント、何でもいいんだがな」
バリバリと頭を掻きながら、実行可能アプリケーションのリストを遡っていく。
「ねえか、さすがに。普段使いで立ち上げっぱなしの軽量アプリで、対戦ゲームなんてするバカも、させるバカも居ねーよ」
頭を掻いていた手が止まる。
「……なんでか、コウベのゲッヒッヒ笑いが、急に蘇ってきやがった」
サイボーグは、渋い顔をしている。
「……ダイブアウトしたら、小鳥にツツいてもらわなきゃな……―――居た!」
驚愕の表情。口の端から延びているモールドが、強調され、腹話術の人形感が増した。
「居たよ、居た居た、すっかり忘れてた」
額を片手でつかむ。地面を睨み、顔を上げた。
「普段使いのアプリで、対戦するバカアプリなんか、作ったバカヤロウが!」
少年がリストから選んだのは、『自動学食アプリ』だった。
彼の言う、バカアプリとは、自動学食の出没地点を予測するアプリのことだ。そして、ソレを作ったバカヤロウというのは、項邊歌色のコトだった。
「コレのフェイズ2って、よりにもよって格ゲーじゃねーかよ!」
アプリが立ち上がり、小さなタイトルロゴが表示される。
「スキップできないし、基本5秒で決着つくわで、何だかんだで、結構みんな真面目に観戦してたよなー」
小さな盤面から、アプリを摘んで、引っ張り出す。
「カレーオムレツVS大盛りチャーシュー麺の、凄まじい寝技の応酬なんて、未だに語り継がれてるもんな」
そして、開きっぱなしのエディタ画面の隣に、同じくらいのサイズで張り付けた。
「んーーーーっと、通信できないから、学食の出没予測は、出来ないか」
「あれ? じゃあ、さっきの自動屋台は、何で、30分後に出没するって、予測結果が出てたんだ?」
「今、俺は、直接量子サーバーとアクセス出来ない」
親指を曲げる、鋤灼驗少年。
「当然、自動学食アプリは動かない」
人差し指も、曲げる。
「なのに、俺が作った自動屋台アプリは、動いた」
中指も曲げる。
「そういや、……”自動屋台予測アルゴリズム”の出どころは、ワルコフじゃん」
薬指も曲げる。
「えーっと。こんな時、先生なら、どう言う? どんなリアクションをする?」
指を曲げたまま腕組みして、首を傾けた。
「―――オープンチャンネルゥ経由でぇー、現実のぉデータウォッチがぁー、受動的に拾ってるぅー情報をぉー元にー、うっふふふふぅーーふわぁふわぁー❤」
たどたどしい声色。舌足らずなイントネーション。
とか言いそうだよなー。
「……オープンチャンネル? 処理するデータが有りさえずれば、―――あとは機械が全部やってくれるんじゃねえか?」
小指も曲げる。
「量子サーバーの拡張ビット、……量子もつれの範囲内で、俺のクラウドデータを参照することだけは出来るし―――」
埋まった五本指。
「―――要するに、ワルコフ公開の、自動屋台予測アルゴリズムと、歌色さん謹製の自動学食アプリの、良いとこ取りすれば―――出来た!」
ペチ!
握っていた拳を持ち上げ、手のひらに打ち下ろした。
「急ごしらえになっちまうけど、入学当初に思った事が出来そうだ……」
彼は、エディタへ向かって、オーサリングを始めた。
ウインドウ最下部には、『禍祓グリッドシステムVer2.0β』と表記が有る。
その画面左下の空白部分へ、開いているアプリを投げ込む。
即座に、エディタ画面の左に現れた、アイコンの並ぶバー。
同じように、腕時計経由で、引っ張り出してきた、彼の資産を空白部分へ投げ込む。
わずかに処理時間が発生したあと、画面右へ現れるバー。
そこに、複雑な形の大きいアイコンが、一つずつ、ゆっくりと並べられていく。
「よし、作り貯めしといた、nFAI対応の”俺定義関数と俺量子オペレーター”は全部使える!」
エディタ画面上に、カラフルなアイコンが次々と、埋め込まれていく。
「やべぇ、ちょっと面白くなってきた。ふへひひ」
少年は、驚異の集中力を見せた。
この集中力は、後に、『ノベルダイブの功罪』による、言語特化型のモノと判明する。
そして、すべてのパーツが、作り置きされていた状態だったからというのも大きい。
鋤灼驗は、ものの数分で、目的のプログラムを完成させた。
「出来るもんだなー。マジで出来ちまった!」
イェーーーイ!
ハイタッチする相手はいない。仕方なく、小鳥の頭へ、タッチ。
倒れた抹茶を、再び、頭の上へ設置する。
「えっと、アプリ名は、『カクトオ_プラグイン』で、いっか」
彼は、出来たプログラムから、実行可能なパッケージを変換生成する。
「さて、これ、出来たはいいけど、ココにいるのは俺一人じゃねえか。テストプレイも出来やしないという」
すべての画面を閉じて、出来たばかりの、拳を交えるドット絵と『VS格闘』の文字―――『VSアイコン』を押した。
少年の足下を囲むように、◯が引かれる。
自動屋台が無数に描いた、攻撃的なモノではない。
それは、点線で描かれていた。
同時に驗の、顔の横あたり、小さなHUDが多数表示された。
その色と形から、各種のステータス表示と思われる。
「バトルしようぜ!」
驗が叫ぶと、足下の点線で描かれた◯の端から、点線がまっすぐ延びていく。
ニョニョニョニョ、―――映像空間を埋め尽くす、砂嵐に飲み込まれた。
「相手がいないとなー」
再び横になるサイボーグ。
尻を掻いていると、突如響く、音声。
「ザザザッ―――関係各位に次ぐ、スターバラッド内、湖畔エリアにて、未確認NPC3体を発見。至急急行されたし、繰り返す、―――」
「白焚さんの声じゃん。管理者サイドの通話は、ノベルダイブにも届くんだなー」
ザッ―――ヴ、ヴュン!
白焚声に遅れて、巨大映像空間が、瞬いた。
ノイズが晴れ、小鳥テレビ電話が再開される。
目の前。巨大映像空間の中。
笹木環恩は、仁王立ち。
フンスッ!
なぜか、その鼻息まで届きそうな、やや険しい表情。
「あれ? 先生どうかしましたか?」
「―――オープンチャンネルゥ経由でぇー、現実のぉデータウォッチがぁー、受動的に拾ってるぅー情報をぉー元にー、うっふふふふぅーーふわぁふわぁー❤」
舌足らずな声色。たどたどしいイントネーション。
「とかぁ言いそうだぁよなぁー。」
口の端を曲げ、両目尻を人差し指で下げる。
そして、後ろ髪を、ワシャッワシャした。
「え? あれ? どういうことですか?」
狼狽する、驗少年。
「―――オプーンチャンネールゥ経由でぇー、現実のぉーデターウォチがぁー、受動的に拾ってーるぅ情報をぉー元にー、うっふふふふぅーーふわぁふわぁー❤」
繰り返される、舌足らずな声色。悪化するイントネーション。
「とかはぁ言ひそーおだぁよなはぁー。」
再び、口の端を極端に曲げ、目尻を思い切り下げる。
「先生はぁー、こぉおんな風にー、しゃべりまぁせぇんーかーらーっ!」
これは小鳥+鋤灼少年への、ちょっとした反撃も含まれていたと思われる。
「まさか、こっちの音声、……届いてましたか?」
コウベは気絶して、その映像を絶っていた。でも、小鳥が処理している驗の映像は、送信し続けられていたという事に、彼は気づいた。
「……先生゛、さっきの゛……鋤灼゛はん゛……に、そっくり゛でっせー……プププッー……クスクスケタケタッ!」
ゴドン!
ピクピクピク。
息も絶え絶えに、倒れ込む細身の巨漢。
折れ曲がる、B級映画の代名詞。
”悪夢の処刑人”は、”拳聖”の攻撃を食らった訳ではない。
単に、面白かったのだ。横隔膜が悲鳴を上げた結果、この成人女子生徒は、地面に沈んだのだ。ついさっき、メジロマンに喰らった傷もまだ、効いていたのかも知れない。
「鋤灼君がぁー、そう言うつもりなぁらあぁー、先生ぇー、いいえ、『拳聖:にゃんばるくいな』がぁ、尋常に受けて立ちまぁすよぉうーーーっ!?」
ガチガチガチン! パシャコン!
猫耳ヒューマノイドの、両肘に、刀と小型銃が出現する!
その足下を囲むように、―――◯が引かれた。
「わーっ! 先生ごめんなさい! つい出来心でーーーっ!」
「ズダッダンドギャドバァーーーッン♪」
ドコからか、聞こえてきた、彼には聞き覚えが有りすぎる、サウンド。
『NEW BLOOD、CHALLENGER! 新たな蛮勇が、この地に降り立つ―――』
目の前と、映像空間の中を逆向きに流れていく、対戦開始前の、割り込み。
「あらあ? 何ですかぁ? コレェ?」
虚を突かれ、素に戻る特別講師笹木環恩にして、拳聖。
『CHARACTER SELECT』
表示される、格闘ゲーム『トグル<人鬼入>オーガ』の、キャラクター選択画面。
軽快なBGMに、重なる合成音声。
「キャラクターを選択してください」




