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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
5:VRE研究部発足

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11/153

5:VRE研究部発足その1

2016/04/18 17:28 難航。

 ザクザクザク。


 コウベは、銀色に光るナイフで、自分の座る焦げ茶色の表面を、切り取っていく。

 厚みのある円盤状(ホール)に切り分け、ソレを8等分。出来たケーキ型の謎椎茸を、ナイフで刺してガブリ。


「凄くおいしそうね」ダラリ

「そうですね」ダラリ

 二人とも出ていない涎(よだれ)を、袖で拭(ぬぐ)う。


「フロアの底で、かじった、謎エリンギは、全く味しませんでしたけど、こう目の前で、旨そうにパクつかれると」


「謎食(エリンギ)をかじった? フロアの底は”異界”だって言ったのに……」

 気の毒そうな顔を向ける講師。

 あれ? 何かまずかったですか? とうろたえる受講生(シルシ)を、言い伝えの類だから問題無いわ、と宥(なだ)める笹木講師。


「そんなことより、”自動学食”に備えて朝は、コーヒーだけで済ましたから、もうだめ。お腹空いた」


「そんなことよりって、まあ、いいですけど、俺も、朝、バナナ一本だけなんで、もう無理です」


 すでに午後2時半を大きく回っている。”自動学食”に有り付くつもりで、二人とも朝から食べていない様だ。自動学食の日は生徒はおろか教職員の大多数も、朝食抜きで来るというアンケート結果が購買部横の掲示板に表示されている程だ。


「先生、もう学校出ないと、”自動屋台”に絶対に間に合わないですけど、どうしますか?」

 グゥーーーーー!


「……ワルコフさんの、圧倒的な技術水準《トポロジック・エンジン・ハック》の一端でも垣間見られれば、”自動屋台”じゃなくて、本物の高級料亭も目じゃないのよねぇー」

 グキュルルーー! 片手で腹を押さえ、もう片方の手で魔女帽子の頭を押さえる。

 埴輪(はにわ)の様なポーズで、頸(くび)を左右へ傾け苦悩の表情。

 ぐぐぐぐーーー! 再三(さいさん)鳴り続ける、腹の虫に、意を決したような笹木講師は宇宙服へ一歩歩み寄った。


「あのう、ワルコフさん? アナタについて技術的な興味が有ります。ちょっと時間がないので、率直に聞いてもいいですか?」


 ■ハイ、何デショウカ? ナンナリt_

 直立不動だった宇宙服が機敏な動きで、モミ手をし、首をわずかに傾ける。

 驗(シルシ)は、笹木講師と自分に見やすいように、位置を入れ替わり、制服の袖を持ち腕を水平に伸ばす。コウベはもう自身の接続で、ここに存在している様で、驗(シルシ)がいくら動いても、椎茸の天辺から微動だにしない。


「あなたは、プレイヤーではなく、NPCでもないみたいだけど、一体何なのかしらっ?」


 笹木講師は、目の前の宇宙服へ指を突きつけた。

 人間、空腹には勝てない。もはや一刻の猶予もなく事態を収拾し、一目散に”自動屋台”出没予測地点へ出発(しゅっぱつ)せねばならないのだろう。


 ■イイエ、私ハ、NPCデス。人造人格《アーティフィシャル・キャラクタ》βナンバー0002ノ、世界最古ノ、会話型アブダクションマシン、デs_ カチャカチャチャカチャララララッ!


 先ほどまでよりも、かなり早いタイピングで、即答してきた。


「人造人格《アーティフィシャル・キャラクタ》βナンバー0002!? わ、ほんとにお宝じゃないの!」

 と笑みがこぼれる。公表されてない、未発見のナンバリング・NPC。

正式稼働には至らなかったモノの、”初期フロア”のみ成らず、スターバラッド内部でもその存在が目撃されていた。

 βナンバー終息後、公式なNPCとして開発された、ゲーム内を自由に行動できるワンダリングNPCとしての、|メインヒーロー《REVOLVERーSWORD》やメインヒロイン(PLOT-AN)などがいる。


「あらでも、さっき、ポイントしたのに、何も表示されなかったわよ!?」


 ■ソレハ、息ヲ止メテイタカラデス_ カチャラララッ!


「息を止める?」

 そんな機能有ったっけ? とブツクサ言いながら、すーっと息を吸い込み、笹木講師は、自分の頭の上をしきりに指さす。


 腕を水平に保ち見やすくすることに専念していた驗(シルシ)は気づくのにワンテンポ遅れた。


「あ、待って下さい」

 驗(シルシ)は慌てて、笹木講師のきめ細やかで膨らんだ、頬の辺りをポイント(指さ)した。


「ほんとだ! HUD表示、出ませんよ!」

 すはぁ! と笹木講師が大きく息をすう。


「へー! 知らなかったわね、トポロジック・エンジンの、こんな機能。というかダイブ中に息を止めるなんて、必要ないから絶対にしないものね」


「そう言えば最初に、コウベと有ったときも、HUD出ませんでしたよ」


「あら。じゃあ、NPCはソレを知っていて、意図的にソレを使う(息を止める)事が出来るのかしら」


 ■ハイ、NPC(開発コード付)ハ、ソレヲ知ッテイテ、プレイヤートノ円滑ナ、関係ヲ築クタメニ、役立テテイマs_ カチャララララカチャララララ


 ■奇襲イベントヤ、プレイヤーニ知ラセル必要ガナイ、単ナル移動中ナドハ、息ヲ止メテイルコトモ多イデス_


「それは初耳だわ」

 音声入力、ボイスメモ、VRカテゴリ、息止めでHUD消える、NPCは日常的にソレを使う。先生はボイスメモをせっせと取っている。


「それで、何で、オマエ、”処理落ち”? なんかしてたの?」

 驗(シルシ)は何となく聞いてみた。


 ■先ホドモ、申シマシタトオリ、最古参ノ、NPCトモ成ルト、稼働時間ガ膨大ニナリ、必要ノナイ経験(ログ)ヲ圧縮スル必要ガアリマス_


 ■ソノタメ、定期的ニ、スリープ状態ニ入リ、リソースノスベテヲ使イ、全ソースノ精査ヲ、全力デ行ワナケレバ成リマセン_


「夢をみて重要な記憶を定着させたりとか、デフラグみたいなものか」


 ■ソノ両方デス。ワルコフデータベースに、入力サレタデータハ、”|量子メモリ内部デ実際にコラム構造”《P(パーソナル)B(ブレイン)C(キューブ)》化サレマス。ソシテ、人間ト同ジヨウニ、新シイ入力、特ニ対話ニヨル想起デ、呼ビ起コサレ、入力サレタ事ノナイ帰結ニ辿リ付イタリシマス_


「ふーん。でもオマエ、こんな人通りのある、”初期フロア”の、ど真ん中で、そんな、無防備な事してて平気なの?」

 現に、笹木講師にちょっかいをかけられている訳で、驗(シルシ)の懸念は正しい。


■ハイ、本日ハ、”自(フル・オ)動(ート・ケイ)学(タリング・)食(システム)”ノ開店ニアワセテ、メンテ(・・・)ナンス(・・・)ヲスルコトニシタノデスガ、生憎アナタタチト出クワシテシマイマシタ_


「そっか。俺たちも、本当なら”自動学食”行ってたからなー」

「そうねー」

 とボイスメモを取り続けていた、笹木講師は、ゴツい腕時計に表示された時刻を確認し、

「あー、もうダメねー! 流石に、今からじゃ、間に合わないわー」

 と両手をついてガックリとうなだれた。

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