始まり
私の拳は、緑ローブに難なく躱された。
「えれぇ喧嘩っ早い嬢ちゃんじゃねぇか。会っていきなり殴りかかるなんてよぉ。」
緑ローブはにやり...と笑い、足を足で払ってきた。私は転倒した。
「すげぇな、嬢ちゃん。今のを背中で着地するかよぉ。」
私の意識は、そこで途切れた。
「ミルン!」
私は叫ぶと同時に起き上った。布団に寝かされていた。
「お父さん...クラミー...」
情けなかった。涙が止まらなかった。
「ミルン、ミルン...」
ミルンは隣にいた。
変わらず綺麗な赤の髪だ。寝息を立てていて、安心した。
私は、現実を確認しようとした。
これが全て夢だったならば。
そう思い、窓を見ると、光が空を舞っていた。
2対の光の羽たちが、まるで祝福の日を祝福しているかのようだった。
目を凝らしてみれば、羽たちは機人をどこかに運んでいた。
防御の為に丸くなったものが、そのまま利用されて網で簡単に運ばれているようだった。
私は目を疑った。息を吞んだ。目を背けようとした。
けれど、ミルンのことを考えればクラミーやお父さん、友達のことを探すべきだと思った。
幸い、目の届く範囲に彼らは見当たらなかった。
よく見れば、羽は軒下に居る者のみを連れ去っていた。
祝福の日を越えた者が連れ去られるようだ。
もしかすると、お父さんやミルンを助けに家の中に入ったことが功を奏したのかもしれない。
クラミーは、運ばれていなかった。
「おい嬢ちゃん。」
私が振り返ると、そこに緑ローブが居た。
私は後ろに跳び距離を取り、拳を構えた。
「いやいや、待ってくれよ嬢ちゃん。お前じゃ勝てねぇって。」
緑ローブはヘラヘラしながらそう言った。
「うるさい!やってみないとわからないでしょ!」
「だから、もうやったんだよ。」
私は思い出した。緑ローブに負けたことを、ミルンを抱きながら戦ったことを。
「なんで...ミルンを...私を...」
「あん?聞こえねぇなぁ。もう少しハッキリ喋れや。」
「なんで助けたのよ!」
私は大声で答えた。緑ローブが肩をビクンと震わした。
「急に大声出すんじゃねぇよ...。耳がキーンってなるだろうがよ。」
「なんで助けたのか聞いてるのよ。」
声を抑えてもう一度言った。無性に苛立っていた。
「なんで助けたかって...別に俺はお前らなんかどうでもいいからな。」
「じゃあ放っておけばよかったじゃない!」
「俺のせいで死なれたってなったら...バツが悪いだろうが...。」
そういうと緑ローブはローブを上げ、頭をかいた。
少し静寂が流れた。
「あんたは...あの襲撃とは関係ないの...?」
「関係ねぇよ。ピカピカ鬱陶しかったから家の影で寝ようと思ったんだよ。」
「そしたらお前が殴り掛かってきたって訳。」
バツが悪いと同時に、まだ世界には優しい人がいることに安堵した。そして同時に呆れた。
「カーテンを閉めればいいじゃない。」
「思いつかなかったんだよ。」
そういうとまた頭をかいた。さっきは気にしていなかったが、白と黒の混ざり合った髪だった。
落ち着いて相手を観察してみれば、気づくことがたくさんある。
まず目に留まるのは、防護靴を履いていること。そしてその防護靴が新品であること。
次に、ダボっとした長ズボンを履いており、ポケットが膨れていること。
作業着のようなものを着ており、各ポケットに赤い筒が入っていること。
その上に抹茶色のローブを羽織っていること。
胸には歯車と剣のマークが入ったワッペンが付いている。
よく見れば顔立ちは整っており、年齢は30代半ば程であること。無精ひげが目立つ。
吸い込まれそうなほど美しい、ライトシアンの瞳をしていること。
そして、家で読んだ本に書いてあった、どの種族の特徴も存在しないこと。
気づけば、男は目をそらし頬をかいていた。
「まぁ、なんだ。この光景ずっと見てるのも胸糞わりぃし、家入れや。」
「あなた、何者な
「待った。」
言葉を被せてきた。聞きたいことがあったのに...。
私が膨れっ面をしていると、男は言葉を続けた。
「日の出だ。」
オレンジが部屋を染めていた。
「おはよ~。」
「あれ?なんでお姉ちゃんがいるの?ここどこ?」
しまった、ミルンが起きる時間だ。
「ミルン、話せば長く
「あれ?おじちゃん誰?」
また言葉を被せられた。ちょっといじけてきちゃった。
「おうクソガキ。俺はおじちゃんじゃなくお兄さんだ。」
「分かった!お兄さん誰?」
「お、おう。随分物分かりがいいじゃねぇか...。俺はライアンだ。」
ミルンは素直ないい子だ。
「僕はね、ミルンって言うんだよ。」
「私はサリアよ。よろしく。」
「ライアンさん、色々聞きたいことはあるんだけど、まず初めに。あなたは何者なの?」
「俺が何者か、か...。」
ライアンは暫く思案した後、こう言った。
「ただの、しがないテロリストの成り損ないさ。」
「テロリストって言葉を知らないんだけど。」
ライアンは驚いた顔をしてこう続けた。
「テロリストってのは、あー、あれだ。ケッケッケ!全て爆破してやるぜ!止まらねぇぜ!みたいなやつだ。」
「つまり悪者ってこと?」
ミルンがズバっと聞いた。
「そもそも、爆破っていうけど爆弾持ってないじゃない。」
私もズバっと聞くことにした。
「というか、あなたはどの種族なの?本に載ってないんだけど。」
「待て待て一遍に質問すんなこんがらがるだろ。」
「俺が悪者かって質問だが、それはお前の立場に寄る。自分の主観を人に委ねるな。」
「爆弾ならここにある。このポケットに入ってる筒、全部爆弾だ。」
「そして、俺は人間だ。」
数秒の時が流れた。合点がいった。
「分かった!あなた、私たちを襲おうとしてたけど先を越されたんでしょ!」
「本当は私たちの村を爆破するつもりだったんだわ!」
「ねぇおじちゃん、人間は怖いんだよ?言葉も喋らないんだよ?」
私達は捲し立てることになった。当然だ。人間を騙るのならば。
「お前らどんな教育受けてんだ!」
ライアンは叫んだ。
「人間はそんな野蛮じゃねぇ!原始人と一緒にすんな!」
「でも、私達の村を爆破しようとしてたじゃない。」
「それはだな...俺にも事情ってのがあんだよ...。」
詳しく聞いてみれば、ライアンは魔神に恨みがあるらしい。(魔神は機神のことらしい!)
そして、私達の村を襲うと、機神が出てくると考えたそう。
機神はいい神様だというと、人間にとっては全く違うと返された。
なんでも、機神は人間の国を滅ぼし、全てを奪っていった大悪党だと。
「だから、俺は悪者になってでも大悪党を懲らしめようとした訳だ。」
ライアンは、「分かったか?」とでも言いたげに話を締めくくった。
「あなたにも事情があるのは分かったわ...。でもそれ私達の村はとばっちりじゃない!」
「うぐ...。それを言われると弱いんだ...。」
「お前たちに罪はないんだ。お前たちの親玉が悪いんだよ...。」
「本当なら、お前たちをどうにかして逃がしてから爆破しようと思ってたんだ。」
「それで準備のために、ここに家を建てて入念にやってたんだ。」
「それなのに、昨日の襲撃に邪魔されてよぉ...。」
「俺も!被害者なんだよ!」
ライアンは大げさにジェスチャーをしながら教えてくれた。
実際、どちらも被害者であることは分かる。
けれど、あの光の羽がなんだったのか分からない。
今はもう撤収しているようで、追いようもない。
私たちのこの思いの行き場は、同じ被害者であるライアンにしかないのだ。
「ねぇ、あなた。あの光の羽が何なのか分かる?」
私は尋ねた。
「ああ?そりゃ心当たりはあるが...。お前らじゃ勝てねぇよ。」
うぐ...それを言われると弱いんだ...。
「じゃあ、私がもっと強くなれば勝てるってこと?」
「そりゃ、どこまでも強くなることができればいつかは勝てるだろうが...。」
ライアンは気まずそうに答えた。
「勝てるのね?勝てるのよね!?」
「ああ。まぁ、その前に寿命が来るだろうが...。」
「勝てるのならいいのよ。」
「ねぇ、ライアン。」
「あなた、私の村を爆破しようとしてたのよね?」
「私たちの祖先が必死に建てた家を。教会を。」
「いきなり殴りかかった私も悪いけれど、小さい子供を抱いてる人を転ばせたわよね。」
「ねぇ、ライアン。」
「あなた、反省してるのかしら?申し訳なさはあるのかしら?」
ライアンが頭を下げた。
「本当に申し訳ないとは思っている。」
「だが、俺にだって事情が...。」
反省しているならいいのだ。
「ねぇ、一つ、些細なお願いがあるの。」
「ライアン、私を強くして。」




