祝福の日
昔の話をしよう。
アイファレイ帝国という人間の国があった。
その国では、新しい『人』を作る研究をしていた。
この世界には『竜人』や『狼人』など、(『亜人』と人間は呼ぶが)人間を狩る側が多く存在する。
年々、人間は減少しており、アイファレイ帝国もその影響を受けていた。
そこで国が打った対策が、『人間』を守り『亜人』を狩る新しい『人』...
即ち、『機人』の開発である。
そして、その計画は成功し、ある日一人の『機人』が生まれた。
そして、その国は一夜にして滅びることとなった。
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「ガオー!人間だぞー!」
お父さんの手は、いつ見ても大きい。
「人間めー!これでもくらえー!ドゴーン!」
弟のミルンは、いつ見ても小さい。
「ぐわー!やーらーれーたー!!」
「次はお兄ちゃんの番だ!行くぞ!人間アタック!」
クラミー、設定がずれてるよ...そこはガオーって言わないと。
「違うよ!人間は喋らないんだよ!お兄ちゃんの馬鹿!」
「ハハ...手厳しい... うぇーんサリアー!!」
「お兄ちゃん泣き虫だ。」
「はいはい、クラミーはちゃんと頑張ってるよ。私の自慢のお兄ちゃん。ミルンもそんなこと言わないの。」
これが私、サリアの声。クラミーとミルンのお姉ちゃんだ。
と言っても、クラミーは自分がお兄ちゃんだと主張してるけど...。数秒しか違わないのに。
「ハッハッハ...おっとそろそろ時間じゃないか?」
「あ!いけない!サリア!行かなきゃ!」
「え?どこに行くの?」
「サリア忘れたの!?今日が祝福の日だよ!」
忘れてた。
今日は祝福の日だ。私とクラミーが12歳になる日でもある。
祝福は、私達に戦う術を授けてくれる。
機神様の祝福を得て初めて、私達は機人と認められるのだ。
見慣れた教会についた。相変わらずボロだ。たくさんの12歳が並んでいる。
「ついに!祝福を受けられるね、サリア!」
「クラミー、街の外に行きたがってたもんね。今日のお別れ会が終わったら一緒に行こうね。」
祝福を受けて機人となったものは、一晩を軒下で過ごした後、街を出なければならない。
それまでは自由なので、私達はお別れ会をするという訳だ。
街の外のことを二人で話してたら、あっという間に私たちの番が来た。
「クラミー、サリア!12歳おめでとうございます!」
「ありがとうございます。シスターさん。」
「サリアー、楽しみだなー!一緒に外を見ようなー!」
「あの小さかったクラミーとサリアが...。なんだか涙が...。ごめんなさい、祝福ですよね。今始めますね。」
「シスターさん泣いてんのー?」
「泣いてなんていません!さぁ、前から伸びてるコードをお腹に差してください。」
このコードを差したら、私たちは機人になるのだ。
「お先ー!お兄ちゃんだからねー!」
サリアはもう差しちゃった。もう少しこの気持ちを感じてたかったけど...
私も、コードを差した。そして眠りに落ちた。
目が覚めても、特に変わった感じはしなかった。
けれど、私たちは確かに機人に成ったのだ。
「サリアー、何かいい気分だね!」
「これで外に出られるね!お兄ちゃん。」
「はいはい、クラミー、サリアもちゃんと祝福授かりました。機人おめでとう。」
「シスターさん、ありがとうございました!これで僕外に行けます!」
「頑張ってね。お別れ会には行きますからね!ほら、後がつっかえてるから!早く出て!」
そして、教会を後にしたのだ。
「せぇの...クラミー、サリア!機人おめでとー!」
「「「「「おめでとー!」」」」」
ミルンの掛け声に合わせて、皆が祝ってくれる。
「みなさん、今日は僕のために来てくれてありがとう!」
「クラミーのために来たのは俺だけだけどなー!」
クラミーの親友のラッツェルだ。毎回ウインクしてきてちょっとうざい。
「私達はサリアの為に来たもんねー!」
「馬鹿のクラミーなんて知らないよねー!」
私の親友のリーシャとラーシャだ。いつも通り、二人とも息ぴったり。
「わ、私はクラミーとサリア、両方のために来ましたよ!」
シスターは、オフの時はちょっとかっこ悪くなる。でもかわいい。
「ハッハッハ、お父さんもどちらも愛しているぞー!」
お父さんが頬擦りしてきた。髭が痛い。けど温かい。
それからは、たくさんご飯を食べて、たくさん喋った。たくさん笑った。
「クラミー!それは俺が取ろうとしてたんだ!」
「へへん!早い者勝ちだよラッツェル!」
「サリア、私たちも祝福を受けたら追いかけるからね!」
「サリア、私たちが祝福を受けた頃になったらゆっくり歩いてね!」
「私は...ヒック!大人なのでお酒を飲みまーしゅ!がぼぼぼぼぼぼぼ」
「お父さんがお前らくらいの時はなー?...
時間はあっという間に過ぎてしまう。
楽しかったお別れ会も、もう終わってしまった。
ラッツェル、うざいけどいいやつだった。
リーシャとラーシャから貰った集合写真は、大切にする。
シスターは、だらしなかった。お守りをくれた。かわいかった。
そして、私とクラミーはリュックサックを背負ってお父さんとミルンにこう言うのだ。
「あ、ミルン。お父さんを労わってあげてね。」
「ふんだ!馬鹿お兄ちゃんがいなくなって楽になるよ!」
「労わってやれってなんだー!お父さんはまだまだ元気だぞー!」
クラミーは一言余計だ。
「ミルン、いっぱい食べて大きくなってね。」
「お父さんも、変わらず元気でね。」
「うん!ミルン、お姉ちゃんをいつか追い越すよ!」
「サリアは優しいなぁ。お父さんもっと元気になっちゃうもんね!」
私も一言余計をしちゃった。
今度こそ。
「「行ってきます!」」
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うちの軒下で、私とクラミーは今夜を越す。周りの家の軒下にも、たくさんの機人がいる。
そして明日の朝、まだ陽が昇らない頃に街を出るのだ。
「ねぇサリア...。夜って怖いね。」
「クラミー、もう泣きごと?機人はそんなこと言わないよ?」
「だってサリア!この街の伝説知ってる?怖いに決まってるよ!」
「なにそれ、聞いたことない」
「実はこの街の下には、見たこともない生物の骨がたくさんあるらしい!」
「しかも、良く分からない文字で書かれた本も埋まってて!」
「その本には、僕たちのことがたくさん書かれてるらしい!」
「ラッツェルが言うには、これはきっと人間の家が近くにあるってことなんだって!」
「はぁ...クラミー、それラッツェルに騙されてるよ。」
「でもほんとに人間が出てきたら... 怖いよサリアー!」
「えー、ほんとに人間が出てきたらー?私たちは祝福をもらって戦えるようになったんだから、私が追い払ってあげるよ。」
そんなことを言い合いながら、夜は過ぎていった。
「サリア!サリア!起きて!人間が来た!」
「まだ夜だよクラミー...人間...?」
「サリア!人間が来たんだって!こっちに来てる!ほらあそこ!」
光がたくさん、空からこちらに向かってきていた。
「んー...?あれ人間じゃない気がするよ?クラミー。」
「でも街の外から来てるってことは敵だよ!空を飛んでるってことは...竜人かも!」
「竜人!?確かに空を飛んでる...皆に知らせなきゃ!」
「多分知らせてる時間ない!もうそこまで来てる!というか多分僕たちも目をつけられてる!」
「取り合えず逃げよう!クラミー!急いで!」
「でもサリア!ミルンとお父さんが家に!」
「あー!!家に入らなきゃ!」
家の中は、妙に静かだった。
「もしかして...ミルンとお父さんはもう...!」
「そんなこと言わないのクラミー!」
「私はミルンの部屋に行く!クラミーはお父さんを!」
ミルンは、いつも通り寝ていた。
けれど悠長に和んでいる時間はないので、そのまま抱っこして連れ出した。
「クラミー!まだ!?」
「サリアー!お父さんが...お父さんが動かない!」
慌ててお父さんの部屋に行くと、お父さんは丸まっていた。
こんなこと今までで一度もない。
「お父さん、お父さん、動いて!お願い!」
「お父さん!もっと元気になるんじゃないの!?サリアに言ったでしょ!」
光が、そこまで来ていた。
「クラミー、もう時間がない!お父さんは置いていくしかないよ!」
「サリア!?置いていくなんてそんな、出来るわけない!」
「クラミー、お父さんならきっと大丈夫だよ!元気だって約束したじゃん!」
「サリアー!サリアー!」
「...」
クラミーまで、固まって丸くなってしまった。
私は訳が分からないまま、ミルンを抱いて逃げ出した。
きっとあれは防御なのだ。
私は教えてもらえなかったけど、きっとあれは防御なのだ。
だって、クラミーはあのままお父さんを置いていけなかった。
けれど、お父さんは私たちで運べるほど軽くなかった。
あれは、きっと防御なのだ。
そう信じながら、私は走って街の外へ向かっていた。
ほかの家や教会の前にも、丸まった機人がたくさんいた。
私も、教えてもらいたかった。
そしたら、こんなに怖くなかったのに。
時間に身を委ねられたのに。
けれど、ミルンは自分を守れない。
丸まっていないのがその証拠だ。
私が守らなければならない。
そのために私は此処に生まれたのだ。
丸くなっている門番さんを横目に、街の外に来た。
後ろで聞こえる音から耳を逸らしながら、私は森の中へと逃げ込んだ。
枝や葉が私を何度も切りつけた。
ミルンだけは、守らなければ。
そうして、いくら走っただろう。
気付けば森を抜け、山の上へと来ていた。
そこには家があった。粗末な家だ。
その家から緑のローブの人が出てきた。
私は機人だ。もう戦える。
ミルンを守るため、私はその人に殴りかかっていた。




