目覚めた少女との約束
時間は少し遡る。
屋敷の食堂に地鳴りの様な音が大合唱……いや、オーケストラ演奏でもしているかの様な音を起てている。
オーケストラと言っても優雅な音色では無く唯只管煩いだけの騒音でしかないが。
「ゲイズ………食糧庫から食材出してくれたら料理するよ。」
「バカ言え、それをやって万が一壁のシミになったら溜まったもんじゃない。」
「大丈夫、骨は拾ってあげるから。あと、壁のシミ抜きも請け負うから。」
「ふざけんな!何でシミになるの確定みたいな言い方してんだよ。」
「ゲイズ、大声出すとまた腹に響く。確かに朝食食べてから何も口にしてないからね、一か八か試したくなるのは分かるよ。」
「そもそもボウズか言ってた結界って何に対して反応するんだっけ?」
「………確か………害意だったと思う。」
「えっと……多分この土地で略奪行為やレン君に殺意を抱くと反応するんじゃないかな?」
「するってぇと、食糧庫自体には何の仕掛けも無いって事か?」
「「…………。」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
〜 翌日 〜
ドアをノックする音で目が覚めた。思ったよりも疲れていたのだろうか、起こされる迄寝ているとは思わなかった。
一応部屋には結界魔法を張ってはいるからまず侵入する事は出来ないだろうが。
カーテンを開けると外はまだ夜明け前だった。おいおい道理で早い訳だ。
「はい、何でしょうか?」
「お休みの所申し訳御座いません。エルフの少女の意識が戻りました。」
良かった助かったか、このまま目が覚めないのではと不安だったんだ。
「分かりました、直ぐに行きます。」
部屋に入って最初に見たのは少女のあまりにも生気の無い顔色。まだ血が足りないのだろうか、それとも心因的な物も含まれているのか……いや、両方だろうな。
「貴方が私を助けたのですか?」
か細い声でエルフの少女は聞いてくる。
「助けが間に合わず申し訳有りません。僕が異変を感じて来た時には倒れている貴方を見つけるだけで精一杯でした。」
「本来なら救けてくれた事にはお礼を言うべきなだろうけど、正直あのまま見捨て置いてくれた方が嬉しかったです。」
「辛い思いをされたのでしょうが、どうか生きる意欲を捨てないで下さい。」
もしかしたら親しい人を失ったかも知れない、死ぬよりも悲惨な体験をしたのかも知れない、けど、彼女はエルフの中でもまだ若い部類に入るはず。
簡単にではないのだろうが、生きる希望を失って欲しくなかった。
「簡単に言わないで!片腕、片脚、片眼でどうやって生きろと言うの?貴方みたいな少女が一生涯面倒を見るとでも言うの?
言っておくけど、エルフの男は此処までズタボロになった私を同情こそすれ嫁にする様な酔狂な者なんか居ないわ。それでも生きろと言うの?」
半端八つ当たり気味に捲し立ててはいるが、彼女が言うように恐らくエルフに限らず人間の国でも同様の扱いを受けるだろう事は想像に難くない。
ならば彼女が生きる希望を少しでも持てる様に尽力してやるのがエルフの里に対する恩返しの一旦になるだろう。
「気を落とさないで下さい。貴方の身体は僕が必ず元に戻してあげます。そうする事が里の人達が僕を一人の人間として接してくれた人達に恩を返す事になると思いますので。」
「簡単に言うけど、貴方みたいな子供に何が出来ると言うの?気休めなら辞めて。伝説のエリクサーだって肉体の欠損までは治らないのよ。そもそもエルフの中にだってそんな物は御伽噺にしか出て来ない。下手な希望を持たせようとしないで!」
魔族の女性兵士の方を見ても首を縦に振るだけでそんな物の存在は無いと肯定している。
成程この世界には薬学もあまり発達していない傾向にあるのかも知れない。治癒魔法ですら瀕死の重傷から回復させるのはごく一部の高位の術者しか居ない可能性が高い。
魔族は回復術が苦手な種族だから多少薬学が発達しているのだろう増血剤などがそうである様に。
だが、レンは違う。前世の誰でも知っている人体の知識と前々世の魔法知識が合わされば、死者蘇生迄は無理でも部位欠損までは治せる。
実際に前々世では部位欠損を治す魔法も魔法薬も存在した。当然だ自分で開発したのだから。
正確にはストレージにある世界方陣錬金術大全から必要な知識が常に流れ込んでいる若干の記憶から理解しただけなのだが。
とはいえ、目下の問題は材料の採取と必要な器材、機器等を一から造らなければならない事だろう。
取り敢えず目下の目標は恨まれようが、罵られようが生きる意欲を捨てないで貰うことだ。
その為には一人では無理だ、協力者が必要になる。それも恒久的に協力出来て信用が出来る者が。
「直ぐにとは行きませんが、必ず身体を再生する事をお約束しますよ。」
「全く子供って残酷ね。分かったわ、助かった以上死ぬなんてバカらしいし期待しないで気長に待っていてあげるわよ。」
「有り難う御座います。」
満面の笑みで答えると、彼女は困った様な困惑した様な顔で。
「おかしな子ね。救けて貰ったのはこっちなんだから御礼を言うのは私の方の筈よ。
では、改めて御礼申し上げます。私はエルバフの里のエピルフとアリシアの子アルリシア、エルフの誇りにかけてこの御恩は返させて貰うわ。最もこの身体で何が出来るかは分からないけど。」
アルリシアは残っていた右手を自分の左胸、恐らくは心臓を押さえる仕草を取って宣言した。
「取り敢えず今は身体を休めて下さい。動かせる様になったら僕の家に移動しますので。」
「え?」
「え?」
僕何か変な事言ったかな?と首を傾げていると。
「此処が家なんじゃないの?生活感もあるし、長年とまでは言わなくても数年は暮らした様な雰囲気は感じるわよ。」
「あぁ、この家は本宅が出来上がる迄の仮の住処だったんですよ。」
「仮の住処って……この部屋だけでもかなり広いんだけど。下手したら長老の家より広いんじゃない?」
確かに外観こそロッジの様な様式だが、中は前世である日本の建築様式と前々世の魔法陣技術を使っている。居心地と言う面で言うならエルフの里のどの家でも足元にも及ばないだろう。
最も人間種族や魔族の街にも行った事が無いので、どの程度の生活水準かも分からない。
エルフの里がとんでもない程の田舎だと云う可能性もあるのだ。
あわあわ言ってるアルリシアの面倒を女性兵士に頼み階下に居る魔王と話をするべく降りて行く。
「やあ、おはよう。彼女起きたんだって?」
「ええ、まだ動かせる状態ではありませんが、何とか持ち直しました。」
意を決して頼み込む。
「お願いがあります。兵士の方を暫く貸しては貰えないでしょうか?」
「理由を聞いても?」
「まず、薬の材料の採取と器材作製に必要な素材を集める為には僕一人では時間が掛かり過ぎる事と、必要な材料にどうしても北のダンジョンに潜らなければならない為です。」
「薬とは?ポーションの類や既存の薬なら此方で提供出来るが?」
そうだった、まだ事情も話して無かった。
先程のアルリシアとの遣り取りを掻い摘んで説明した。特に彼女の生きる意欲を失わせない為と薬の生成にも時間が掛かる事だけは強くアピールしながら。
「成程、薬の材料集めや生成に全力で取り組めば時間が無いのも頷ける。では、彼女を此方で預かる事も出来るが、それも出来ない理由でもあるのかな?」
「その辺は後で確認しますが、圧倒的に手が足りないのは本当です。只でとは言いません、薬が出来た暁には完成品の半分を魔王様に御渡ししましょう。」
「魔王様等と呼ばないでくれると助かる。
あと、恐らくはエリクサーを作ろうとしているのだろうけど、報酬と此方の労力が釣り合ってない。それにもし出来なかった時の支払いはどうするんだい?」
「作ろうとしているのはエリクサーではありませんよ。
作ろうとしている薬の名前は"アムリタ"と言います。エリクサーは"アムリタ"の生成の時に出来る副産物に過ぎません。報酬が多過ぎると言うのであれば、追加で頼み事が出来た時に引き受けて頂ければ問題は有りません。最後に出来ないと言う心配は要りません、既に生成法は出来上がってますから。」
「それは本当かい?異種族間それも魔族の王族に対して前言撤回は通じないよ。」
「其処まで言うのであれば前金で金貨300枚でどうですか?満足行く働きをして完成に貢献したと判断したらアムリタとエリクサーで貢献度に合わせて追加報酬って事で。」
ストレージから金貨が100枚入った革袋を三つ出して見せると、流石のベルフェ王も鳩が豆鉄砲を食らった様な顔で頷いた。
この森に住み着いた時からエルフの里や森の浅い所に住み着く盗賊等を討伐していたので戦利品として金は持っていたのだが、人里に近付かない為に使う事も無くストレージの肥やしになっていたのだ。
まぁ、全く金銭価値は分からないのだけども。
「交渉は成立たが、先ずは君に金銭価値を教える所から始めないとならないようだね。」
ベルフェ王はニッコリと笑いながら言った。
やっと時間が取れる様になって来ました。
時間が取れる内にサクサク投稿したいと思います。




