エルフの里から拠点へ 1
遂にレンの実力が明るみに出始める。
「先日ベルフェ王からの提案もあってアルリシアさんの身柄を魔族の国で保護するか、当初の予定通り僕の住処で療養するか本人の意思を尊重する形を取ろたいと思います。」
拠点から大急ぎで帰ってからベルフェモンと話していた通りアルリシアさんの今後を本人に決めて貰うことにした。
「それって、魔族の国に行ったら貴方とはそれっきりって事?」
アルリシアさんが半端呆れた様な顔で聞いて来る。
「いいえ、頻繁に顔を合わせる事は無くなるでしょうが、治療薬の作製はちゃんとやりますよ。最も出来上がりは結構後になるでしょうが。」
「何故?」
「一つは魔族の国へ行くのに時間が掛かる事と、今現在家に来ているお客さんを森を抜ける迄送る必要がある事ですね。」
「その客って何で来てたの?何度も来るの?送る間は私は独りで其処に居なきゃならないの?」
声こそ荒げてないが、静かに問い詰める様な声音で聞いて来る。
「勿論独りにする事はありませんよ。兵士の方を雇っていますし、メイドも一人居ます。なので、安心して下さい。」
ホッとした表情を浮かべるアルリシア。
「ベルフェ王、此れは答えを聞く迄も無いようですね。」
「そのようだね。」
まあ、当初の予定通りになっただけだ。
「では、予定通りに移動しましょうか。」
「どうやって移動するの?悪いけど私は見ての通り歩けないし、誰かが背負って歩いてくれるにしても相当な負担になる筈よ。」
「大丈夫、考えて有ります。」
ストレージから多脚車椅子を取り出して見せた。本当なら開発中の"アレ"が完成していれば"地上"を歩く事も無かったのだけど、無いものは仕方がない。完成までには後数年は掛かるだろう。
ベルフェ王は興味深そうに、アルリシアは微妙な顔をして見ている。
「此れは魔道具かい?普通の車椅子なら多くはないが、貴族や裕福な商人なら所持している者もいるけど。」
しげしげと周りを歩きながらベルフェ王が構造を確認する様に聞く。
「森の中を移動するので車輪だけの物より脚が生えてる車椅子の方が移動し易いと考えて作った物です。」
車椅子は前輪と後輪に別れており、間の椅子の横から六本の蜘蛛の様な脚が生えてる。
蜘蛛は八本の脚だが、六本で安定性も充分であった事から本数に拘る事なく製作した。
実を言うと、脚の部分は操作型ゴーレムで出来ており搭乗者を振り落とさない様にオートバランサーやその他諸々の安全機能を盛り沢山にした一品である。
その為少々見た目がゴツくなってしまっている。その辺は今後の課題だろう。
「こ、これに乗るの?」
「大丈夫ですよ。見た目は物凄いですが、搭乗者の安全確保の為にこうなっただけですから。」
「これを車椅子と言い張る貴方の方が凄いわね。」
「納得した所でそろそろ出ましょうか。女性兵士の方二名は家に着いたらアルリシアさんの介護をお願いします。男性兵士の方は……。」
「あぁそれなんだが、全員女性兵士で堅める事にしたんだ。彼女に何か良からぬ事考える者は居ないと思うが、不安要素は無い方が安心出来るだろ?」
有り難い申し出だ。しかし、魔族は魔法メインで闘うイメージがあったけど、女性兵士もガチガチの筋肉質だった。マッチョな男性程ではないが、引き締まった身体付きをしている。
道中の彼女の護衛は期待出来そうだ。
「僕が先行しますので、皆さんはアルリシアさんの護衛をお願いします。」
「いや、幾ら何でも危険ではないかい?方向さえ教えてくれれば纏めて護衛するよ。」
「いえ、基本的に僕の護衛は必要が有りません。魔物が出た際も討伐自体は此方でやりますので、兵士の皆さんは戦えないアルリシアさんの護衛に専念して下さい。」
「僭越ながら宜しいでしょうか?」
兵士のリーダーらしき女性が前に進み出た。
「どうぞ。」
「私共はアケーディア国の兵士、依頼主とはいえ子供である貴殿を護れぬ程弱卒では無いと自負してます。
魔の森の魔物とて命に換えても護り抜いて見せる所存です。」
「だからですよ。」
「え?」
「此れから向かう所は此処よりも北西に歩いて三日程の場所に位置します。これが何を意味するかは貴方方は理解出来る筈です。
命に換えてもと言いますが、無駄に犠牲者を出さない為の布陣ですので御理解頂きたい。」
戦闘のプロと言う矜持もあるのかも知れないが、むざむざ犠牲者を出して迄矜持に殉じさせてやる気もない。
「で、ですが!」
「その辺にしときなさい。」
「閣下!」
「君は鑑定眼持ちだったな、彼のステータスがみえるか?」
振り向くと彼女は此方を注視すると愕然とした表情を浮かべる。
「み、視えません。」
「どの程度視えない?」
ガクガクと震えながら兵士は告げた。
「な……何一つ視えませんでした。」
「そうか、薄々思ってはいたけど、彼は僕等とは隔絶した実力者の様だね。一体君は何者なんだい?」
「ただの人間社会に溶け込めない世捨て人ですよ。最もこんな場所に住んでいるせいか、レベルだけは徒に上がりましたけどね。」
「そうか、君が独りで居る意味が少しだけ理解出来た様な気がするよ。」
鑑定眼にも色々な種類があるが、ステータスチェックの鑑定眼は珍しいが数百人に一人の割合で存在する。
他にも嘘を見抜く審議眼、精霊を見る事が出来る精霊眼、アイテムだけを見抜けるアイテムチェック等、スキルの一種ではあるが、物によっては世界に一人等という珍しい物もある。
しかし、そんな鑑定眼にも超えられない壁がある。それがレベル差だ。
あまりにもレベル差がある場合は鑑定眼も弾かれてしまう。この子のレベルは一体どれ位なのか見当も付かない。
ただ一つ言えるのは絶対に敵に廻してはいけない相手だと言う事だろう。
そこ迄に考えが至った所でドッと汗が吹き出てきた。
出合い頭に喧嘩を売るような威圧混じりの挨拶だった事にそら恐ろしさを感じた。
直ぐに勘違いと解り謝罪したから大事には至らなかったが、レン君が少しでも喧嘩っ早い人間だったなら今頃命は無かったかも知れない。
いや、彼は年に削ぐわず達観した様な所もあるから、そうはならなかった可能性も高いのかも知れない。
だからと言って態々試す気にもならない。
多分だが、この森の魔物程度では相手にならない可能性ももある。もしかしたら北の霊峰に住む古龍とタイマン出来るかも知れない。
寧ろずっと子供扱いしてた私は物凄く不味いのでは……いやいや、気にした様子も無かった……かも?。
ベルフェ王が思考を巡らせながらも最後尾を着いてきた為、既に出発しているにも関わらず一緒に森の中を歩いていた。
「うわあ、見た目はアレだけど、意外と乗り心地は悪くないわね。」
「そうでしょう、なるべく揺れが起きない様に脚にはショックアブソーバを取り付け、椅子底にはオートバランサーもーー更に車輪にもーー等などー。」
「ゴメン、何言ってるか解らない。」
彼女とも少し打ち解けて来たのだろうか、最初のトゲトゲしい物言いが少なくなって来たような気がする。
ちょっとだけ彼女の様子を見てたのに気付くと、プイっと顔を背けてしまった。
「か、勘違いしないでよね!アンタが下手な希望を残す様な事するから、近くで見極めてやろうってだけなんだから。」
思わずブフォっと吹き出してしまった。
ツンデレ……前世の記憶ではあるけど、胤づく業の深い世界だったな。
「な、何よ!何か文句でもあるの?!」
「いや、失礼。ちょっと咽ただけです。」
二時の方向に反応あり。森に入ってから随時展開していた索敵魔法に大型魔物が引っかかる。
「皆さん、警戒して下さい。二時の方向から魔物が来ます。」
「え?我々には何の反応も……。」
「レン君の言う通りにしたまえ。彼は私達よりもこの森に精通している筈だ。けして彼女の側を離れないように。」
助かる!下手に動かれたら面倒臭いからな。やはり王族なだけはあって、実に賢明で的確な判断を下す。
人間種族の王族もこんなだったら民も幸せだろうに。
「あっ!本当に大型の魔物が接近して来ます!」
「全員戦闘に備えろ!」
木々を薙ぎ倒しながら巨大な魔物が飛び込んで来た。
「イービル・ボアだ!」
体長が三メートル程あり、牙の他に額から二本の鬼角を生やしている猪だ。
十メートル程の手前まで来ると同時に頭へとヒョイと飛び乗り、腰に帯刀している小太刀で頭に突き刺しグリっと掻き回して即座に離れる。
イービル・ボアは足を縺れさせて五メートル程滑った所で動かなくなった。
「え?………倒した?」
「いやぁ、見事な手並みだねぇ。」
呆然としているアルリシアと兵士達を他所にベルフェ王だけが感心した様にウンウンと頷いていた。
この程度で驚かれても困るんだけどな。苦笑しながら"今日の夜営の食事にしましょう"と提案すると、我に返った兵士達からキャーと歓びの悲鳴が挙がった。
イノシシ……美味しいと聞きます。作者は食べた事ありませんが 。
誤字報告有り難う御座います。




