人工生命体のメイド
ゲイズ、サリシャ、カイルの三名は着々と帰還の為の準備を進めて…………は居らず、屋敷の食堂でだらだらしていた。
正直帰還の準備などレンから貰ったマジックバックに最初から収まっており、何時でも出て行ける状態になっていた。
何故此処に留まっているかと言うと挨拶も無しに出て行く事を憚られるのもあったのだが、単純に帰り道が分からないのと魔物に何処まで対抗出来るのかも分からないというのが正直な理由だ。
当然と言えば当然と言えよう。魔物に襲われた際辛くもカイルを助け出すのに成功したはいいが、方向も分からないままメチャクチャに走り逃げ回り辿り着いたのがレンの屋敷なのだから。
情けなくて口には出せないが、レンの案内無しに彷徨うよりは待っていた方が建設的な案だろう。
まあ、約一名は別の意味で帰りを心待ちにしている様子ではあるが。
「旦那様帰って来ない、ゲイズ探して来て。」
「10歳児に懸想するな。あと、無茶言うな幾ら装備を貰ったからってこの森で一人で出歩く何て自殺志願者だけだ。」
「まぁまぁ、サリシャがレン君に夢中なのは置いとくとしても、まだ一夜明けただけだしその内帰って来るよ。」
「そうですか主様は居ないのですか、一体何処にいったのでしょうか?」
「何度も言ってるだろう、山の向こうに煙が昇ってるのを見て血相変えて飛んで行ったって。」
そこ迄言ってゲイズを始め全員が自分達以外の声がした事に気がついた。
「誰だ!」
勢い良く立ち上がりゲイズ、カイル、サリシャの三人が食堂の入り口に向かって警戒を強める。
そして、魔の森にあり誰も居ない筈の館に現れた侵入者の姿を確認して三人は困惑を隠し切れなかった。
「メ……イ……ド?」
「な、何でメイドが。」
「ライバル出現?」
ゲイズ、カイル、サリシャやっと絞り出した言葉に謎のメイドがニコリと微笑んだ。
「皆様はじめまして。自己紹介をしたい所で御座いますが、今は仮にアルファ(α)とお呼びください。」
そう言うと金髪碧眼の美人メイドは優雅な動きでカテーシーを決めた。
「あ……あぁ、俺はゲイズと言う、それからそっちの男がカイル、女がサリシャだ何だかよく判らんが宜しく頼む。」
「御丁寧に有り難う御座います。付かぬ事を伺いますが、皆様は主様とはどの様な御関係で御座いましょうか?」
ゲイズ達は困惑しつつもこの土地に辿り着いた経緯からレンに招き入れられ色々と世話になっている事を説明した。
「それはそれは皆様大変で御座いました。主様がお戻りになるまで私が主様に代わりお世話させて頂きます。どうぞ引き続きお寛ぎくださいませ。」
「あぁ、そうして貰えると助かる。」
「しかし、本当にお客人で良うございました。仮にも主様が不在時に入り込んだ侵入者と勘違いしてしまう所でした。」
顔こそ笑顔ではあるが、底知れない悪寒が三人の背筋を凍らせ冷や汗がどっと吹き出てきた。三人の脳裏に浮かんだのは"彼女を怒らせてはいけない"だった。
嘘は言ってないから恐れる必要は無いのだが、何かの行き違いで敵対されでもしたら話すら聞いて貰えるか分かったものでは無い。
聡明そうではあるが、要らん誤解を招けば万が一と言う事もある。此処は一刻も早くボウズに帰って来て貰わなければと祈るゲイズだった。
やれやれ途中で足りない材料を採取してたら昼まで掛かってしまった。
流石にゲイズさん達も心配し始める頃だろう。屋敷に到着し、扉を開けて入ると一人のメイドが出迎えてくれた。
「主様お帰りなさいませ。」
優雅にお辞儀をしつつ顔を伏せている金髪でスタイルも完璧なのではないか?と思わせるメイドが顔を上げた途端に驚いた様な表情で此方を凝視している。
顔に赤味が指したと思いきや、花が綻んだ様な笑顔を浮かべ一気に喋りだした。
「あらあらまあまあ。話を聞いていた所主様は若い男性かと思っていましたが、こんなにも可愛らしいお嬢様だったなんて。あぁでも、御髪が綺麗なのにバサバサになっておられますね、うら若き乙女が身嗜みを怠っては為りません。
この様な辺鄙な所に住んでいるからなのでしょうか、ささ、此方へ御髪を整えて差し上げますので。大丈夫で御座います、私に任せて頂ければ何処に出しても注目を一身に浴びる様なレディにして差し上げますので。
あぁでも、この館に鏡は一枚も見掛けませんでしたね。お嬢様鏡は御座いますか?無ければ今度購入するか、お作り頂けないでしょうか?ハサミと櫛は先程見つけておりますので大丈夫では御座いますが、些か散髪には向かないので散髪用のハサミもお願い致します。
それから………」
目が回るようなマシンガントークに一言も口を挟む隙が取れず、為されるがままに髪を整えられてしまった。生憎鏡を作る必要性が無かったのでこの屋敷には未だに鏡と言うものが無い。
それで無くても出来たばっかりの屋敷なのだ。その内風呂くらいには鏡を作ろうかとは思ってはいたが、広い屋敷に独りきりの生活である。
正直そこ迄必要性を感じてはいなかったのだ。流石に衛生面から風呂とトイレには拘ったが、細かい身嗜みにまでは考えてはいなかった。
見た目が少女と言われようが、中身は前世を含めると50代を過ぎたオッサンなのである。ズボラになるのも仕方がないと言うものだろう。
あれよあれよと言う間に髪を整えられてそのまま食堂へと引っ張っていかれた。
ミスリルブロンドと言われる青味がかった銀色の髪を此れでもか!と言うほど可憐な少女の様に左右対象に結ばれた所謂ツインテールしかも、毛房は縦巻きロールに仕上げられたレンの情けなさそうな表情にゲイズ達は飲み掛けの紅茶を盛大に吹いたのだった。
どうだ!とでも言わんばかりのメイドの得意げな表情に、どう説明したら良いものか思案を巡らせている傍らで、ゲイズは盛大に笑い転げ、カイルは笑いを堪えつつ顔を真っ赤にしている。
サリシャに至っては頬を染めてヤバ気な目付きで今にも襲い掛かりそうな体制でハァハァ言い出している。
流石にメイドな彼女も三人の反応に戸惑いを隠せない様子でレンに恐る恐る視線を向けた。
「あ、あのお嬢様、私は何かおかしな事をしたのでしょうか?」
「うん、とってもおかしな事をしたと思うよ。」
まじまじと此方の姿を頭の上から爪先までたっぷり二往復も視線を上下させて"あっ!"と思いついた様な表情で頭を下げて来た。
「申し訳御座いません!私とした事がとんでもない恥を掻かせてしまいました。」
「ウンウン、分かってくれたか。まぁ誰しも間違いはあるし、今後気を「御髪を整えてもお着替えを失念しておりました。」いいよ………え?。」
「お嬢様、御洋服は御二階で御座いましょうか?今すぐにドレスアップして差し上げますので、今暫く我慢なさって下さいね。」
「待てまてマテMATE!先ずはお互いの自己紹介から始めるべきだ!そうすれば色々な勘違いも解消出来るはずだ。」
声が裏返る程口早に捲し立てたが、どうやらドレスアップだけは回避出来たようだ。
それにしても大笑いの後から嫌に静かだな。三人の方へ視線を向けると、ゲイズは笑い過ぎて引き付けを起こしており、サリシャは幸せそうな顔で鼻血を出して気絶してた。カイルはサリシャの介抱で此方を見ていないようだ。色々融通してやったのを後悔しそうになる光景だった。
「申し訳御座いません。まさか男の子だったとは露知らず大変失礼致しました。」
「うん、これからは気を付けてくれればいいよ。それより君が何者かそろそろ教えてくれないだろうか?」
すると彼女は心底ショックとでも言わんばかりのリアクションでオヨヨ〜と泣き崩れる仕草までしだした。
「おいおい、ボウズが知らないってどう言う事だよ。アルファさんはボウズの事を主様っていってんだぞ。」
「アルファ?…………………もしかして。」
そこ迄言ってアルファと名乗った彼女の顔がパァァっと明るくなる。
「お解り頂けましたか主様?」
「あぁ、理解した。流石にまだまだ先の話だと思ってたから驚いたよ。」
「レン君自分達だけで分かり合ってないで僕達にも分かるように説明して貰えないだろうか?勿論差し支えなければの話だけども。」
カイルの言う事も最もだ。少し考えては見たが説明して理解出来るなら、この世界の文明レベルを測る上でも良い物差しになるだろう。
「外で作業しているゴーレムは見ましたか?」
「見たよ。はっきり言ってゴーレムが農作業しているのには驚いた。」
「あのゴーレム達は農作業を始め色々な作業をさせる為に開発した汎用ゴーレムです。」
「ゴーレムは単純な命令しか聞かない筈、何で農作業の様な複雑な作業が出来るか不思議に思った。」
流石は魔法使いのサリシャだ、ゴーレムの特性にも詳しいようだ。
「それは僕が開発したCDロムにあります。」
ゴーレムは本来単純な命令しか聞けないが、それだけでも人間の様に動ける非常に優秀な人工知能を備えてると言える。
ならば、より複雑な作業が出来る様に別口の作業プログラムを入れてやれば不休で動ける農作業用ゴーレムが出来ると考えた。
その試みは成功して100体の作業用ゴーレムが完成した。
より長く動ける様に使い捨てのクズ魔石ではなく、ドラゴンの様な大きな魔石を加工し、魔力充填が出来る小屋とセットで開発したのも功を奏した。
アルファはその発展型であり、金属骨格と生体部品が融合した人工生命体とも言える。
ゴーレムとホムンクルスの融合体と言えば解り易いだろうか?金属骨格と言えども、ドラゴンの遺伝子情報を覚え込ませた生体金属骨格だから自己修復も出来るし、金属疲労も解消出来る。更に頭脳部分には前世では実現不可能だった発展型記憶領域に感情回路、多重型魔法陣を重ね合わせた演算領域等、多岐に渡るシステムによりまるで人間の様な複雑な事象にも対応可能の筈だ。
魔石自体も下級ドラゴンの物なので竜族との軋轢も生じず非常に助かった。何故竜族が出てくるかは別の機会に話すとしよう。
閑話休題
「成程なぁ。」
「御理解頂けた様ですね。」
「いんや、全く解らなかった。」
「未来の旦那様、ゲイズに難しい話は無理。途中から聞いてる振りしてるだけだったから。」
まぁ、外見通り脳筋なのだろう。
あまりゆっくりしている時間は無い事を思い出す。
「すいませんが今日の夕方頃までには、また現地に行かなければなりません。
申し訳無いですが、もう暫く留守をお願いします。」
「そりゃ問題無いが何かあったのか?手伝える事があったら力になるぜ。」
「有り難い申し出ですが、お気持ちだけで結構です。」
「頼りにならないかも知れないが、出来る事があるなら遠慮なく言ってくれ。」
「有り難う御座います。でも、飛んで行くので大勢では行けないんです。それに……いや、何でもないです。」
流石に魔族と人間種族の関係が分からない以上余計な情報は伏せた方が良いだろう。
下手な事を言って闘いになるのは望む所では無いから。
「僭越ながら主様、留守の間にやるべき事があればご命じ下さい。」
確かにエルフの少女を連れてくるにせよ、一人では手が回らない可能性が高い。ましてや女のコだ男自分が何から何まで世話する訳にも行かないだろう。
「分かった、ならば二階の客室を使える様にして置いてくれ。それと、明日の夕方には帰る予定だから食事も多く作って置いて欲しい、更に人数が増えると思うから。大体4〜5人になる可能性が高い。」
「お任せ下さい。完璧に熟して差し上げます。」
「必要なら彼等ので手も借りると良い。」
折角の申し出だから協力して貰おう。そして、必要な資材とベースになるエルフの少女用の車椅子等をストレージに突っ込み再びエルフの里へと飛び立った。




