ミツギモノ
屋外におかれたテーブルの上には、どかっと盛られた肉、野菜、パン。
どれも油分塩分の塊のようなものばかりで全く洗練されていない田舎料理だが、そっちのほうがユーヤの好みにあった。
ミンマヤ村。
帝国との国境沿いにある皇国領の村。
20世帯くらいしかない小さい集落だ。
その集落でユーヤは、村人総出で歓待されていた。
50人ちょっと超える人数の人たちに囲まれての食事。
変に緊張して、まったく食べたてる気はしない。
村人たちはみんな笑顔なのだが、心の底ではユーヤを恐れているような、ぎこちなさが感じられる。
「ささ、神様、葡萄酒もたんと召し上がってください」
さっき杖を手に襲いかかってきた、おっさんが杯を傾ける。
この男はミンマヤ村の村長。
てんやわんやの後、ユーヤに無礼を詫びたいとすがりつき、ユーヤを村へと案内したのだった。
ユーヤとしても、行く当てもなく、泊まるところすら窮していたので渡りに船だったのだが…………、この事態は予想外だ。
「…………大変申し訳ないのですが、俺は神様ではなくて」
「ふふふ、何をおっしゃる。神でないものが魔導石を砕けるはずがありません」
ご冗談を、とグラスを傾ける村長。
杖の先のついていた石にそんな意味があったのか、と後悔しても時すでに遅し。
「神様が私たちの村にいらっしゃったんだ。どうか持て成させてください」
「…………はい」
もう、酔うしかねえっ、と注がれるままぐびぐび飲み干すユーヤ。
酒を飲むのは始めてで、すっぱいだけで美味いとも思わなかった。
けれど、だんだん体が火照って楽しくなり、天がくるくる回り出す。
世の異世界転生系主人公のようにチート能力を手に入れて、「え、俺、何かやっちゃいました?」みたいなポーズをとり続けることはユーヤには出来なかった。
身の程以上の力は身を滅ぼす。
ユーヤには調子に乗って舞台から落っこちる未来しか見えない。
宴もたけなわになり、村はずれにある一軒家に案内される。
「粗末で申し訳ありませんが、今日はこちらでお休みください」
中には綺麗なベッドと机。その上にたくさんの果物と酒であふれている。
「ささやかですが…………」
村長が指示を出されると群衆の中からひとり、素朴な花嫁衣装の少女が連れてこられる。
十代半ばくらいの、切れ長の目をした気の強そうな女の子だ。
「貢ぎ物です」
「えええぇぇ」
村長に背中をおされてむりやりお辞儀をさせられる女の子。
たしかに昔話のヤマタノオロチだったり鬼だったりの化け物は若い娘を好んでさらったり嫁に貰っていたと思う。
しかし、ユーヤは要求した覚えはない。
酒のせいでふらふらになった背中を押され
「さあさあ、ごゆるりとお休みください」
貢ぎ物と一緒に一軒家のなかに押し込められてしまった。
§
その女の子は部屋の隅でしゃがみ込んで、ユーヤを睨み付ける。
「す、好きにすればっ…………」
言葉とは裏腹に、その体は小刻みに震えて瞳には大粒の涙を溜めていた。
生憎、鬼畜趣味はないのでおろおろするしかないユーヤ。
「き、君は……………、なんて名前なの………………?」
落ち着かせるため雑談をしようと話しかけるが
「私は貢ぎ物。名前なんて捨てたわ」
震える声で半泣きになる女の子。
――――泣きたいのはこっちだ。
「……………………」
「……………………」
長い沈黙に包まれる。
沈黙に耐えられなくなった女の子はベッド脇のテーブル上においてあったワインを掴むと、ラッパ飲みする。ベールが脱げて、黒髪ショートカットの小ぶりな頭が露わになる。そして、とんがった三角が二つ――――。
「そ、その耳っ…………」
「わ、悪い?」
貢ぎ物の頭には猫耳が生えていた。




