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沙州遊行記~紅砂の城市~  作者: 天水しあ
巻の三「出生の秘密」
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「めぐらす計略」

そんな二人の強い気持ちが通じたか、好機が訪れたのは翌日のことだった。

 前日、珂惟かいと別れた茗凛めいりんは、すぐさま宿に帰り、必死に練習した。「まだ若いから」と出してもらえない夜の舞台の雑用も懸命にこなした。史一座以外の踊り子や楽人も参加する大きな舞台なうえ、彩花は家に帰ってしまいただでさえ人手不足なところに、昼間の疲れがどっと出るので、隙を見ては手を抜きたいし、しばしばそうしていた。でも今は、絶対に手を抜くわけにはいかなかった――だって明日も、出してもらわないとだから。

 翌日、茗凛はおかみの機嫌がいいときを見計らって、当分舞台後に珂惟と出かけたいと申し出た。もちろん苦い顔をされたが、「寺では一人でかわいそうだから!」とか「敦煌とんこう案内してあげたいから!」とか情に訴える作戦に出て、「私の舞台が終わったらみんなと休憩しないですぐに出かけるから。で、みんなが沙州賓館さしゅうひんかんに戻るまでには私も戻るから。もちろん、練習も夜の舞台の準備もちゃんとやるから!」と必死にすがり、渋々ながら了承を得た。

 そんな苦労はもちろん珂惟には黙っていたが、なにか察するところがあったのか、昼前に天幕にやってきた珂惟はおかみに「少しの間、茗凛さんをお借りしたいです」ときっぱりと言い切って、勢いに押されたおかみが、「ああ、いいさ。あんなんでよければいくらでも」と気前のいい返事をしていた。そこで、「おかみさん、ありがとう!」周りに聞こえるほどに大きな珂惟の感謝の言葉は、確実に言質とりだった。

 ということで、舞台が終わった後二人はすぐに、昨日の寺へと向かった。

 吐き出されるように門から琅惺ろうせいが出てきたとき、その背後に付き従っていたのはあの沙弥ではなく、然流ぜんりゅうだった。それを見た茗凛は「よしっ!」小さく呟くと、大股で歩き出し、

「あら、然流さんに琅惺さんじゃない! 奇遇ねえ、こんなところで会うなんて」

 いかにも「驚いた」という様を見せ、笑顔で然流に話しかけた。

「あっ、茗凛さんこんにちは。ホント偶然ですね、お買い物ですか?」

 と嬉しげに応える然流の顔色が変わった。茗凛の背後に珂惟の姿を見たからだ。

 茗凛はすかさず彼に寄り、小さく言った。

「お互い大変よね、監視なんて」

「えっ、茗凛さんもなんですか? ホント大変ですよねえ、お互い」

 たちまち警戒を解いたように声を弾ませる然流。茗凛はひそかにほくそ笑み、

「せっかくだから、ちょっとお話ししない? お互い気分転換は必要でしょ。うちの天幕だったら、あの二人も妙な真似はできないから、ね?」

 さらに身を寄せてささやくと、然流は「そうですね」とはにかみながら頷いた。


「まあ琅惺さま! お久しゅうございます。先頃は本当にありがとうございました。おかげさまで、うちもなんとかやっていっております」

「それはよろしゅうございました。おかみ、しばしごやっかいになります」

 琅惺が言うと、おかみはただただ平伏する。

 座長以下男たちは、一度荷物を置きに沙州賓館に帰っていたため、城壁の影に急遽敷物が敷かれた。すると、

「俺、眠いんだよね。ちょっと寝てくる」

 そう言って珂惟がその場を離れた。「私も講義の復習したいので」琅惺もそれに続く。

 然流はさっと顔色をかえ腰を浮かせたが、二人が反対方向に歩き出し、敷物から等間隔にある木の下で珂惟は横になり、琅惺は経典を紐解き出したので、ほっとした様子で座りなおした。

 なんとかしてあの二人を接触させてやらないと……そのためには、目の前の人物を自分に引きつけておかなければ。茗凛は心を決めると、「これで気楽に話せるね」と向かいの然流に笑顔を見せた。

 おかみが「おや、あの二人はいないのかい」とあからさまにガッカリした様子で、「だったらこんなにいいお茶を出すんじゃなかったよ」などと言いながら天幕に戻る。どうやらお客がいるようで、なんだか幕内が騒がしい。

 茗凛は出されたお茶に手を伸ばしながら、

「あの珂惟って人、なにかと問題児なんでしょ? 寺には置いとけないけど長安から来た客人で失礼もできないから世話するようにって……。おかげでこっちは色々と気を使わなくっちゃで本当に大変なの。そっちもそうでしょ?」

「そうなんですよ! 僕も珂惟さんが寺にいるときには、目を離すなって言われてるんです! 琅惺さんにいたっては、寺の内外に関わらず一人にしないようにと厳命されてるんですよ。お客人なうえ優秀な方のようだから、何かあっては事だと思ってるのかもしれないですけど、ちょっと過保護すぎるっていうか、やりすぎですよね。本当は琅惺さんには沙弥の方々が付くことになっているんですが、難解な講義に嫌気がさしたようで、今日は僕が無理矢理、その役を押し付けられちゃって……」

「そうなの。大変だったわねえ」

 不満を露にする然流を、茗凛は優しく宥めた。茶を一口含み、一呼吸を置く間にも、然流はまだブチブチ言っていた。ああうっとおしいと思った茗凛は、がらりと話を変える。

「そういえば然流さんたち、いつ寺に戻れるの? いつまでも通いじゃ大変でしょう?」

「それが……分からないんですよねえ。実は……僕も最近知ったんですが、なんかあそこ『出る』みたいで……壊すのも、どうも問題あるみたいなんですよ」

 然流はため息混じりにそんなことを言った。


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