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マガイモノ〈未改訂版〉  作者: 海陽
マガイモノ
57/60

新たな生活

カナダ、アルバータ州ジャスパー。




『やあ影人。昨日は助かったよ。良かったら皆で食べてくれ』


『良いのか?こんなに貰っても』


『もちろんさ!俺とお袋の感謝の印さ、受け取ってくれ』


『有難う。有難く頂くよ』


近所に住む知人から野菜を貰い、笑って別れた影人。その籠を持って家に入っていった。



「ただいま」


彼の声に、玄関へ顔を見せたのは朔。


「ああ、お帰り。どうしたんだい影人。その野菜は」


「昨日のお礼だ、ってウィルから貰ったんだ」


朔に野菜籠を渡して笑うと、腕時計を見やった。


もうそろそろかな、と思った刹那、家の奥から出て来たのは鮫島だった。


「迎えですか?」


「ああ。行って来る」


カナダ国籍を取得後。

清洞夫婦、影人と框矢、そして鮫島はアルバータ州ジャスパーに移住した。


鮫島と影人は英会話可能な為、二人して不動産へ赴いては五人で暮らせる家を探す。

そして、漸く見つけた家屋の半額を即金で支払ったのだった。



朔と翠は息子、框矢と暮らせるだけで無く、鮫島と影人を加え賑やかに生活出来る事を喜んでいた。


英語は出来ないが、地区の住民も優しい。それに、買い物には影人か鮫島が必ず付き添ってくれるので、大して困ることも無い。


框矢の罪は消えるわけでは無いものの、陸自長官、鍵重の取り計らいのお陰で、彼は自分達と暮らしている。



幸せ?と聞かれたなら、迷うこと無くはい、と答えただろう。



鮫島はカナダ入国後、真っ先に国際免許を取得した。それは、運転出来れば何かと便利だからと言うのも一理ある。


が、一番は框矢の送迎用の為。


鮫島にとっても、長官からの特別任務は天に感謝する程嬉しいものだった。


監視とは言え、実際、框矢は逃げようとする事は皆無。寧ろ自ら服役するとまで言っていた程なのだ。


長官の命令は名ばかりに等しく、框矢と暮らしたい、と願っていた鮫島の嘆願を叶えたのと同様だった。





「お帰り!丁度、お昼出来たところなのよ」


「ただいま」


玄関へ迎えに出た翠に笑顔で迎えられ、釣られて框矢も小さく笑みを零した。


「影人がね、ウィルから野菜を貰って来たのよ」


その声に、影人を見やった。


「……また?」


「また?とは失礼だな。良いじゃねーか、家計が助かるんだしよ」


「そりゃまあ、そうかもしれないけどさ」


「出来たてなの。早く来てね」




嬉しそうに踵を返す彼女を見てから、框矢と鮫島も靴を脱いだのだった。




そののち、数年後。



ジャスパーの町の一角に、ある店が出来た。


三十路過ぎながら、凡ゆる作業を素早く、丁寧にこなす。


電化製品の修理から買物代行まで、滅多な事では依頼を断らない上、その仕事ぶりは精確で信頼が置ける、と人気店になったと言う。



その店主の親友は、何故か町の子供達の人気者となったらしい。


子供に人気の、日本の忍者漫画の主人公が居る!と。



框矢も満更でもない様で、時々学校へふらっと現れては学童達と遊び、時に運動を教えている。


彼の身軽さ、身体能力は未だ健在。速度は落ちたものの、それでも伸びて居ると言う。





fin.

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