依頼 side.周价(幹部)
その男が俺達、黒白龍の本拠地に来たのは本当に突然だった。
物腰の穏やかな彼が、俺達幹部とトップの待つ部屋に通されての第一声。
『私達はファイエン。我が主の名代で私が、話を持って参りました』
『ファイエン?』
『さぁ……』
他の幹部が微かに首を傾げる中、俺はずっと名代で来たと言う彼を見ていた。
皆……気付かないのか?目の前の、この男が秘めているものに。
正直、見ていたと言うよりは、眼が離せなかったんだ。
彼がファイエンと名乗った刹那、ゾワリと嫌な震えが走る程に、重いオーラを纏った事に。
間違いない。俺達を凌ぐ、修羅場を潜って……相当な腕を持ってやがる!
『話とは?』
俺達のトップ、琳嬰中が問うと、一つ頷いた。
『我らファイエンと、手を組みませんか』
『……手を組む、か』
その申し出に他の幹部三人がざわめき立つ中で、琳嬰中が俺に眼を向けた。
『周、お前はどう思う』
俺達のトップ、琳嬰中は一代で黒白龍を創立した。だから頭が弱いと言う訳では決して無いが、時々は俺達幹部に意見を求めて来る。
『悪くはありません。ですが、良く考えた方が宜しいかと』
そうか、と暫く考えていた琳嬰中は、名代の彼に声を掛けた。
『申し出は嬉しいが、即答は出来ない。暫く時間が欲しいのだが?』
『もちろんです。良き返事をお待ちしております』
穏やかに微笑み、自分の地位を告げて去って行った。
ファイエントップの片腕である、と。
そして俺は白燕の時の様に、ファイエンの事を調べるよう指示を受けた。
……が、幾ら調べても、四川省に居る組織以上の事は分からなかったんだ。
そうして結局、また影人を頼る事になり、彼はあっという間にファイエンの事を調べ上げてしまった。
四川省雅安市に本拠地を置く、四川省最大の組織だと。
トップが日本人の女という事もそうだが、更に驚いたのは、影人が俺達黒白龍の内情を知っていたという事だ。
そして知りたくも無い、知りたくなんて無かった事を知らされた。
末端の奴らの誰かが、裏切って情報を流しているなんて事は。
一体、影人は何がしたい?
だが、この裏切りの情報が嘘であったなら、誓いを破っても黙認すると言ったんだ。
自分の事を漏らしても、黒白龍を殲滅する為には動かない、と。
影人の一切を漏らさない、詮索しない、破れば殲滅すると言う、あの誓い。
余程自信があると見える。
そうして彼が逆に依頼して来て、その相手は黒白龍では無く、俺個人に向けたものだった。
親友であると言う、あの黒髪の少年。今は影人と同じ様に、立派な成人だろう。
追手がかかっている彼を助けたい。その為なら、白燕と横行の問題に無償で手を貸す、と言って来た。
悪い条件では無い。彼への依頼料はバカにならないのだから。
一応、断わったら?と聞けば、今後一切の依頼を拒否します、と即答された。
“俺の依頼を受け、次の二回分を無料で依頼を出来るか、断わってファイエンの依頼料金を支払い、今後一切の依頼が出来ないか。
どちらを選ばれますか”
その二択で提示されたら、断わる事は出来ない。影人と言う情報屋は、黒白龍にとっても重要な存在になってしまっていたのだから。
彼はそれを見通して、二者択一で迫って来た。
敵うはずが無い、か。
彼の情報が無ければ、敵の核の情報を手に入れる事が難しくなる。
何とかファイエンの依頼料も無償にする事、框矢と言う親友を抗争の戦力として借りれるよう譲歩してもらい、交渉成立とした。
***************
その後、影人から連絡が来たのは何と八ヶ月も経ってからだった。
7月になって漸く来た連絡に、即座に彼が根城とするビルの屋上へと向かえば、既に彼が立っていた。
「北海道十勝付近へ飛んで下さい」
乗って早々に、部下に指示を告げる。だが日本語が分からない部下は首を傾げた。
『北海道十勝に向かってくれ』
操縦席の部下に指示をし直し、影人に目を向ける。
「何故十勝なんだ?」
「框矢があの部屋を出て行った日から、時折来る近況のメモや追手の掛かったと思われる日、都道府県の地理や交通手段を調べ、彼が取るだろう手段を推測し、どの位の速度でその土地を跨いで行っているのかを計算しました」
事も無げに言った、その言葉に驚いた。
日本は四十七県だ。例え沖縄を抜いたとて、それでも四十六県。東北地方の、太平洋側を抜いても大差ないのに、そんな膨大な計算を影人はやり遂げたのか?!
「もちろん周价、あなた達が来るまでの日数も計算に含めましたし、追手の移動速度も出来る限り計算しました。これは俺だけの力ではありません。知り合いの助けがあってこそ出来たんです」
小さく息を吸い、影人が俺を見る。
「北海道は日本一面積が大きい県です。北海道に入ってからの速度も計算しました。日本海側から順に宗谷岬も通過し、網走に入った頃から連絡は取っていません。
一度北海道へ渡った際に追手を撒いた様ですが、追手の気配が濃くなって来てる、と最後のメモにありました」
「それで計算した結果が、十勝付近に框矢が居るとなった訳か。……だが、十勝と言えど広いぞ。どうやって見つける」
北海道が日本一の面積を誇るのは、流石に知っている。
だが日本一なら、框矢の現在地を割り出すのも難易度が上がるはず。普通、見当がつくものなのか?
「地図を広げても良いですか?十勝の詳細な物です」
言うや否や、自身のウエストポーチから地図を出して広げる。
「こちらが北。俺は、何も無い土地……つまり広い草原に目星を付けています」
地図の片側を俺に持たせ、影人は器用にどこからか出したペンで、地名に印を付けていった。
「何故草原なんだ?人間が隠れるには、人混みに紛れた方が撒きやすいだろう」
俺の疑問にいいえ、と首を振ると、少し暗い眼で地図上の一つの草原を指した。
「この草原が一番広い。半径13、4km内に人家もありません。特別人や車が立寄る場所でも無いですから、先ずここへ飛んで下さい」
影人の言葉に、取り敢えず部下に指示を出した。
「……框矢を追っている奴らの黒幕は、この国では知らない者は居ない程、有名な男なんです。
彼も人目に付く事は避けているでしょう」
地図を折り畳んでウエストポーチにしまうと、隣に座る俺にだけ聞こえる様な低い声で、そう押し出したんだ。
「どう言う事だ?」
「名前は言えませんが、その男は一代で食品事業の会社を起業し、国内有数の大企業へ成長させた現役の社長です。表では海外の貧困層などへの資金援助なども行い、所謂善人なんですよ。
ところが、裏では国の実質支配を目論んでいる。日本は無理だけど、近隣の諸外国では出来ると踏んでいる様です。その為に必要な武力を集め、その中に框矢も混じっている。
他の人材は楽に部下に出来た。が、框矢だけは中々自分のものに出来ず、武力を持ってしてでも手に入れようと、しつこく追いかけているんです」
「……」
国の、実質支配?
そんな大それた事を考えている奴に、彼は狙われ続けているのか。……そして、追手が掛かる度に返り討ちにしている。
『周さん、十勝の指示を受けた草原に入ります』
『分かった』
部下の声にハッとして、窓から顔を出そうとすれば、影人はどこからか出したのか、ジェット型のヘルメットを被った。
「周价、あなたも被った方が良い。あの男は、框矢を手に入れる為なら手段と問いません。顔がバレると後々厄介ですよ」
あなたも彼を手に入れる為に利用されかねない、と俺に顔が見えない色のシールドが付いたヘルメットを差し出して来る。
影人が被る物もシールドが黒く、彼の表情は見えない。
それを受け取って被ると、改めて顔を出す。影人は上半身を乗り出して辺りを見回していた。
「おい、余り乗り出すと落ち「居たっ」
咎めようと声を掛けた瞬間、彼の声が被さった。
「前方十時の方向に針路を!」
即座に部下に指示し、影人の隣に身を乗り出す。
彼が見る前方には、確かに小さな人影があったんだ。そして影人の手には、小型の双眼鏡が握られていた。
『ロケットランチャーらしき物を持った数人が、二時方向に見えます!』
『何?!』
「周价っ。
超低空飛行に切り替え、5m先でホバリングをして下さい!彼の荷物を見つけました、回収します」
部下の声、自分の声。そしてそこに影人の声が割り込んで来る。
「このヘリは静音機能を付けてますよね?!切り替えて下さいっ」
まるで何年も使いこなしているかのように、ヘリの機能を矢継ぎ早に指示して来る。
出来ないのは操縦だけ、か。
彼の博識ぶりに、思わず苦笑した。
框矢の荷物を回収すると、今度は上昇し、一気に加速する。
『框矢らしき青年が居ますが、負傷してる様です。
その背後……直ぐそばまで、あのロケットランチャーを持った奴らが迫ってます!撃ちますか?』
部下の言葉を影人に伝えると、即座にダメです!と返って来た。
「何故ダメなんだ?!」
「彼らが大怪我、若しくは死亡したら俺と框矢は日本に居られなくなります!!標準を彼らから外して撃って下さいッ。
特殊弾はありますか?!」
框矢が負傷、の報せに切羽詰まった言葉が耳に届く。
余程大事な親友なんだな、あの青年が。
いつもゆとりさえ感じられる口調の彼からは、遠く離れた声。
「特殊弾は催涙弾と煙幕だけだ」
「では先ず催涙弾を彼らの直ぐそばに撃って下さい!あなたの部下なら出来るはずだ。直撃は絶対に避けて下さい」
そんなやり取りをしてる内に、框矢の直ぐそばまで近付いた、その瞬間。
影人がヘリの扉を開け放ったんだ。プロペラの騒音、暴風の中で、彼が叫んだ声だけは不思議とはっきり聞こえた。
「居た!框矢!!」
ずっと、框矢“らしき”青年だったのに、突如として本人だと確定した。
まさか、本当に一発で……彼の居場所を見つけるとは。
影人の頭脳の鋭さに薄ら寒さを感じてしまうが、何とかそれを表に出さないように耐える。
ピク、と框矢が反応したが、どうやら五感の幾つかをやられた様にも見えた。
「威嚇射撃を!絶対に彼らに当てないで下さいっ。そして超低空でのホバリング、煙幕を!」
影人の指示を部下に伝え、それを的確にこなすのを見るや否や、彼は框矢の元へ駆け寄って行った。
「……影人、か?何でここに……?」
歩く事も、目を開ける事もままならない様子の彼を、肩に腕を回してヘリに乗せると、自身も素早く乗り込む。
「退避!目的は果たしました。煙幕が切れる前に遠ざかって下さい」
『分かりました、退避します』
俺の指示に、即座に部下がヘリを反転させる。
「くそ……ッ!待ちなさ……」
微かに、そんな悔し紛れの男声が聞こえた気がした。
「大丈夫か、框矢」
「やっぱりその声、影人か。何でここに居るんだ……?お前、東京に居るはずじゃ」
草原から抜けて漸く、影人はヘルメットを外した。俺もヘルメットを外して、改めて框矢を見る。
座席に座ってはいるものの、目を押さえ、今にも倒れそうな程、身体も不安定に揺れていた。
やはり、眼をやられたのか。
「その眼、治るのか?」
静かにそう聞けば、ピクッと反応を見せる。
「誰だ……?影人、お前の知り合いか?」
「憶えてないか?四年前、俺に依頼して来た黒白龍って香港の組織。その時依頼を持って来た幹部だよ」
呟く様な声に、ややゆっくりめの口調で答える。
「……あぁ、あのスキンヘッドの奴の」
「そうそう、お前が床に倒した奴の上司さ」
四年前に、度胸が据わってる筈の部下に近付きたく無い、とまで言わせた、あの件。
その件がきっかけで、思い出されるのはどうも不服だが、この際まあ良いだろう。
「お前が北海道に入る頃に、依頼を持って来たんだ。その他の依頼への助力と引き替えに、框矢を助ける手伝いをしてもらった、ってわけさ」
「……」
「それより、まだ視力戻らないのか?」
「まだ闇だな」
「そうか……」
***************
『では大きな動きがあったら迎えに来ます』
『あぁ、頼む』
ヘリが去って行くのをビルの屋上から少し眺め、影人達の部屋へと歩を向けた。
「……」
ソファの肘掛けを枕に、顔にタオルを掛けて横たわる框矢。影人はテーブルで便箋に何か書いていたが、徐に立ち上がると隼の元へ近寄った。
「これ、鮫島さんのとこに頼むよ」
銀筒に便箋を入れ、ラプターと呼んだ隼の頭を撫でる。そして窓から去る彼を見送り、不意に俺の方へ向いた。
「インスタントコーヒーで良いですか?」
「あ?あ、あぁ」
框矢には一切触れず、インスタントコーヒーを手慣れた様子で作ると、差し出して来る。
影人は心配じゃないのか?親友が、眼を負傷してるというのに。
だけど影人は框矢には構わず、俺とずっと他愛も無い話をしていたんだ。
そうして二時間程経った頃。
影人の後ろでずっと寝ていた框矢が、ムクリと上体を起こした。
「……」
顔の前で手を返したり、動かしたりしながら瞬きを繰り返す。
「治ったか?」
「……ああ、治ったみたいだ」
「そりゃ良かった」
「一晩もすりゃ、完全に戻るだろ」
言葉少なにそう言うと、影人に目を向けた彼。穏やかな、僅かに笑みだと分かる表情を見せる。
「お前、良く俺の位置が分かったな。……助かった」
「ま、どうってことないさ。……ただ、ちょっと框矢を巻き込んでしまったんだ」
影人はそんな彼にパッと明るく応えた次の瞬間、真剣な眼差しで框矢に顔を向けた。
「一度会ったことあるだろ?彼の名前は周价、黒白龍のNo.2さ。
黒白龍は今、複数の問題を抱えてるんだ。横行、裏切り、それから……白燕の台頭」
「白燕って、前の依頼の奴か」
「そうさ。前回の依頼後、殲滅近い状態まで追いやられたんだ。それが元で黒白龍に深い憎悪を抱き、復讐する為に動いてる。飛ぶ鳥を落とす勢いで勢力を増して、黒白龍と同レベルまでになるのには時間は掛からない。
近々、大規模な抗争があるって話だ」
俺は状況説明をする影人と、ただ黙って彼の話を聞いている框矢を眺めていた。
「それで……その抗争で框矢の戦闘力を借りたい、って頼まれてるんだ」
少し言い難そうにそう告げれば、框矢は僅かに眉を顰めた。
「……抗争での助っ人は、俺を助ける為に出した交換条件なのか?」
不意に俺の方へ目を向けて、話し掛けて来た彼の表情は静かで、逆にこっちが驚いてしまった。
「そうだ」
短く答えれば、分かった、と頷く。
「影人の情報屋の誓い同様に、俺の事も詮索、口外しないなら抗争に手を貸す」
呆気ない程に簡単に了承され、また驚いてしまう。
一体、今日は何度驚かされるんだ?
「言っとくが、俺は影人と違って中国語どころか、英語すら出来ない。日本語で話してくれ」
「良いだろう、俺が直接通訳する。……部下が迎えに来るまで、悪いが世話になる」
框矢が影人に目を向け、彼が頷くと、何かを黙認した様に後は何も言わなかった。
影人の便利屋の手伝いをする傍ら、情報屋の依頼が来た時は彼の後ろで用心棒の様な役をこなす框矢。
そして何も無ければ瀧宗と言う彼の長刀を研ぎ、筋トレに勤しんだ。
片手で腕立て伏せや、腹筋背筋、柔軟を毎日繰り返し、時には影人を背に座らせ筋トレする事もある。
それもその回数は全て含めて、一日数千を超える。
一体その細身の身体のどこに、そんな筋トレをこなせる力が……?
不思議で仕方なかったが、詮索しないと交わしているだけに聞く事も出来なかった。
そうして部下が迎えに来たのは一ヶ月経とうかという頃だった。
***************
『どうやらあいつら、一週間内に向かって来そうなんです。ここ数日で動きがでかくなって来ていて……』
『そうか』
影人に屋上から見送られ、ヘリで香港に戻った俺と框矢。真っ先に向かったのはトップ、琳嬰中の所だった。
『彼は框矢。俺が世話になってる情報屋の親友で、腕が立つので抗争に手を貸して貰える事になり連れて来ました。
信用は出来ます。宜しいですか?』
『……』
少し訝しげに框矢を見ていた琳嬰中は、緩慢に頷いた。
『周が信用置けるなら、まあ良いだろう。お前の部屋の隣を当てがってやれ』
『分かりました』
トップと話す間、框矢は何も言わず、何の感情も示さず、俺に従っていた。
部下達は初めて見る顔に興味津々らしく、咎めても良く框矢の事を俺に聞いて来た。
中には手合わせしてみたい、と言う者まで出て来る始末。
「……と言うわけだ。悪いが、手合わせしてやってくれ」
「分かった。怪我はさせない様にだけ気を付ける」
そう、彼は素っ気なく応じてくれた。
談話室代わりの広い部屋へと彼を連れて行くと、そこには話を聞き付けた部下達が待ち構えていた。
「おい、こんなに多いとは聞いてないぞ」
少し不満げな彼の声に苦笑してしまった。
それでも最初の部下と向き合い、軽く頭を下げる。
俺はその様子を壁から見る事にしたんだ。もしかしたら戦闘力を垣間見る事が出来るんじゃないかと思ったから。
部下に持つ事を許したのは、竹刀や木刀のみ。素手でも勿論構わなかったが、真剣や鋭利な刃物に取って代わる物は持たせなかった。
万が一、框矢に何かあっては困る。
ところが。
素手の框矢は右手とそのフットワークだけで軽々と攻撃を躱し、突きや回し蹴りなどの足技だけで部下を倒して行く。
その動きは一切の無駄が無い上、框矢の表情にはゆとりすら見える。
部下達は皆、本気で彼に向かって行ってると言うのに。
最後の一人が倒れると、ふぅ、と溜息に似た吐息を漏らし、俺を見て来た。
「もう手合わせは勘弁してくれ。この人数を、一人一人怪我しない様に手加減するのは面倒だ」
やはり框矢は本気を出してない。
その事実に、内心を冷えたものが走った。本気を出した彼の実力がどれ程のものなのか、想像が付かなくて。
それなりの人数を相手にしたのに、息は切れていない。何より、框矢は瀧宗を握るどころか、左手を一切使わなかったのだから。
その数日後、白燕の抗争での総人数が判明した。
一万二千人。
俺達黒白龍との差は、たった千人。
余程恨まれているのだろう。
抗争に出て来るその殆どが、銃類を装備し、更には剣の腕を磨いて来たらしかった。
「框矢。お前、一人で何人相手に出来る?」
幹部の作戦会議に彼を同行させ、それを聞いてみる。
「今なら……七、八十はいけるかもしれないな」
そんな馬鹿な……!と他の幹部がざわめく中でも、彼は表情は変えなかった。
「一つ良いか」
それから暫く作戦を練っている中で、掛けられた彼の声に振り向くと、頼みがある、と言って来る。
「何だ?」
「抗争に出る黒白龍全員に、何か目印を付けてくれ。俺は誰が敵か味方かなんて分からない。
眼は良い方だけど、間違えてこっちの面子を斬る事は避けたい」
確かにそれは最もな話。第一、俺達幹部でさえ、末端の顔と名前が一致しない事があるくらいだ。
部外者の框矢が分からないのは当たり前なんだ。
「分かった。抗争に出る奴には例外無く、腕章を着けさせておく」
その言葉に肯くと、彼はその後の作戦会議には何も口を挟んで来なかった。
結局。
小細工はせず、真っ正面からの攻撃という事になったんだ。何か作戦を弄したところで、また作戦が漏れては意味が無い。
そのまた翌日。抗争場所は、白燕からの宣戦布告で香港郊外の広い空地になり、当日、框矢を引き連れ抗争場所へと赴いた。
***************
『前回は随分と世話になったなぁ』
そう切り出したのは、白燕の幹部筆頭、李庚。
彼の表情や声は至って静かだが、後ろに控える白燕の面子は、ギラギラと眼を光らせ、敵意を露わにしていた。
『今日は借りを返させてもらうぜ』
その言葉を封切りに、強い敵意を纏い、異様な雰囲気を醸し出していた白燕が向かって来る。
「お前は切り札だ。暫く静観していてくれ」
框矢は俺の声に頷いて、抜刀の素ぶりも見せずに俺の隣に立っていた。
時々俺達に向かって来る敵を倒しつつ、戦局を見据える。
だが、それ程経たない内に俺達は圧され始めた。余りに強い、白燕の敵意と勢いに崩れ始めたんだ。
「……」
それを、ずっと俺の隣で静観していた彼。
冷めた眼で戦局の成り行きを眺めて居たが、ポツリと呟いた。
「もう暫くこのままの状態が続けば、全滅するぞ」
その言葉にハッとした。そして戦局全体を見回し、框矢の言葉が正しい事を改めて実感したんだ。
「加わってくれるか?」
「……敵は、殺して良いのか」
抗争に加わり、戦ってくれるかと聞けば、手加減しなくて良いのか、と返して来る。
「白燕の幹部は、あの李庚とあっちの端に居るあの男だけだ。あの二人だけは後回しにしてくれ」
「なら、お前らが届いていない後方の敵を倒しに行く。目の前の敵だけに集中する様、伝達しといてくれ。
……俺は、リミッターを外す」
リミッター?
だが俺は、何だそれは、と聞く隙も与えて貰えなかった。




