助力を得て 2
目を見開き、小さく息を飲むと俯いた周价。少し考えるように額に手を当てていたけど、顔を上げると部下に告げた。
席を外せ、と。
「ドアを出て、階段を上がれば屋上に出ます。気持ち良い天気ですから、話が終わるまでそちらでのんびりしていて下さい」
「……」
部下は俺を暫く睨んでいたが、周价が賛同する素振りをすると、部屋から出て行った。
階段を登っていく足音と、屋上の重い扉を開け閉めした音を確認する。
「……影人。お前、どこまで俺達の事を知っているんだ?」
「トップと幹部の名前と人物像。……そして今現在、あなた方黒白龍が抱えている問題が複数あり、その内容も」
そう答えれば、今度は宙を仰ぎ呻く。
「料金請求を直ぐにしなかったのは、黒白龍No.2の周价、あなたに頼み事があったからです。これを飲んで頂けるのであれば、俺が出来るギリギリの事をしましょう。……話を聞いて頂けますか」
「交換条件か」
「まぁ、そんな所ですね」
少しの間、難しい顔で押し黙っていた彼は、条件を先ず話せ、と一言。
「既にご存知かもしれませんが、現在、黒白龍が抱えている問題は三つ」
三本指を立てると、周价は怪訝な色を浮かべた。
もしかして、把握してないのか?幹部なのに。
「一つは、白燕があなた方に対して大規模な抗争を企てている事。二つは一部の組織員が、黒白龍の名の下に表の住民に横行をしている事。
そして三つ目は、少数の末端の組織員が裏切っている事です」
「馬鹿なッ!!」
三つ目の裏切りを告げた途端、不信の表情でソファから腰を浮かせた。
「幾ら優秀な情報屋だとて、信じられるものか。証拠も無いのに何故そんな事が言える?!」
信じたく無いのは当然だろうな。だけどそう思われる節は結構ある筈なんだ。
落ち着いて下さい、と告げ、ソファに戻った彼を見据える。
「それらしい情報がデータ内にありました……が、それをお見せする事は出来ません。企業秘密とでも言いましょうか。情報収集の方法を見せてしまう事になる。
……あなたも、薄々気付いて居るのでは?」
「何?」
「黒白龍しか知らない筈の情報が、小競り合いをしている他の組織が何故か知っている、と言う事があったはず。それは一度だけでは無いはずだ。違いますか?」
「……!」
「更に、抗争した相手に練った作戦が漏れ、優秀で忠実だった部下を失った事もある筈だ」
「だが……っ、それが何故裏切りに繋がるんだ?」
納得がいかない表情。それは、頭の回転が鈍っているようにも見えたんだ。
「もしこの裏切りの件が嘘であったなら、俺の情報を漏らしても、俺は黒白龍を殲滅する為に動きません。
裏切りの件は香港に戻られてから、徹底的に、尚且つ本当に信頼の置ける部下達だけで洗い出すと宜しいかと。俺は張本人までは知りませんから」
「……」
「少し話がズレましたね。交換条件をお伝えします。
俺の頼み事を確実に聞いて頂けた場合は、一番の問題……白燕との抗争に関して、その件が落着するまで、情報提供と協力出来る事は無償で行います。横行の件は俺よりも、あなた方自身が一番良く分かっているはずですが、情報提供で出来る事があれば無償でしましょう。如何ですか」
「……頼み事とは何だ?」
「最近、黒白龍はヘリを日本のメーカーにオーダーしましたね?OH-1という自衛隊の偵察機に、性能などを良く似せた物を。それをお借りしたい」
周价はハッと顔を強張らせ、俺を凝視して来る。何故それを……と呟いたのを見て、脚を逆に組み直した。
「前回、屋上に居るあなたの部下を押さえつけた框矢は、現在日本国内を旅している。彼は今、ある男の部下達に追われているんです。何度も返り討ちにしてる様ですが、諦めが悪い。そして今回、知り合いからその男がある物を開発したと情報があったんです」
鮫島さんから送られて来た、ロケットランチャーの写真を周价に見せる。
「!……肩撃ちのロケットランチャーじゃないか」
「そうです。その男は玩具として開発したと言っているらしいのですが、余りに精巧過ぎるんです。小型化した特殊弾なら楽に撃ててしまうでしょう。その知り合いも、俺も、このロケットランチャーで框矢を狙っていると考えています」
ふぅ、と一息吐いて、再度口を開く。
「框矢の身体能力は、俺達一般からは飛び抜けて高い。だから度重なる追手も退けて来られました。でもこんな物を使用されては、流石の彼でも危ない。框矢は、俺の大事な親友なんですよ。だから何としても助けたいんです」
「しかし、何故ヘリを?場所も分からないならどうしようも無いじゃないか」
「見当は付きますよ、多分今頃は北海道に入ってるはずです。……俺には、彼程の身体能力が無い。だから北海道へ飛行機で渡っても、彼の元に辿り着く頃には既に遅い状態になってるでしょう。
陸路の渋滞なども関係無く彼の元に着くには、空路しか無い。でもチャーター機の免許を持たない俺にはそれは無理です」
そこまで言うと、周价の顔に察しがついた、といった色が浮かぶ。
「ヘリをオーダーした俺達なら操縦出来る奴が居るだろう、と考えた訳か」
「その通りです。
俺は何としてでも彼を助けたい。仕事に私情を挟むのは良く無い事も、重々承知の上でお願いしているんです」
「……断わる、と言ったら?」
「今後一切、黒白龍の依頼はお受けしません」
「……」
框矢の事を明かしたからには、周价には頼み事を受けて貰わないといけない。それに。
「周价、あなたは黒白龍幹部内でも明敏な方だ。俺の依頼を受けるか、断わるかが今後どう響くかと言う事は、聞くまでも無くお分かりになると思いますが?」
彼は、そんな俺の言葉に硬い表情になる。
悪いが強気で行かせてもらうからな?
「俺の依頼を受け、次の二回分を無料で依頼を出来るか、断わってファイエンの依頼料金を支払い、今後一切の依頼が出来ないか。
どちらを選ばれますか」
それは、俺が黒白龍にとって重要な存在になっているのだと、漠然とした確信があったからこそ出た台詞。
本当は裏付けのある確信があった方が良かったんだけど、いける気がしたんだ。
あと少し押せば、周价は折れる、って。
「今回の依頼も、無償の情報提供に入るか?」
まるで俺を試すかのような色を眼に浮かべ、こちらを見据える彼に緩慢に首肯する。
「……良いでしょう。確実に、依頼をお受けして頂けるのであれば」
いた仕方が無い。それで、框矢を助ける事が出来るのなら。
「お前の親友……框矢と言ったな。もし、武力があれば白燕との抗争に借りたい。今や、飛ぶ鳥を撃ち落とす程の勢いのあいつらとの抗争は、避けられないだろうからな」
「彼を説得してみましょう」
きっと框矢なら、文句は言うものの受けるだろ。瀧宗一刀だけ持って、それこそあっという間に殲滅してしまうかもな。
ぶつくさ文句を言う框矢が頭に浮かんで、ふっと笑みが漏れた。
「お前は、彼の実力を知っているのか?」
怪訝そうに眉を顰める周价に、肯定とも否定とも取れる様に頭を動かす。
ある程度は知ってても、一年前と今じゃ、戦闘スキルも上がってるかもしれないしな。
結局の所、框矢の理性やリミッターを全て外した“本気の力”を俺は知らない。実際に見たわけじゃ無いんだから。
「五、六十人は楽に屠るでしょうね。一年前、彼はその追手を一人で殲滅させてしまいましたから」
彼は、何……?とピクリと肩が震わせ、更に怪訝な色を濃くする。
「若干21で、たった一人で五、六十人を殲滅だと?」
「そうです。これはその追手を殲滅させて、俺と合流した後に聞いた話ですが、追手は全て軽武装し、弓、銃類、短剣そして格闘術など、自身の得意分野であろう武器を手にしていたとも耳にしています。
それなりに武力があると、思いますが?」
「……」
「しかし、框矢の件はあくまで彼が良いと言えばの話です。彼の話にも耳を傾けて下さい。框矢も人間です、意思の尊重もお願いします」
周价は良いだろう、と頷く。
「交渉成立だな」
「ええ。……ヘリをお借りする時期は、大体の框矢と追手の位置が定まり次第、連絡します。このビルの屋上で俺を乗せて下さい」
「分かった」
これで……框矢を助けられる。
ふぅ、と内心安堵の溜息を吐き、周价達が去ると、凡その框矢の位置、追手の位置を割り出しに掛かった。




