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マガイモノ〈未改訂版〉  作者: 海陽
マガイモノ
33/60

助力を得て side.影人

框矢を駅で見送って、数ヶ月。

俺はラプターに頼んで、近況報告を兼ねた隼便を彼に送っていた。


ラプターが帰って来る度、俺が送った手紙の裏に返事が書かれていて。


今は愛知だ、とか、今日から三重に入った、とか。

かなりのスピードで県を跨いで行く様子を知りながら、それを時々鮫島さんの元にもラプターに届けてもらっていた。


流石に四国にはフェリーを使ったみたいで、その時は風が気持ち良い、って返事が書かれていた。


香川を通過してる時には、うどんが美味い、って返って来たりして、楽しかったんだ。


東京に居ながら、框矢と旅してるみたいで。そんな彼の様子に鮫島さんも喜んでるみたいで、達筆な字で返事を返してくれた。


俺も、便利屋や情報屋を続けながら日々を過ごしていて。


ただ、暫くして鮫島さんとのやり取りの中に、不穏な雰囲気が出始めていたんだ。


あいつ……ダナニスって奴が、また動き出してるかもしれないって。


鮫島さんに頼んで、彼の人脈を頼りに、何か判れば教えてもらう様にして。


彼から返事が来る度、嫌な予感は確信へと繋がっていくんだ。けれどもし間違いだったら、って可能性も無くは無い。


だから框矢には伝えれて無かった。




框矢が根城を立ってから一年余りが経った時。


ラプターが持って来てくれたメモの中に、懐かしい名前を目にした。


それは框矢からの返事じゃ無かったんだ。


四年前、依頼を受けた組織。



“黒白龍 周 价(しゅうがい



「……こりゃまた、なっつかしいとこから来たなぁ」


呟き、俺をじっと見て来るラプターに返事を書いて持たせた。


「この紙を持たせた奴に、届けてくれるか?」


ピィ、と鳴いて窓から飛び立ったラプターは、銀筒を空にして戻って来たんだ。



パソコンを立ち上げ、あらゆる角度から黒白龍とその身辺を浚い、幾つか情報を掴むとハッキングの痕跡を入念に消した。



そうして三日後。少し年を経た、けれど見憶えのある顔が俺の元へ訪れたんだ。


四年前、白燕の本拠地の情報を買いに来た周价と言う幹部と、スキンヘッドの部下。


「久しぶりだな……影人」


「お久しぶりです、黒白龍の幹部の方。四年振りになりますね」


穏やかに微笑んで見せ、握手を交わす。


向かい側のソファを勧め、座ったのを見て俺も腰を下ろした。


「そうか、もう四年前になるのか。今何歳になったんだ?」


「……22になりました、お陰様で。誓いは守って頂けている様で、安心しました」


「あぁ、まあ……。殲滅されたくは無いからな」


フッと薄い笑みを浮かべ、その後も一言二言、言葉を交わす。けれどその間、スキンヘッドの部下は一言も口を開かなかった。


「部下の方、何か聞きたい事があるのでは?……大方、予想は付いていますが」



どうせ、框矢の事が知りたいんだろう。四年前、この部下は框矢に銃口を向けた次の瞬間、床に押さえつけられていたんだから。



ギクッとした様に身体を強張らせると、俺を見て来た部下。


「あの、黒髪の連れは?」


「やはり框矢の事でしたか。彼なら今、山形に居ますよ」


「……山形?」


そう返して来たのは周价の方で。そっちに眼を向けると頷いた。


「そう、山形です。

彼は一年余り前から日本を、太平洋側から順に南下して居ましてね。三重、香川、鹿児島、京都、富山と一周する様に旅をしているんです」


「それで今は山形を通過している、と言う事か」


「ええ。もうそろそろ秋田に入るでしょうね、彼の脚なら」


「……?」



框矢の身体能力なら、あっという間に山形も秋田も跨いで行ってしまうだろう。



あまり意味を理解出来てない周价と部下に、さて、と話を切り替えた。


「今日は何の情報を買いにいらしたのですか?白燕に関係する事ですか?」


彼らが、框矢の能力なんて知る必要なんて無いからな。


その時はそう思っていたんだ。


俺の白燕の事か、って言葉にピクッと反応した二人。図星かと思いきや、出て来たのは違う事だった。


「いや、白燕の事じゃ無い。ファイエンと言う組織の事なんだが……」



ファイエン。



幾つものサーバーを経由し、これでもかと言う程にあちこちのパソコンをハッキングして得た情報の中に、あった組織名だ。


中国、四川省の一都市を縄張りとする、巨大組織。だけどそんな巨大組織であるに関わらず、その幹部や特色、正確な本拠地は明らかになって無い部分の多い、謎の組織だ。


調べて分かるのは、四川省の裏組織、と言ったぐらいなんだろう。



調べた情報が核を突いていた事に、内心安堵の息を吐いた。


「ファイエン、中国四川省の組織ですね。その組織がどうかしましたか」


静かに聞き返せば、周价が徐に首肯し口を開く。


「今、そのファイエンが俺達、黒白龍に手を組まないかと言って来ているんだ。

相手は黒白龍の事を良く知っているようだが、俺達はファイエンの事を殆ど知らない。……と言うよりは知る術が無い。四川省の組織、ぐらいしか情報が無い」


「あなた方黒白龍は香港が本拠地だ。それに比べ、ファイエンは四川省……随分内陸で距離もありますね」


「そうだ。何故俺達と手を組もうとして来たのかは分からないが、何にせよ、情報が皆無に等しいこの状況では手を組もうにも組みようが無い」


確かに最もな言い分。一つ頷いて見せると、要点を纏め、周价に確認を取る。


「つまりは、手を組もうとして来たファイエンがどの様な組織なのかを知って、その上で手を組むか決めたい、と」


「そうだ」


分かりました、と調べた情報についてを話し出そうとした時。窓から飛び込んで来たラプターが、俺の直ぐそばに停まったんだ。


しきりに銀筒のついた脚を動かし、止り木に移動してからも俺をじっと見つめて来る。



それは、ラプターに教えた仕草。


緊急を要する時は脚を忙しなく動かす様に、と何度も彼に教えた動きだったんだ。



「ちょっと失礼します」



断りを入れてラプターに近寄る。

銀筒に入っていた鮫島さんからの手紙はいつもより長くて、その内容に悪い予感は事実だったのだと言う事に、手紙を持つ手に力が篭ってしまった。


“青馬衣社長が動き出している。部下を増やし、都内に框矢が居ない事を突き止めてしまった様だ。

長官にも協力してもらっているが、あの勢いならあっという間に彼に追い付いてしまうだろう。今は滋賀まで手を伸ばしたらしい”


想像以上に追手の速度が速い事に、歯を噛み締める。


“お前が東京に居ないと知って、部下を使って追手をかけたみたいだ。早く東北を抜けた方が良い”


框矢に向けてのメモをラプターに渡して、急いでくれるか?と頼む。


そして窓から飛び立っていったのを確認して、ソファに戻った。



ラプターなら、框矢をきっと直ぐに見つけてくれる。



そう、願って。


静かに深呼吸を一つ、気持ちを切り替えた。


「お待たせしました」



今、俺が框矢の為に出来る事は無い。仕事に集中しないと。



「何かあったのか?」


「いえ、特にあなた方に関係する事ではありませんよ。お気になさらず」


小さく笑って、話を戻した。


「四川省ファイエンの情報、現時点で掴んで居る事をお教えしましょう。……料金は後程お伝えします」


黙したまま頷いた周价に眼をやり、一つずつ告げていく。



「もう知っているでしょうが、ファイエンは四川省の裏組織。資本金は二億四千万、総人数一万九千人超で四川省の中では最大です」


「二、二億四千万……!」


「あなた方黒白龍は一億五千万まで成長したようですが、ファイエンは更にその上を行きます。

それだけの巨大組織なのに情報が漏れないのは、トップや幹部、組織員の結束がこの上無く強く、統率が取れているからです」


「……」


「そして地元民との結束も強い。裏組織には珍しく、近隣住民との間には信頼があり、共存しています。普通は表の地元民と、裏の所謂マフィアが繋がる事はありませんからね」


『お前は俺達、黒白龍が統率が取れてないと言うのか?!』


ガタッと立ち上がり、銃口を向けて来る部下。周价がそれを抑えるけど、納得出来ない、と尚も英語で息巻いた。


「落ち着いて下さい」


冷静に声を掛けるも中々収まりがつかないらしい。芽生えたイライラを抑えつつ、ふう、と一つ息を落として彼を睨む。



『そんな物騒な物を向けるな、と言っているのが分かりませんか』



俺の声は予想以上に冷たく聞こえたようで、部下は拳銃をしまうと緩慢に腰を降ろした。


「俺は何も、あなた方を貶しているわけではありません。尋ねられた、ファイエンの情報をお伝えしているだけだ。銃口を向けられる筋合いは無い」


「確かに最もだ、済まなかった」


周价の詫びに、ソファに座り直して話を続ける。部下はもう無視する事にした。


「巨大組織故に、その幹部数も多い。一人一人が統率を取り、更にはその上に立つトップの人脈と人柄が、一枚岩の団結力の背景にあるのでしょう。

幹部やトップの人物像、本拠地は未だ不明です。前回よりも更にセキュリティが高く、幾つもの海外、国内サーバーを経由していますので」


「そうか……」


「三日後、またお越し下さればそれまでに本拠地と彼らの人物像を提供出来るかと。どうしますか?」


本当は、本拠地もトップや幹部の人物像もとうに掴んでいた。


それを伝えなかったのは、ある考えが会話中に浮かんだからだ。



「流石は影人……、たった三日でここまで情報を掴むとはな。そうだな、出切る事なら人物像や本拠地も知りたい。情報は多い事に越した事は無いからな」


「分かりました、では三日後、同じ時間帯にお越し下さい。俺も予定は空けておきますので」


「ああ」


二人が去ってから、あいつ、ダナニスに関する情報を全て紙に書き出した。



少しでも情報を掴んで、少しでも框矢に向かってる危険を減らす方法を考えないと。


鮫島さんからの手紙を繰り返し読んで、頭をフル回転させる。


框矢が東京を出たのは一年も前。フェリーを使ったと返事にあった事はあるものの、バスや電車を利用したとあった事は一つも無い。


と言う事は、だ。


框矢はフェリー以外はほぼ徒歩の移動と言う事になるわけで。


それでもこの一年で、東京から南下し、南にある沖縄を除いた各都道府県を跨ぎ、東北に入ろうとしてると言う事は、全速力で移動してる可能性が高い。


あいつの出した追手の事を知らない框矢が、何で全速力で移動してる?



色んな角度から考えを巡らせ、もしかしたら、と浮かんだのは、框矢もあいつの事に勘付いているのかもしれない、と言う事。


鮫島さんと面会した帰り、真っ先にあいつの気配に気付いたのは、他ならぬ框矢だったから。



翌日の晩遅く、ラプターが戻って来た。

銀筒には框矢からの返事が入っていて、彼にしては珍しく長めの文章が綴られていたんだ。


“富山を抜けるあたりから、ずっとあいつの気配があった。やっぱり追手が掛かってたんだな。

今は青森に入ってるけど、そのまま北海道へ行く。上手く行けば撒けるかもしれない”



やっぱり勘付いていたんだな。



框矢の勘の良さとあいつの諦めの悪さに溜息が漏れる。今度は何をやらかすのか……考えたくもないけど、対策を練らなくちゃならない。


北海道は広い。もし青森と北海道の境で追手を撒けたなら、確かにあいつらの目を欺ける。


だけど、それもいつまで保てる?


框矢が国内を移動している事を突き止め、あっという間に追手を掛けて、確実に框矢との距離を詰めてる。


そんなあいつらを、いつまでも撒いておけるはずがない。必ずどこかで追い付かれる。


俺が助けに行きたいけど、俺には框矢みたいな身体能力が無い。鉄道や飛行機を使うしか北海道へは渡れない上に、その時彼がどこに居るのかなんて予測出来ないんだ。



瞬間移動出来るならともかく、陸を地道に進むしかない俺が間に合うはずが無いし……。



鮫島さんは長官の部下だから、もしかしたら何か手を打ってもらえるかもしれない、とも過ぎったさ。


框矢は鮫島さんと、更には長官とも繋がりがある上に、目に掛けてもらってるらしいから。



「……いや、駄目だ」



きっと鮫島さんに言えば、俺や框矢の助けになるなら、と力になろうと駆け付けてくれる。


でもそれは、またあいつと直接対峙する事にもなり兼ねない。



それだけは避けないと、な。

大体、框矢も鮫島さんを巻き込む事に良い顔なんて絶対しないはずだ。



その時、ふっと頭に浮かんだのは黒白龍の幹部、周价。


「何で浮かんだんだ……?」


彼は裏組織の人間だ。彼らと話していた時に浮かんだ考え、それに協力してくれるとは限らないのに。


ふぅ、と伸びをして、一筆箋を取り出す。取り敢えず、鮫島さんに新たな情報があるか聞かないといけない。


その答え次第で、あの考えも実行しなくては。


「ラプター。これを鮫島さんに届けてくれるか?框矢のとこから戻ったばかりで悪いけど」



“……うん、まあ良いよ”



そう言うみたいに、首を振りつつピィ、と鳴くと窓から翼を広げて去って行った。


一人になった部屋で、また考えに耽る。


周价達に、白燕の事ですか?と聞いたあの時。


彼らは明らかに白燕の名に反応した。違うと言い、ファイエンの依頼を出して来たけど……そのうち、白燕の事で依頼してくるのは想像が付く。


ハッキングして得た情報の中には、その組織の事もあったんだ。


殲滅に近い状態まで追いやられた白燕。この数年で、勢力を立て直して来ている、ってな。


しかも黒白龍に憎悪を深くし、大規模な抗争まで企てているらしい。


他にも、黒白龍内の末端の少数の組織員が、他の組織に情報を漏らしている、とか。

要は裏切りだ。


幹部が部下を把握し切れて無い為に、周りの地元民にまで波紋が広がってる。


一部の組織員が、黒白龍の名を出して横行している事が要因だろうが、そんな事は幹部だって薄々でも気付いているはず。


今の黒白龍トップ、以下幹部達にとって最も重要視されてるのは白燕、ファイエンの二つ。


組織の将来が掛かっているのだから当然と言えば当然、でも。


「これが、ファイエンとの決定的な違いなんだろうなぁ……」



キーは地元民、近隣地域の住民との結束。



組織を優先させるか、地域の住民達との信頼関係を重視するか。その視点の違いが、一枚岩の団結になっているかいないかの違い。


前者は黒白龍、後者はファイエン。彼らを貶してないのは本当だけど、統率が取れていないというのは強ち間違ってはなかったんだ。



翌日、そしてその次の日。周价達が来る日になっても、ラプターは帰って来なかった。



珍しいな。鮫島さんの時は、必ず翌日の昼には帰って来るのに。


そうして帰って来たのは、周价達が来る予定の二時間前。


「お帰り。珍しいな、お前が遅くなるなんて」


言いながら彼に近付いて、違和感を覚えた。


いつもなら銀筒に入ってるはずの手紙が、ラプターの脚に直接巻かれていたんだ。


「?」


素早く外して広げて見れば、印刷された写真が入っていて、鮫島さんの手紙も切羽詰まった様に綴られていたんだ。


ラプターを労わり、止まり木で休ませて手紙に目を走らせる。


“昨日、ダナニス社長が接触して来た。俺では無く、長官に会いに来たらしいんだ。俺はその場に居なかったから、詳しい話は分からない。

あの男、とんでもない物を開発してしまったんだ。写真をプリントアウトした物も一緒に入ってるはずだから見てくれ”


そこまで読んで、印刷された写真に目を落とす。


「これって、ロケットランチャー……?」


多分小型化されてるだろう、肩撃ちのロケットランチャー。軍隊やテロ組織なら持っているんだろうけど、何でこんな物を、あいつが?


表向きは食品事業を手掛けてるあいつには、全く関係無い物なのに。


もう一度、手紙に目をやり読み進める。


“あの男、食品以外に玩具分野に手を出したらしいんだが、男子向けに作ってみたのだ、と言っていたと長官から聞いた。


長官は確かに陸上自衛隊のトップだが、武器に関しては俺の方が知識が上だと言う事で、言いくるめて一つ手に入れてくれたんだ。


君も知ってるかもしれないが、これは肩撃ちの無反動砲。小型の所謂ロケットランチャーと言われる代物だ。確かに玩具として遊べるが、余りに精巧過ぎる。


試し撃ちしてみたが、飛距離に関しては本物より飛ぶ程なんだ。恐らく特殊弾……催涙弾の様な物なら、小型化に成功すれば実際に武器として使用出来てしまう。

俺も長官も、社長が框矢を狙って追手を掛けてる事は知ってるからな。否応無くこれで彼を狙ってるんじゃないか、って考えに行きついてしまうんだよ”


読み進めていけばいく程、サァッと血が引いていく。



框矢は確かに強いけど、こんな物で狙われたら間違い無く危ない。



俺が思った事と、同じ言葉が手紙の最後に書かれ、締めくくられていた。


俺が、もし框矢を助けに向かうとして。


直ぐに彼の元に行ける様でなければ、その行動は無意味でしか無い。


地道に鉄道なんかではダメなんだ。信号も、ましてや渋滞なんかも無視して進める様な交通手段。


そう考えると手段は一つ。空を行くしか無い。



「流石に長官には頼めねえよ、こんなの」



いくら目に掛けてもらっていても、要人でも無い框矢一人の為にチャーター機を用意してもらうわけにはいかないし。


頭を抱え、何か、何か手はないかと頭中の今までの記憶や知識の引き出しを片っ端から開けていった。



「そう言えば……」


ある事を思い出し、パソコンを起動した。今度は黒白龍に絞り、複数のサーバーを経由してハッキングする。



確か、最近でかい買い物をしてしたはず。


周价が来るまであと三十分を切っていて、ハイペースで、それでも見落としの無い様に目的の情報を探していく。



「あった」



十五分程して見つけた情報。

それはオーダーメイドでヘリを発注し、つい先日、本拠地に届いたという物だった。


発注先は日本のあるメーカー。黒白龍へのハッキングの痕跡を消して直ぐ、そのメーカーのパソコンへ侵入した。


どこから受注を受け、どんな装備を備えた機体なのか。


しっかり記録してあって、割と直ぐに発見出来たんだ。


黒白龍って海外のグループが、OH-1を元にしたヘリを一機発注した、とデータには残っていた。


OH-1は自衛隊に配備されてる偵察機。それに武装させ、乗員数を増やす。彼の機体に、装備や性能を良く似せた武装ヘリを受注したという。



だけど……OH-1の場合、確かコストは数十億だったはず。資本金二億に満たない黒白龍が、オーダーメイドのヘリ代をどうやって支払うんだ?



だけど、そこまで調べられる程の時間は残って無くて。痕跡を消すとこの後、彼らに対して実行する考えを纏めに入った。


周价達が来たことに気付いたのは、ラプターの羽ばたきの音。


ハッとして彼を見れば、羽ばたきしつつ部屋のドアを見つめていた。


いつもとは違う、何だか訴える様な長めの鳴き方で俺に教えてくれたんだ。あの二人が来るよ、って。


「ありがとな、教えてくれて」


頭や背中を撫でてやり、彼の好物をやると嬉しそうにがっついた。



「……やるしかない、か」


纏まった考えを周价に話す。


彼は黒白龍の中でNo.2だから、彼が受けてくれば、框矢を助けられる。


その為に、俺が出来るギリギリの交換条件を提示する。それに受けてくれるかどうか、なんだよなぁ……。


カチャ、とドアノブが回る音にふぅ、と溜息を一つ吐き、腹を括った。




***************




「先ず、本拠地からお話します」


俺の言葉に周价が頷くのを見て、口を再度開いた。


「ファイエンの本拠地は、四川省雅安市。棚田が広がる地域の中で、澄清村と言う村に、トップ及び幹部達が住まいとする家屋があります。

平屋の中々に広い家です」


ピラッとプリントアウトした地図をテーブルに置き、ペンで本拠地でもある家屋の位置にバツ印を付ける。


「かなりの敷地面積ですので、トップと幹部達なら裕に暮らせるでしょうし、直ぐ分かるかと。そして半年に一度、その家屋には幹部以下、各リーダーまでが集まります。

そうして、末端の組織員まできちんと指示が届く様にしているんです」


「……?リーダー、だと?幹部以外にも纏め役が居るのか?」


首を傾げた周价に、一つ頷きファイエンの簡単な構成を話した。


「先ず、トップが居ますよね。その次は幹部が。黒白龍はその下は一組織員のみの構成ですが、ファイエンにはリーダーが居ます。一人の幹部の下に複数のリーダーが居て、リーダーの下には更に班長が居ます。正確なリーダーの数、班長の数は調べていません。特に必要は無いでしょう?

……班長は十人から二十人程の末端の組織員を纏めています。幹部やリーダーが指示を聞くと、次に班長に指示が届き、班長は部下である末端の組織員を召集して指示を伝えます。大所帯だからこその工夫でしょうし、全組織員の把握も楽になる、と言うわけです」


組織員の把握、の部分を聞いた瞬間、彼の顔に苦い色が走った。



まあ、そうだろうな。現に今の黒白龍は末端まで把握出来ていないんだから。



「手を組むともなれば、時期はどうあれトップと会う事は必須のはず。その時、全幹部の顔も判るでしょう。なので幹部の名前や人数は飛ばします。会わなければ大して必要無い情報ですからね。

次に、トップの人物像の情報です」


地図は差し上げます、と周价に差し出せば、緩慢な動作で紙を折り畳んでスーツの内ポケットへしまう。


「ファイエンのトップは林光希(はやしみつき)、日本人女性です。年は30代半ば、未亡人」


「何?!女だと?」


愕然として腰を浮かしかけた周价を見やり、ゆっくり脚を組んだ。


「そうです。ですが、侮れば痛い目に遭いますよ。中国国内、もちろん国外にはあまり知られてはいませんが、彼女は確かIQ150近くあったはずです。それに温情溢れる一面を持ちます。

一方で彼女が敵と見なした組織は、全て彼女の機転や計略により、手痛い目に遭っています。その対象は、ファイエンに攻撃して来た組織。例え末端の者であろうと、殺されたのだと判明すれば全組織員を挙げて捜索し、犯人、若しくはその組織を壊滅まで追い込みます」


淡々と告げれば、周价も部下も、次第に顔が強張っていくのが良く分かった。


「更に付け加えるならば、彼らは絶対に近隣地区の住民に手を出す事はしません。恐喝はもちろん、手を上げる事すら、あらゆる横行が厳禁されています。そんな事をすれば、トップである彼女本人から容赦無く制裁が下るからです。

彼らはマフィアと言う裏の世界に身を置いていますが、あれは市の自警団と言う方が近いかもしれませんね」


「……」


「雅安市に存在する、六県二市轄区全ての地区の中に、必ずファイエンの組織員が居ます。それ故に、彼らは定期的に各県各市轄区の情報を集めています。

イベントなど催し事があればその手伝いや裏方になる為に参じ、何か災害があれば救助や補強などの手伝いに馳せ参じる。市内の住民との交流を図り、信頼を得て、堂々と存在出来る様にしています。いざと言う時は、彼ら市やその地区の住民に助けてもらえますから」


何の目的でファイエンが黒白龍と手を組もうとしているのか、それは分からなかった。


そんな感情に近い……とでも言うのか、彼女の思考まで捉える事なんて出来るはずが無いんだからな。


「ファイエンについての情報は以上です」


組んでいた脚を外し、再度周价を見るけど、彼はずっと苦虫を噛み潰した様な表情をしていた。


「……」


俺は黒白龍を貶しているわけじゃ無い。けれど、彼からしてみれば自分達と相手の違いを突き付けられたようなもの。



気分が良いはずが無い。



暫くして周价が身動ぎした。苦い色が抜けた、だけど何処か硬い表情で俺を見ると、流石だな、と呟く様に言葉を押し出したんだ。


「随分と参考になった……色々な意味でな」


何か意図を含んだような笑みを見せ、一息吐くと今度は周价が俺を見て来た。


「これで知りたい情報は全て貰った。次は料金のはずだが、何も言ってこないのだな。何かあるのか?」


その言葉にもう一度脚を組む。これはもう、無意識に近かった。


框矢を助ける為に。

彼は要らないと思うかもしれないけど、俺が勝手にする事だ。大事な親友を助ける為に……ここからが勝負所。


「そうですね……、料金請求に関して、少しお話があります。申し訳ありませんが、部下の方は席を外して頂けますか」


『何だと?』


今にもピシッと額に筋が走るんじゃないかと思う程に、俺を睨んで来る。


「こいつは俺の腹心の部下だ。口を割るような真似はしないが?」


周价の声に、部下から彼に視線を移す。


「別に彼がそういう真似をするとは言っていません。出なければ最初から、情報提供の場に彼を居させるなんて事はしていませんよ。

……俺は、黒白龍を代表して来ているあなた方に言っているのでは無い。黒白龍No.2としての周价、あなたに直接お話を申し込んでいるんです」


「!!」



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