表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マガイモノ〈未改訂版〉  作者: 海陽
マガイモノ
28/60

框矢の決意 side.影人

鮫島さんを背負い、屋上を駆けて行く框矢を見送る。そして部屋の血塗れのバスタオルを片付けながら、帰りを待った。


暫くして帰って来た框矢に、彼が好きな甘めのカフェラテを差し出す。


ありがとう、と受け取り、飲み干した框矢がソファで落ち着いたのを見て、一体何があったのか聞いてみたんだ。


框矢の服の夥しい返り血や鮫島さんの怪我は何なのか、って。



「あいつ、軽武装した数十人くらいの部下を連れて来やがったんだ」


そんな言葉から始まり、框矢はゆっくり何があったのかを話してくれた。


直ぐに車で帰って下さい、と言ったのに、鮫島さんがあいつの部下と対峙する框矢の下へ来てしまった事。


相手の大半を殺った時、弓と拳銃で彼を背後から狙っているのが分かった事。


弓矢の奴は防げたものの、もう片側の拳銃の奴に鮫島さんが撃たれてしまった事。


部下全てを倒し、あいつを護る最後の部下は気絶させた事も、あいつが拳銃を向けて来た為に、その利き手首を折った事も。


そして瀧宗に“心”が宿った事も。


鮫島さんに怪我を負わせてしまった事は、俺の想像以上に框矢を苦しめたみたいで。


「死ぬ事なんて怖いとは思った事無かったのに……」


ポツリと漏らしたその言葉に、思わず框矢を見つめた。


“死ぬ事が怖い”


それは、框矢の感情が本来の人としてのものに近付いて来た証拠だと思ったんだ。


その後も数日間、框矢は度々呟いていた。



俺に関わらなければ、こんな目にはならなかったのに……、って。



そんな事言うなよ、って言ってやりたかった。でも、ここまで思い悩んでる框矢を見たことも無くて。


何か考え込んでるように、黙々と瀧宗を研いたりしてる姿を、ただ見てるしか無かったんだ。


それからまた数日経って。鮫島さんの携帯を通じて、長官から彼が回復に向かいつつある、と知らせを受けた框矢。


その一報を受けて漸く、元の框矢に戻っていってくれたんだ。


そんな框矢の姿に、安心したある日。


「俺さ、この部屋から出る」



「……は?」



何で出てく必要がある?框矢を追いかけてるダナニス・青馬衣は、撃退したはずなのに。



「何で?」


「あいつ、そのうち絶対また来るだろ。その時に、この根城がバレたらお前が困るだろーが。

それに俺も帰る部屋が無くなるのは困る」


「いや、でもさ……」


せっかくまた暮らせると思ってたのに。


ラプターが居るとは言えど。

框矢が居ないと料理の腕を振るう事も出来ねえし、暇なんだぞ?


ブーブー文句を言う俺に、わるいな。でも決めたんだ、と苦笑する。


「明日、SPの給料日でさ。結局一年程やってたし、それなりに纏まった額が手に入るはずなんだ。その金で国内を色々旅してみたい」


お前の稼ぎには及ばないだろうけどな、と小さく笑い、その様子に俺は納得するしか無かったんだ。


俺が騒いだ所で、框矢はどちらにしろ行ってしまうだろうから。


だからせめて、一週間待ってくれ、って頼んだんだ。


渡す物を作りたかったし、駅まで送り出したかったから。




***************




「何だこれ」


俺が渡した物を腕に嵌め、眺めて首を捻る框矢。


「これ?俺が開発した猛禽類用のGPSみたいな奴さ。防水だから、ずっと付けててくれよな」


「ふーん?」


GPSなぁ?としげしげと腕輪を眺める。


「一ヶ月に一度くらいは、絶対連絡しろよな」


至って真面目に言ったのに、框矢の奴、軽く吹き出したんだ。


「お前も鮫島さんと同じ事を言うんだな」


くっくっと笑いながら、分かった、と応えてくれた。


「時々ラプターを寄越すよ。その腕輪はその為のものなんだ。あいつは頭が良いから、多分ちゃんと框矢を見つけてくれるはずだしな」


そして、要らん、と言い続ける彼に金庫から金を出して無理矢理持たせ、駅で框矢を送り出した。



あぁまた暇になるな……、なんて思いながら。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ