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マガイモノ〈未改訂版〉  作者: 海陽
マガイモノ
23/60

本領発揮 side.框矢

何で話してしまったんだろう。


休憩が終わり鮫島さんの後に付いて護衛対象の長官の元へ向かいながら、ずっともやもやしていた。


話すつもりなんて無かった。この人と俺は、仕事の上下関係だけのはずだったのに。


採用試験の結果に、試験官達は驚き信じられないと言った眼で俺を見ていた。極力能力を抑えてこの反応なら、それ以上を知られたら皆、俺から離れていくに違いない。


そう思ってたんだ。別に元々人とあれこれ接するのは得意では無いから、それでも良いとは思ってたけどさ。


前を行く鮫島さんの背を見つめる。

本当に変わった人だな、この人は。影人やダイルの事は本当に追及してこない。


俺の事も普通の人間じゃあり得ない身体能力なのに、怖れるどころか更に興味深々で知りたがる。


「ん?框矢、どうかしたか?」


「いえ。世の中、変わった人も居るもんなんだな、と」


不意に俺に振り向いて明るい眼を向ける鮫島さん。思ったままを言えば、愉しそうに笑った。


「そうか、変わった人か。世の中は広いんだ、一人や二人変わった奴が居たって良いだろ」


「はぁ……」


俺の頭をぐしゃぐしゃ撫で回し、長官の元に居る唐丈さん達と交代する。その日は何事も無く、もちろん長官も無事だった。




けれどそれから二日後。鮫島さんが恐れていた事が起きたんだ。


その日。俺達は長官の私用で、車に乗って移動する彼を囲んで護衛していた。


ビルが林立しそのビル群も高層ビルばかりのその場所で、それは起きた。


パシュッ


小さな音が響いたと思った瞬間、車の後輪がパンクした。


幸いにもスピードが緩かったから、中の長官が車の横転で怪我をするような惨事にはならなかったけど。


「ど、どこから?!」


「長官の周りを固めろ!」


秋本さんや白峰さんの声の中で、鮫島さんの構えろ!と指示が飛ぶ。


俺を除いた全員が支給された38口径を腰から構える中、また鮫島さんの声が聞こえたんだ。


「框矢!」


「はい」


林立する高層ビルの中層をぐるっと見回し、微かに影を捉える。焦点を合わせれば、窓からライフルを構えている男だと分かった。


「特定しました」


鮫島さんに言うや否や、腰のSIG SAUER P230を抜き、銃弾を一発外す。


そして。


かぶりを付けてそれをライフル目掛けて全力でぶん投げた。


「框矢?!」


この時に何してんだ!と神宮さんの苛立つ声が聞こえ、それとほぼ同時に遠くで銃が暴発した音が響いた。


「?!」


ギョッとして中層を見回す神宮さん達を他所に、鮫島さんに声を掛ける。


「過激派はあの部屋に居ます」


細く煙が上がる中層の部屋を指すけど、鮫島さんには良く分からないようで。小型の双眼鏡を手渡すと、それで漸く分かってくれた。


影人に感謝だな。あいつのくれた双眼鏡が役に立った。


「捕らえますか」


「一人で行けるか?」


「はい。あの高さなら行けます」


信じられないと言った色を微かに滲ませながらも、胸ポケットに入るサイズの無線機を渡してくれた。


「1を押せば俺に繋がる。十二分に気を付けて行け」


その言葉に一つ頷きダッと駆け出す。無線機を胸ポケットにしまい、ジッパーを締める。


脚に力を込め、俺は外の世界で初めて能力のリミッターを外した。




信号機の上に着地した瞬間、左側の高層ビルへと跳ぶ。次は右側のビルへと移動。そしてまた左側のビルの壁に向かって跳躍した。


林立するビル群の壁を交互に蹴り、時に信号機の頂部を蹴る。耳元でヴヴヴ……と風が冷たく切り、痛い。脚力をフルに使い、過激派の居る一室へと近付いて行く。




そして、彼らの居る一室の窓へと手が届いた。


何故ライフルが暴発したのか、原因が分からずに混乱している騒音に似た声が飛び交っていて、俺には気付いていないみたいだ。


腕力で窓から室内へ乗り込む。窓のアルミサッシに腰掛け、一つ息を吸い込んだ。


「おい」



『『?!』』


『……、…!?』


『ーーー!!ー、ーー.』


過激派全員が、明らかに日本人離れした顔つき。飛び交う言葉も俺には理解出来ない。


「お前らの中に日本語が分かる奴は居ないのか」


既に生き物の様に温かく脈打つ瀧宗の柄に手を伸ばし、いつでも抜刀出来る態勢に移りながら更に声を掛ける。


何故か、ビル群の壁を移動している時から瀧宗が熱を帯びて来ていた。目の前の過激派に近付く度に脈動が強くなっていって、それはまるで早く抜刀してくれと言ってるみたいで。


『……?……!』


『ー、ーー!!』


何人かが騒いでいたけど、一番奥に居たリーダーっぽい男がひと声上げた。その途端、周りの奴らの騒ぎがあっという間に静まったんだ。


「お前、誰だ?」


音は低いが流暢な日本語。声だけなら日本人だと思う程の。


「お前らが狙っているのは鍵重長官だろう。俺は彼の護衛の一人だ」


言った瞬間、男が何か言うと同時に周りの奴が拳銃を構える。


「どこから来たかは知らんが、たった一人でなんて無謀だな。多勢に無勢ってやつだ」


「……」


遅いな。

指示と同時に構えたんだろうけど、俺からしたら遅過ぎる。


残りは7発。弾倉から一発抜いたから、空砲があるはず。相手は六人。リーダー格に数発、残りは瀧宗で何とかなりそうだな。


頭を目まぐるしく回転させ、チラッと瀧宗に視線を落とした。


生きている様に脈打つ瀧宗にもう少し待て、と言い聞かせるように鞘を持つ左手に力を込めて。


「やってみなければ分からないだろう。お前らの……」


言葉を続けようとした次の瞬間、銃弾を避ける。


「マナー悪いな。人の話は最後まで聞くものじゃないのか」


「敵の話をのこのこと最後まで聞くほど、利口じゃ無いんでね」


悪気も無くハッと薄ら笑いを浮かべる過激派に、そうか、と一つ息を吐いた。


「なら、容赦無くやらせてもらう」


短く言い放った刹那、SIG SAUER P230を腰から抜き発砲。流石に反動があるから、右手に左手も添えたけど。


六人中四人が拳銃を向けて来ていた。だから、拳銃を持っていたその利き手に一発ずつ。


「……!」


一人は腿を撃ち、リーダー格の額に間近で銃口を構える。


『……!!』


『ー、ーー?!』


俺の背後で、撃たれた痛みに悶える奴らには目もくれないリーダー格の男。


「まだやるか?」


静かに聞けば、フッと小さく嗤う。


「大したもんだ。まさか瞬殺されようとはな」


「……」


銃口が向けられてるにも関わらず、眉一つ動かさない彼。


「だが終わりじゃない。お前みたいな若造に、やられっ放しじゃ終われないんだよ。こっちは」


背後から殺気を感じ、間一髪で跳び避けた。俺が居た所に、利き手を血塗れにしながらもギラギラと眼を光らせる奴らが居て、俺を睨んで居た。


「お前は動かないのか」


「それは最終手段さ」


こいつらだけでも腕は立つからな、と仲間に指示を飛ばす。自分は動かないのか。……卑怯な奴。


思わず瀧宗を握る左手に力が篭る。それに呼応する様に、瀧宗が大きく脈打った。


残り一発のSIG SAUER P230を腰に素早く戻すと、右手で瀧宗の柄を握る。



「……瀧宗。行くぞ」



鞘を抜く事なんて忘れていた。


狭い一室で、壁を、天井を踏み台に瀧宗を振るう。


腕の腱を切り、柄頭で側頭や後頭部を打ち、手に持っていたライフルを一閃する。


スタッと床に立った時、無意識に大きく息を吐いた。瀧宗を振るったのは、僅か息を止めて居られる程の短時間だったんだ。


室内で立っているのは、俺とリーダー格の男だけ。長官を狙っていたと思うライフルは二等分されて転がり、リーダー格以外の男達は卒倒して倒れていた。中には俺が腱を切ってしまった為に、腕が使い物にならなくなった奴もいる。


「後はお前だけだ」


抜刀状態の瀧宗の(きっさき)をリーダー格に向けた。


左下から右下に刀身を振り、(しのぎ)や刃紋に残っていた血を払う。そうして再度、目の前の男に鋒を向けた。


「俺の役目はお前ら過激派を捕らえる事。……大人しく捕まってくれると楽なんだけど?」


微かに口を開けて呆然としていたそいつは、俺の血を払う仕草に一歩後退りする。一歩近寄れば、更に後退。さっきまでの“多勢に無勢”と嘲笑う態度は微塵も残ってない。


険しい、後が無い様な表情で俺に片手サイズの何かを見せつける。


「寄るな、寄ればお前も死ぬからな……!」


命は惜しいだろう?と俺を睨み、更にもう一つ取り出す。それは、鮫島さんが資料で教えてくれたアメリカ製手榴弾にそっくりな代物。


「お前だって護衛なんぞやってるくらいなんだ、手榴弾くらい分かるだろう?!この部屋の狭さ、地上から30階以上の高さで逃げ道も無い。この部屋の全員がお陀仏さ!」


それは、犯人の過激派全員を死亡させてしまうと言う事で。俺が失敗すれば上司の鮫島さんの責任になる。そんな事させるか!俺はどうでも良いけど。


「別に命なんて惜しくない。いつ死んでたっておかしく無かったからな、俺は」


あの実験で仲間が次々死んだしな。俺が実験で死んでたっておかしくは無かったんだ。


「だけどな。お前らに死なれちゃ困るんだ。俺の上司に迷惑が掛かる」


「知るか!俺達に失敗なんて許されないんだよ。失敗したその時、俺達に待ってるのは死だけさ」


言うや否や、目の前の男は安全ピンを引き抜きやがったんだ。考えるより先に、身体が動いていた。


瀧宗の鋒で男の手を軽く刺し、手榴弾をもぎ取ると窓から上空へ思いっきり放り投げる。


直後。高層ビルより僅かに高い上空で、それは爆発音と共に飛散した。


それを眼の端で捉え室内に目を向ける。男は腰が抜けたのか、床にへたり込んでいた。


「……これは俺がもらって置く」


男からもう一つの手榴弾を取り、ウエストポーチにしまう。入れ替わりに出した縄でリーダー格の男から順に縛り上げ、彼だけは猿轡を噛まさせてもらった。


影人の奴が持たせた物全て、役に立つなんてな。……何か癪だ。


ふと気付き、床に転がってしまっていた瀧宗を拾い持つ。瀧宗は既に納刀状態になっていて脈動も無くなっていた。


「?」


一体、さっきまでの生き物みたいな感じは何だったんだ?


しげしげと瀧宗を見るも、何の変化も無くて。抜刀した覚えも無いのに過激派の腱を切った。そして今、納刀してないのに納刀状態に戻ってる。


一体何なんだ?


「鮫島さん」


取り敢えず、無線機をポケットから出して1番を押す。


“框矢!無事か?!”


「全員捕らえました。怪我をさせてしまいましたが」


“いや、良くやった。今から別動隊が行くから戻ってきて良いぞ”


「一応、自滅しない様にリーダー格には猿轡も嵌めてあります。武器類は破壊、手榴弾を持ってましたので没収しました」


本当に誰も居なくて良いのか?一応、自衛隊のトップを狙った奴らなのに。


“分かった。没収した手榴弾は持ってきてくれ。……実はな、さっき言った別動隊、俺達SPとはあまり仲が良いわけじゃないんだ。出来れば接触は避けたい。見つからない様に戻って来てくれ。もうそろそろ、ビル内に入ってるはずだ”


「分かりました。今から向かいますが、何処に居ますか?」


“いや、全く動いてない。パンク修理に時間を取ってしまったからな”


「ではそちらに向かいます」


無線機を胸ポケットにしまい、俺をジッと見ていたリーダー格に目を向けた。


「聞いた通り、今から別動隊がこの部屋に来る。俺は上司の指示に従って戻る、だけどな。自殺しようとは思わない事だ。……俺みたいにはなるな」


“俺みたいに自分の命を粗末に考える様な奴にはなるな”


伝わったかなんて分からない。何故か、そう口にしていた。窓に寄り、こっちに注目してる人間が居ない事を確認する。


身を乗り出す形でアルミサッシに腰掛け、左手で瀧宗を持った。ビルの外壁に着いた足とアルミサッシを掴んだ右手、右腕に全体重を乗せる。

丁度、手を離せば落ちる位置だ。


「……ッ?!」


背後からくぐもった声と言うか、息を飲む様な音がして振り返ると、リーダー格の男が目を見開いて俺を凝視していたんだ。ものすごく何か言いたげな色を浮かべた眼。“目で訴える”って言うのはこう言うことか。


「何か言いたげだな。……だけど答えてやる時間は俺には無いんだ。悪いな」


男から視線を外し脚に力を込める。そして俺は、壁を蹴った。

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