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マガイモノ〈未改訂版〉  作者: 海陽
マガイモノ
14/60

思わぬ人助け side.框矢

コンビニに立ち寄り、求人情報誌を手に取る。そしてカプセルホテルで寝泊まりしてた時にやっていたように、何冊か手に取ると近くのカフェに入った。

カフェオレの文字に目が止まったからだ。


正直言って、コーヒーオレとカフェオレの違いが分からん。けど写真のカフェオレがなんだか無性に美味そうで、一杯300円なら……と思ったんだ。


「お待たせ致しました、カフェオレになります」


夏だっていうのにホットしか無かった。それでも、ほんのりと甘いカフェオレにすごく気に入った自分がいた。


「美味いな」


小さく啜りながら求人情報誌を片っ端から捲っていく。


そもそも、だ。

何で俺、また仕事捜ししてんだろう。


頬杖しながら窓からぼんやり外を眺める。あいつが来なければ、俺は今もあの社長の下で働いていたはずなのに。夜間工事のバイトだってそうだ。


「何て名前だったっけな、あいつ」


近くの国を治めたいとか言う、変な野望を生き生きとして俺に勝手に語ってたな。確か……ダナニスだったか?青馬衣、とも言ってたな。

やっぱり変な名前だ。


幾つかのバイトに目星を付けると、俺はカフェを出た。携帯に入金しとかなきゃいけないし。


そう思って歩いていた時だったんだ。そいつと出会ったのは。


「俺のダチを返せっ」


「ん?」


道路から傍に入った、狭めの路地。

明るいストレートショートヘアの奴が、彼より体躯の良い柄の悪そうな奴三人に立ち向かっていた。


道路で立ち止まったのは俺のみで、周りの大人達は気にはしながらもただ通り過ぎて行くだけ。


多分俺と同じ年のそいつ一人に、体躯の良い奴が三人。


ニヤニヤしやがって、まるで弱い者いじめだな。


内心呆れの溜息を吐く。

だが俺にとっては無関係な相手。手を出す真似はしない。


「……可哀想な奴」


三人組の奴らに、つい小さく呟いてしまった。だってたった一人に、体躯の良い奴が複数で居るなんてさ、みっともなく無いか?


目線を反らし、立ち去ろうとした時。


「おい、ちょっと待てや」


野太い声が俺を引き止める。

声のした方へと焦点を合わせれば、体躯の良い奴三人の一人が俺を睨んでいた。


「俺のことか」


「おめー以外に誰が居んだよ。俺らの事を、ずっとガンくれよったなぁ?」


こっち来いや、とどうやらこのまま行かせてはくれなさそうで。周りを通る人達は俺を避けて歩いて行く。


……面倒なのに引っかかったな。


仕方なく路地へと足を進めれば、隣の明るい髪の奴がチラッと俺を見た。


「おめー、俺らの事を見下した様に見ていやがってよ。何様のつもりだ、ぁあ?」


「別にそんな風に見ていたつもりじゃない」


ただそう答えただけなのに、三人組には癪に触ったようだった。


「こいつ、俺らを馬鹿にしたぞ?!」


「ただじゃ帰さねえからな!!」


口々にそんな言葉を吐き、パキンポキンと組んだ手を鳴らす。何でこうなるんだよ。俺はバイトの為に携帯の入金をしに行く所だったのに。


「なぁ、俺のダチを返してくれ!」


「!」


隣の明るい髪の奴が、三人組に声をあげた。すっかり存在を忘れていたからちょっとびびった。


と言うか、ダチって何だよ。仲間みたいなもんか?


「返してくれと言われて返す奴が居ると思うか?あの鳥は俺らが飼ってやるよ!」


しかも鳥?人間じゃ無くて?


ギャハハハと馬鹿にした笑いを三人組がしている間、隣の奴に少し目線を向けた。


「お前、仲間を盗られたのか」


「……そうだよ。大事な相棒なんだ」


ふーん、と微かに相槌を打った。だけどまた新しい“相棒”って単語が出て来て、内心首を捻る。


「そんなに大事な鳥なんだな。素手でも立ち向かおうとするなんて」


「家族の居ない俺にとって、家族同様のダチなんだよ」


こいつも家族が居ない?


「そうか」


口では短く答えたものの自分と似た奴が居るなんてびっくりで、少し目を見開いてしまった。


「おめーら、俺らを差し置いて喋るなんぞ良い度胸してんじゃねぇか」


怒りを伴った低い声に、俺と明るい髪の奴は三人組に視線を戻した。と、その視界の端に動く影を見つけて素早く焦点を合わせる。


鋭い眼と爪を持ったやや大きい鳥が、脚に鎖を付けられ近くの柱に駐まっていた。


「お前らが盗ったのは、あの鳥か?」


そう鳥を指すと、真っ先に反応したのは隣の奴だった。


「ラプター!」


彼の呼び声にピィ、と応える様に鳴くがその場を動こうとはしない。まあ、鎖があるから動きたくとも動けないんだろうが。


「ラプター、俺の所に戻って来いよっ」


「無理だろ。鎖で繋がれてるぞ」


「え?!」


20m程ある柱の頂上に停まる鳥を凝視するも、首を捻る。


「わかんねえよ。ほんとに鎖が?」


黙って頷くと三人組がざわめいた。


「お、おめー、何で知ってんだよ!」


「鎖をつけた時におめーは居なかっただろうがっ」


その言葉に、隣の奴も本当の事だと分かったらしい。だが暫く考えるそぶりをすると俺を見て来た。


「なぁ、あんた……腕が立つのか?」


「……」


その問には答えたく無い。こいつのせいで早々にこの街に居られなくなるなんて、そんなの勘弁だ。俺はバイト探しの最中だったのに。


「な、ラプター取り戻すの手伝ってくれよ。礼もするからさ」


「俺はバイト探しの途中だったのに。何でお前のダチとか言う鳥の奪還をしなきゃいけないんだ」


「そんな事言うなよ。な、頼む!早くここを離れられれば、あんただってバイト探しにすぐ戻れるだろ?俺だってラプターを取り戻せるしよ、一石二鳥じゃないか」


そりゃそうかもしれないけど。


ふと視線を感じ、チラッと後ろの道路を見やる。誰も居なかったけど、あまり注目を浴びたく無いんだ。ここでの事が長引けば長引く程、良くない気がする。


仕方ない、か。

ハァ、と溜息を吐き隣の奴を見た。


「お前、素手での腕は?」


「あまり。短剣の腕ならそこそこだけど、今は持ってない」


……ダメじゃねえか。


「お前、絶対盗るなよ。詮索もするな。

俺がやる」


三人組と対峙しつつ、素早くそんな会話を交わすとそいつにリュックサックと瀧宗のケースを預けた。


「え?お、おい」


慌てて荷物を受け取ったそいつの声を背に、三人組を見据えると同時に路地が奥に一直線に伸びているのを確認する。次いで三人組の構えに目をやった。


甘い。隙だらけだ。……さっさと終わらせてしまおう。


一歩右足で踏み込み、真ん中の奴に近付く。


間髪開けずにそのまま腹に回し蹴りを放った。


俺が脚を下ろしたのと、相手が数m奥に崩れ落ちたのがほぼ同時。


次いで一人は鳩尾に、一人は顎に拳を叩き込んだ。


とりあえず一人一発ずつ。間合いを取って……と思っていたのに、気付けば三人全員が伸びて倒れていた。


「口程にもない。お前ら弱過ぎだ」


あっけなさ過ぎだろ。あんな軽い一撃でアウトだなんて。


構えを解き、預けた荷物を取って背中に担ぐと、柱の所へ歩く。


「お前、あの鳥を呼べるか?この柱の真下なら、降りる事も出来るだろ」


「え?あ、あぁ」


呆気なく決着がついた事に茫然としていたそいつは、ハッとした様に柱の所へ近寄って来た。


「ラプター!」


そいつの声に即座に反応すると、急降下して腕に停まった鳥。脚にはやっぱり鎖がついていた。


ピィッと一鳴きし、何度も羽ばたきするその姿は中々にかっこ良い。翼を広げたら一体どれだけでかいんだろう。


「本当に鎖が……」


隣から聞こえた声に、俺も鎖に目を落とす。片手で楽に握れる細さだが、手では引きちぎれないように二重に付けられている。


「刃物でもあればこんなの直ぐに外してやれるのに」


彼は鳥の背中を撫でてやりながら、悔しそうに鎖に睨んでいて、本当に大事な奴なんだな、って良く分かった。短剣は持ってるけど出したくは無い。ダイルの教えがあるからな。


鳥の脚から伸びる鎖は、柱に巻きつく様に繋がれていて。少しなら柱から離れられるみたいだった。


この細さなら。かなりの速さで強い衝撃を加えれば壊れるかもしれない。でも壊れなかったら鳥の脚にも衝撃を与えてしまう。


「……」


FARMで何度もやらされた、体力測定と言う名の実力調査。拳で、蹴りで色んな物を破壊させられた。

時には剥き出しの刃物さえも素手で(高リスク付きで)


それに比べれば、容易く壊せるかもしれない。特殊な素材じゃ無ければ、だけど。


「お前。柱から少し離れろ」


「え?」


「鎖が柱から分断されれば良いんだろ。壊す」


「……は?!」


鎖を壊す。その単語に目を白黒させたそいつ。ころころと良く表情が変わる奴だな。


「一応脚の近くで鎖持っとけ」


短く伝え、そいつが少し柱から離れたのを確認。そして。


柱から横に伸びる鎖めがけて、持てる最高速の回し蹴りを右脚を軸に放つ。


脚を下ろして目線を鎖があった所へやると、鎖はちぎれて鳥の脚からぶら下がっていた。剣の腕なんて知った事じゃ無いけど、身体一つでなら、足技が一番やり易い。


それを実感したんだ。FARMじゃ、対人の攻撃はした事が無かったから。


「これで良いだろ」


さっさとバイト探しに戻りたい。


ぽかんと口を微かに開けたまま俺を見てくるそいつにそう言って、俺は路地を出た。

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