観察18:風邪?
「……は? 瑞菜は風邪で休み?」
瑞菜の家の前で待っていたオレと雪奈に、呼びに行っていたこころはそう言う。
「そ。だからさっさと行きましょ」
「……あのー、こころさん?」
「サボるのはなしよ。どこかの妹様と違って瑞菜さんは大人だから一人でも大丈夫だろうし」
「あれ? さり気なく私馬鹿にされてない?」
「馬鹿にはしてないんじゃないか。子供扱いされてるだけだ」
「どっちにしてもひどいよね!?」
「うぅ……オレの告白計画が……」
「ご愁傷様。ま、帰りにでもお見舞い行けばいいじゃない」
「いや、今から行く」
「そんな時間ないわよ。次の電車乗れなかったら遅刻でしょうに」
「まぁまぁお兄ちゃん。瑞菜さんは逃げないんだから」
「……だったらいいんだけどな」
本当にオレの前からいなくならないのであれば、急ぐ必要はない。でも……。
(瑞菜は一度オレの前からいなくなってる)
それ自体は瑞菜の意志とは関係のないことでも。ことだからこそ、またいなくなるんじゃないかという恐怖がある。
(……ただの風邪だったらいいんだけどな)
そう思いながらオレは学校へと向かった。
「久しぶりだな。海原」
「おはよ。永野。久しぶりって言っても金曜に会ったばかりだろ」
「……そうだっけ?」
「ぼけたか。いい老人ホームを紹介してやろう」
「ちょっととぼけてみただけなのに飛躍しすぎだろ」
教室。席に着いたオレのもとに永野がやってくる。いつも通りな馬鹿な会話に少しだけ気が晴れる。
「そういえば春日さんはどうしたんだ? 今日は山野さんしか一緒に来てなかったけど」
「ん、あぁ風邪だってよ」
「ふーん。今週で学校も終わりなのにな。終業式にはこれればいいけど」
「流石にそんな長引くことはないと思うが……」
ただの風邪であるなら。
「だといいな。……ところで昨日は春日さんに告白されたんだってな」
「っ!? ……なんでお前が知ってんだよ」
「あぁ、ほんとに告白されたのか。一応カマをかけただけだったんだが……」
「カマをかけるにしてもその可能性があるって思った理由があるだろ……」
「土曜に春日さんに会ったんだよ」
「どこで?」
「ふむ……ちょうどいい機会かもしれないな。海原、今日はオレに付き合え」
「嫌だよ。オレは瑞菜のお見舞いに行くんだ」
「時間は取らせないし……お前にとってもマイナスじゃないと思うぞ」
「……考えさせてくれ」
妙に真剣な様子の永野の様子を見てオレはそう返す。
「じゃあ放課後あらためて返事を聞かせてくれ」
「あぁ……」
ほんとに色々考えることが多い。オレは一つため息をついた