観察7:けじめ
「あ、瑞菜さん。どう? 一緒にお昼食べない?」
昼休み。あたしは俊行を探してる様子の瑞菜さんにそう声をかけた。
「こころさん? うん。もちろんいいけど……とーくんはどこ行ったのか知らない? すぐに教室出ていったみたいだったけど」
「そこらへんは食べながらにでも説明するわ。とりあえず一時は帰ってこないんじゃないかな」
「んー……分かった。じゃあどこで食べる? 普通に教室かな?」
「少し暑いだろうけど屋上で食べましょ」
「屋上? うん、分かった」
頷く瑞菜さん。あたし達は弁当を片手に持って屋上へと向かった。
「あはは……流石にこの時期になると暑いね」
梅雨も明けて夏休みも間近になった今、屋上の日差しは少し厳しいものがある。
「そうね。んー……でも風が気持ちいいわね。クーラーはいってる所にいるよりかは気分がいい」
「こころさんはクーラーとか苦手?」
「苦手ってほどでもないけど、今日くらいの暑さなら自然の風のほうがいいかな」
「あはは……それなんとなく分かるかも」
「ん、それじゃ食べましょうか」
屋上に設置されているベンチに座り昼食を取り始める。
「それで、こころさん。とーくんはどこに行ったの?」
「そんなに気になるならついていけばよかったのに」
「それは、だって……トイレかもしれないし……」
「まぁ昼休み入ってすぐ出ていくってなると食堂か購買、じゃなければトイレが普通よねぇ」
そして俊行は弁当組だ。あたしと同じ雪奈の手作り弁当。
「それで、とーくんはどこに?」
「隠しても仕方ないから言うと雪奈のところ」
「雪奈ちゃんの? 一緒にお昼食べに行ったのかな?」
「そそ。今度の日曜日、俊行が瑞菜さんと出かけるって言ったら雪奈がすねちゃってさ。今日一緒にお昼食べないなら弁当渡さないって言い出して……」
「あはは……なるほど」
「機嫌損ねてるってのは分かってるから昼休みに入ったらすぐに向かったんでしょうね」
「あの二人って本当に仲がいいよね」
「そうね。あの二人の関係はもう完成されてるわ」
「…………それって、あの二人の間には割って入る事ができないってこと?」
「いいえ。割って入る必要がないってことよ」
もしも、俊行が雪奈と距離を置き続けていたならまた違った結果が生まれたかもしれないけれど。それになにより……。
(俊行はもう選んでしまっている)
「そっか……少しだけ安心した」
「あら? あたしの言いたいこと分かったんだ」
「うん。言葉遊びは好きだから」
「ふーん……それで? 安心したってどういう意味?」
「うん。これで雪奈ちゃんに遠慮する必要がないって分かったから」
「それは…………どういう意味で?」
「そんなこと言わなくてもこころさんなら分かってるよね」
「そう……」
「だから今のうちに謝っとくね。ごめんねこころさん。私はあなたに遠慮なんてしないよ」
「………………」
「だって私はあなたを恨む理由はあっても遠慮する理由はないから」
「うん……」
「なんて言っても別に恨んでなんかいないけどね。だってとーくんがなんの理由もなしにそういうことするはずがないから。こころさんにも何か事情があったってのは分かってるし」
理由なんてない。あるとしたらあたしが弱いこと……あとはあの馬鹿がどこまでも不器用で甘いこと。
「でもやっぱり遠慮はしないよ。だからこころさんには今のうちに宣言するね」
それは彼女なりのけじめなんだろう。なんてまじめで……なんて残酷な優しさ。
「私、今度の日曜日、とーくんに告白するよ」