第22話「合わない数」
歩く
隣に人がいる
一人
はっきりと一人
それが続いている
重ならない
消えない
ちゃんと存在している
その安心感が、
少しずつ薄れていく
理由はわからない
でも、
何かが引っかかる
足音が二つ聞こえる
自分と、
隣のやつ
それだけのはず
でも、
もう一つある気がする
重なっていないのに、
増えている感じがする
止まる
音も止まる
完全に二つになる
さっきの違和感が消える
いや、
消えたことが気になる
歩き出す
また戻る
三つ目の気配
はっきりしない
でも、
消えない
「……聞こえるか」
隣のやつが言う
前を見たまま
「足音」
短い
こっちを見ることもなく
言い切る
「……ああ」
答える
その瞬間、
三つ目の足音が、
はっきりする
今までよりも
隠れなくなる
認識したからかもしれない
「増える」
隣のやつが続ける
「数えようとすると、増える」
その言葉が、
そのまま残る
消えない
止める
数えない
意識を外す
すると、
三つ目が曖昧になる
消えたわけじゃない
でも、
形を持たなくなる
視界の外に逃げる
前を見る
人影がある
いくつか
点々と
距離を保って立っている
それぞれ離れている
重ならない
はずなのに、
少しだけ位置がズレて見える
同じ場所に、
重なりかけているような
目を細める
一人を見る
輪郭が二重になる
すぐに戻る
最初から一人だったみたいに
でも、
今のズレは消えない
感覚として残る
「ここも、完全じゃない」
隣のやつが言う
静かに
「外でも?」
聞く
少しだけ早く
反応する
「外だから、だ」
短い
でも、
意味が深い
そのまま残る
消えない
歩き続ける
地面は安定している
空も変わる
風も流れる
全部、
“普通”に近い
でも、
どこかでズレている
完全じゃない
遠くの人影が一つ、
こちらに近づく
ゆっくりと
距離が縮まる
その動きは自然
でも、
ほんの少しだけ
速さが揃わない
一歩ごとに
微妙にズレる
近づいてくる
顔が見える
知らない
でも、
やっぱりどこかで見た気がする
「新しく出たやつか」
そいつが言う
普通の声
遅れない
「……ああ」
答える
「何人だった」
聞かれる
反射的に答えそうになる
口が動く
「……」
止まる
言っていいのか
迷う
隣のやつが横で小さく言う
「やめとけ」
短い
すぐに理解する
やめる
「覚えてない」
言う
嘘じゃない
でも、
完全な真実でもない
その曖昧さが、
ちょうどいい気がする
相手が少しだけ頷く
「そういうことにしとけ」
それ以上は聞かない
自然に話が終わる
でも、
切れない
繋がっている感じがある
さっきよりも、
少しだけ楽に呼吸できる
歩く
三人になる
一人増えた
はっきりしている
今はちゃんと三人
でも、
時々四人になる気がする
一瞬だけ
誰もいないはずの位置に、
誰かいる感じがする
振り向く
いない
最初からいなかったみたいに
でも、
その“余り”だけが残る
消えない
「なあ」
口を開く
「ここって、増えるのか」
聞く
自然に
隣のやつが少しだけ考える
その間がある
「増えはしない」
ゆっくりと答える
「でも、合わなくなる」
さっきと同じ言葉
でも、
少しだけ違う重さがある
今度は、
より具体的に感じる
前を歩くやつが振り返る
「足りなくもなる」
付け足す
短く
その言葉で、
中の感覚と繋がる
“たりない”
同じ
でも、
今度は固定されていない
揺れている
増えたり減ったりする
安定しない
視界が少しだけ歪む
三人いる
はずなのに、
一瞬だけ二人に見える
すぐに戻る
三人に
でも、
今の欠落が残る
消えない
理解が進む
ここは
外だけど、
完全な外じゃない
中と繋がっている
歪みが残っている
そのまま、
歩き続ける
人影が少しずつ増える
距離を保ちながら
点のように
広がっている
その配置が、
どこかで見た気がする
広場と似ている
円じゃない
でも、
似た構造をしている
気づく
ここも、
形を持っている
ただ、
固定されていないだけで
その理解が、
静かに残る
消えない
空を見る
色が変わる
時間が進む
でも、
どこかで感じる
完全に外に出たわけじゃない
まだ途中にいる
その感覚が、
はっきりと残り続ける




