53食目、黄金炒飯
炒飯の中で何の具材を使ったものが難しいのか?炒飯といえど、千差万別であり、客にも好みがある。
だが、中華料理人の腕を確かめるのにピッタリな炒飯がある。それは黄金炒飯、名前を見れば実に貴族が好きそうな名前である。
しかし、その実情は実にシンプル。炒飯共通の冷や飯に調味料を除けば、卵のみである。
ただし、シンプルが故に料理人の腕が物凄く問わられる一品であり逸品である。
「ガウン出来るか?」
店長である悠真の問いに、ガウンは直ぐには答えられなかったが、コクンと頷く。
「オデ挑戦する」
「よし、作ってみせろ」
悠真は信じてるからこそ、ガウンに任せた。今のガウンになら俺の舌をも唸らせる黄金炒飯が出来るはずだ。
基本は出来てる。中華の命である炎も自分の手足のように扱いきれてる。熊の獣人であるが故に体力も悠真よりあり、半永久的に中華鍋を振るう事も出来る。
ガウン自身は律儀な性格が相まって認めないかもしれないが、もしかしたら…………将来、俺を越すかもしれない。
ガウンを見守りながら、俺は注文が入った料理を作る。いくら、試験といっても営業中だ。次から次へと注文が入ってくる。
だから、味を見る以外は基本的に放置してる。
「よし、頑張る」
ガウンは、黄金炒飯に取り掛かる。中華鍋にお玉で油を回し掛け、余分な油を戻す。
黄金炒飯の作り方は、卵液を入れ素早く掻き混ぜる。半熟になった所で冷や飯を入れる。ご飯1粒1粒がくっつかない様に中華鍋を振り、ご飯と卵が宙に舞う。まるで卵とご飯がダンスを踊っているかなようだ。
宙に舞う度に、ご飯1粒1粒に卵がコーティングされていく。これが難しい。
炎の熱で、卵が固まって行く中で素早くご飯1粒1粒に纏わさなければならない。
少しでも中華鍋とお玉を振るう手に戸惑いがあると、卵が直ぐに固まりダマとなって味と見た目が悪くなってしまう。
ガウンはというと、卵液をお玉ですくい上げ、中華鍋に投入し素早く掻き混ぜる。半熟になったところで冷や飯を入れ、お玉で冷や飯の塊を崩しながら、両方投入してから数秒で中華鍋を振り始めた。
途中、目分量で調味料を投入し味付けをする。一々計らなくてもお玉に入ってる感覚で、ピッタリと計量が出来るのも料理人とって大事なスキルだ。
計量カップで、一々測っていたら時間の無駄だ。計量カップで測るのは素人がやる事だ。
もちろん、調味料が多過ぎても少な過ぎてもダメだが、それを目分量で寸分違わず出来るのが二流で、その日の気候や食材の様子によって調味料の量を変えれるのが一流だ。
「オデ負けない。必ず美味しいと言わせる」
黄金炒飯自体そこまで出る料理ではない。どちらかと言うと通好みな逸品という訳だ。
専ら出る炒飯は、具沢山のものや古都や王都では食べる機会が少ない海老や蟹の炒飯が良く出る。
黄金炒飯というと名前だけ贅沢だが、卵だけという庶民過ぎて、態々食べに来るようなものじゃないという認識が常に着いて回る。その代わり安く提供出来るだけあって金がない時なんか頼む客もいたりする。
だけど、見栄を張るのは大人だけの話。純粋無垢な子供には、そんなの関係ない。美味しいものは美味しいし、不味いものは不味いと素直に言う。
「オデの今までを………この炒飯に乗せる」
ガウンが振るう中華鍋の中で卵とご飯が舞う。舞ってる最中に余計な油が飛び、パラパラとなっていく。
1粒1粒卵がご飯に纏わりつき、キラキラと輝いている。
本当に砂金を炒ってるように錯覚しそうで、チラチラと横目で見る悠真は、食べずともアレは美味いと確信している。
「良し出来た。店長、食べてくれ」
ドーム状に盛られた黄金炒飯を、普段汗1つもかかないガウンが、今日はかいている。それだけ全身全霊で作った逸品なのだろう。
「頂こうか」
レンゲで、1口すくい口に運ぶ。見た目から見事なパラパラ加減で、しかも黄金色に纏った卵が、また美しい。
して、味の方はどうだろうか?
モグモグ………ゴクン
「うん、文句つけようがない。合格だ」
卵という食材を、よくここまで引き出せたものだ。見事に1粒1粒に卵が包み、まるで極小なオムライスみたいだ。
「良くやった」
「嬉しい。でも、オデは、まだ店長の下にも及ばない」
「そんな事は…………あるか。これからも精進するように」
まだまだ抜かせる訳にはいかない。まだ試してみたい中華がある。もしも、抜かれる時が来るとすれば全ての中華を作った時だろう。




