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「あれっ?良くん……?」
「あ、やっぱり……やっぱり 良くんだよね?」
男が道端で偶然 見つけたのは、中学時代 一番仲がよかった友人だった。そんな彼でも男は親友とは呼ばない。仲のいい、いや、仲のよかった友人だ。
「はい、そうですが……」
「あ、君は、おおっ 久しぶり……!」
自宅から近い私立高校を選んだ男、自宅から徒歩で20分ほどかかるが偏差値の高い高校を選んだ良くん。彼らは必然的に離れることとなった。
久しぶりの再会は夢の中。再会するのを望んでいたのは男の方だった。夢も希望も目標もない。自ら 死を選ぶとしても良くんには会いたかった。欲を言えば初恋の石原さんにも会いたかったけど。
「どう?元気だった?」
「最近、順調?」
夢の中だから自由に話せる。現実で良くんに会ってもこんな風にフランクに話せるだろうか?敬語で対応しないといけないくらい遠い存在になっているかもしれない。それこそ有名企業の社長なんかしてたりして……
そうなれば、同級生だろうと無職と社長では同じような立場で話すことはできない。下手に出て、自分を雇ってくれと願うのも恥ずかしいが、そうするのも1つの手か。
そもそも見かけても男の方から声を掛けることはなかったかもしれない。他人のふりをされて無視をされるのが怖いから。
「ちょうど1週間前に、子どもが生まれてね、女の子で名前は美香。美しいに香るって書いて美香」
「我ながらいい名前を付けたと思っている。男の子だったら良一にしようと思ってたけど、女の子が生まれてくれた。可愛いよ~自分より大切な存在ができるって本当だったんだな~」
突然の友人からの幸せ報告。聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない。そういうことじゃなく会社の愚痴や社会への不満など、友人が感じている世の中に対するマイナス的な要素を聞きたかった。自分と同じように人生に挫折、後悔をしていてほしかった。
「そっか、それはよかったね」
「俺だったら、女の子なら美桜、男の子だったら光一にするかな」
相手もいないのに、子どもの名前だけは考えている男。
「うん、おかげさまで……」
「これから ますます嫁には迷惑をかけることになるだろうけど、子どもには世話もあるっていうのに、来週から 月行きで……僕、こうみえても、宇宙飛行士だから」
宇宙飛行士!!次元が違った。地球にすらいなかった。
どこで差がついたのか?
良くんは、結婚していて、子どもも生まれた幸せな宇宙飛行士だ。27歳だというのに、月に行くことをちょいと遠くの街に出張に行くレベルで話をする。その会話から、おそらく彼が月に行くのは、初めてではないなと男は悟った。
「そっちはどうだい?」
「俺の方は、ぼちぼちだな……」
夢の中なのだから何とでもなる。何にでもなれるはずなのに、この場面にいる男は、一人暮らしのフリーターと現実の男に近い等身大のような姿であった。今こそ億万長者であれ!
「勝ってるとこなんて1個もねぇー」
夢も希望も彼女もなしのフリーターが自慢できることなんてそうない。悲しくなってくる、夢の中だというのに涙が出そうになる。友人の前だから泣かないけど。
泣かない、泣かない……
何てことを感じていると、
「あれっ?ああ夢か……」
男は目を覚ました。現実感の強い夢に、一瞬 頭が混乱した男は、周囲を見渡すが、床に散らばっているテレビのリモコン、ポケットティッシュに飲みかけのコーラの入ったペットボトルはそのままの状態で、見かぎったのか黒猫だけがどこかにいっていなくなっていた。
「間違いない。あれは夢だった」
現実か夢かの判断がつかないと、現実でトラブルを起こしてしまうことがある。夢の中で約束した予定を友人に話しても、友人は何のことだかさっぱり。夢の中で頼まれた仕事に取り組んだところで、上司からは叱られるだけだ。
「おはよう、やっと起きたね……お父さん」
男以外、誰もいないはずの家の中から若い男の声が聞こえた。どことなく声が自分に似ている。まだ、自分は夢の中なのか……?
「おはよう、父さん」
男が寝転がったまま声のする方を見ると、見覚えのない若い男が、こちらを見ている。
鍵は閉めているはずだ、こいつどこから入ってきたんだ?
「だ、誰だ、だ、だ、誰だ、お前は?」
男は恐怖と驚きのあまり大きな声をあげ、勢いよく飛び上がった。命の危険を感じて、体が勝手に震えている。生きる気力を無くしていたのに、体はまだ生きようとしているのだと。




