表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うたへうたえ  作者: うらひと
1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/9

1-A 『見上げればはらりはらりと舞い落ちる言の葉重ね歌う恋文』

禁 複製転載・AI学習

「――通学路(ひと)(ふた)つと足音の()()つ増えて(かわ)(ぐつ)笑う」

「――夢の中のー忘れ物をー♪」


 ――実は、通学路は大体(いっ)(しょ)だったみたいで、気づかなかっただけなんだ。

 ()()は、そう言ってはにかむ。()()には、その増えた足音が(ここ)()よかった。


* * *


 始まりは、校舎そばのベンチだった。()()が、家の事情で()(だつ)したバンドメンバーを()めるためにあちこちに訪ね歩いていた。


「ねえねえ、ベースやらない?」

「へっ?! えっあっ、何でしょう?」


 しかし、返事のほぼすべてが『ベースって地味でしょ』というもの。『いやわかるけどさ』とふくれっ(つら)になる()()も心の(かた)(すみ)ではそう思っていた。それでも、実際曲を作っているとその重要な役目がわかる。ドラムと共に、バンドに勢いをもたせるエンジンだということを。


()()ちゃん、だよね。以前、(すい)(そう)(がく)でベースやってたって聞いて」

「はあ、そうですけど……」


 そこで、()()と同じ中学だというクラスメイトから評判を聞いて、(さっ)(そく)声をかけにきたのだ。急なことに当の本人はぽかんとして『何が何だか』という顔。そしてようやく、()()から事情を()く。


「――うーん……確かに、ポップスではやってたんですけど、エフェクターまで使わないし」

「エフェクターまで分かってたら(そく)(せん)(りょく)!」

「あっ、ちょっと、ノート(かか)えてるからっ……!」


――ぱさっ。


 (うれ)しくなり、()()(うで)をつかんで引っ張ると、()()(かか)えていたノートの一冊が、地面に落ちて広がった。


()(せん)(しき)歌え歌えと飛ぶカラス秋高き空夜に染めてく』


 はっと息をのんだ。

 確かに『見えた』。()()自身の書く歌詞が、(ひど)(うす)っぺらく感じるくらいに。


――まるで、歌みたい。


 (あわ)ててノートを(かか)えてその場を去ろうとする()()に、「待って!」と(さけ)んだ。思わず立ち止まった(かの)(じょ)に、()()(しん)(けん)(まな)()しを向ける。


「これは本気。いま本気になった。だって、その一文だけで、景色が見えたんだもん。お願い、作詞も手伝ってくれない?」


 ()()は、(ひか)えめに(うなず)いた。ここまで言ってくれた人は初めてだった。もしかしたら、自分の世界を広げられるかもしれないと、まだ見ぬ世界にドキドキしていた。

1-A'『空掴み言葉にならぬ心臓の音は扉をノックするよう』


「というわけで、()()ちゃんでーす!」

「よ、よろしくお願いします」


 ファミレスで他のメンバーと顔合わせすることになった。

 (あん)()が『ぱちぱちぱちー』と(はく)(しゅ)すると、その向かいに(すわ)(はる)()も親指を立ててぶんぶんと()る。


「私は(あん)()、キーボード担当。ライブハウスとかの予約とか、事務的なこともやってる。見た目のわりに出来る子だよ!」

「自分で言うか! 実際そうだから(だい)(じょう)()だけど! んで、わたしは(はる)()。ドラム担当!」


 一通り自己(しょう)(かい)を終えると、ぱんっ、と()()が手を合わせる。


「――はいっ、じゃあ、()()ちゃんの慣れもあるだろうし、いったん解散で。次は水曜日に()()練習ね」

「はあい」

「はーい」


 そういいつつ、せっかく(たの)んだフライドポテトがもったいないので、少しほおばってから帰ることにした四人。

 その()(ちゅう)に通知音がしたあと、()()()かない顔をしていた。


「……()()(いっ)(たん)スマホ()せとけば?」

「ん……」


 あとの二人は事情を知っているようで、(あん)()はてきぱきと()()のほうへ、ポテトを取り分けたり、ドリンクバーの飲み物を()()けたりしていた。

 何が何だかわからない()()も、下手に事情を(さぐ)るわけにもいかないので、大人しくしていた。その()()(そで)を、くいくい、と引っ張ってきたのは(あん)()だった。


()()ちゃん、『弓田 (つかさ)(せん)(ぱい)って……()()ちゃんの……」

「あ……従姉(いとこ)、です」

「やっぱりー……この子、()()ちゃんを(さそ)ってから気づいたみたいでさあ」

「あーごめん、わかったわかったから」


 その話題で盛り上がりかけたところで、()()が制止した。苦い思い出なのか、何度かうなりながらテーブルに()()している。


「……先にベースの()(めん)(わた)しておくよ」


 (あん)()から(わた)されたのは二曲の(がく)()。タブ()――(がく)()上にギターやベースのフレット番号を示したもの――も(てい)(ねい)()()まれていて、()()から見ても()()みがしやすい。


()()もマメだもんね。演奏でやりたいことがちゃんと書いてあるし、一応フルスコアもあるよ」

「へえ……」


 その横で(はる)()()()の指をいじって遊んでいた。


「あ、えっと……」


 何かを言おうとして、『余計なことを言いそう』と自ら止めた。

 いとこが話に関係しているからだろうか、心がざわざわして落ち着かない。()(どう)も少し強くなっている。


――これは、どんな気持ちなんだろう。


 言葉を()()んで、もう一度(のど)(うるお)すことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ