エピローグ:女王の休日
大公としての慌ただしい執務から解放された、久しぶりの休日。
私は、お気に入りの麦わら帽子を被り、簡素なワンピースに着替えて、城を抜け出した。もちろん、隣には、ラフな私服姿のカインがいる。
二人で向かったのは、街の外れにある、小さな畑。
ここは、私がこの辺境の地に来て、初めて自分の手で開墾した場所だった。公国のすべての豊かさが始まった、原点の場所。
今は小さな家庭菜園として、私が個人的に好きな野菜やハーブを育てている。
私は裸足になると、ふかふかになった土の上に立った。ひんやりとして、それでいて生命力に満ちた土の感触が、足の裏から伝わってくる。胸いっぱいに、土と草の匂いを吸い込むと、心の中に溜まっていた疲れがすうっと消えていくようだった。
「ああ、やっぱりここが一番落ち着くわ」
私がそう言って微笑むと、カインはそんな私を、愛おしそうな目で見つめていた。
「あんたは、本当に土が好きなんだな」
「ええ。ここが、私の原点だから。土をいじって、美味しいものを作って、みんなで食べる。それが私の幸せの基本なのよ」
カインは何も言わず、後ろから私をそっと抱きしめた。彼のたくましい腕の中は、世界で一番安心できる場所だ。
「君が俺に、生きる意味をくれた。君が、俺の世界を照らす太陽だ、アリーシャ」
耳元で囁かれた言葉に、私の頬が熱くなる。
「……カインこそ。あなたがいてくれなかったら、今の私はいないわ」
私たちは、言葉もなく、ただ寄り添い合った。
夕日が、黄金色に輝く広大な畑を照らし出している。それは、私たちが二人で、そしてたくさんの仲間たちと共に育んできた、愛と希望の色だった。
追放されて、本当によかった。
心からそう思える、最高に幸せな休日だった。




