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黒檀の魔女  作者: ラテオレ
フォストレアの白い花
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2. フォストレア教皇国

 フォストレア教。

 癒しの女神フォストレアを信仰する、フォストレア教皇国の国教。

 その始まりは、聖女フォストレアが起こした『癒しの奇跡』から始まる。


 かつて神々の大戦を『戦殺しの大神』が平定した後、地上は荒れ果てたまま放置された。その頃の苦境を乗り越えるために生まれたのがフォストレア教だ。

 純粋で慈悲深い少女フォストレアは、人の身では扱えないとされている『癒しの魔法』を使うことが出来た。これは本人にも使える理由が分らず、『癒しの奇跡』として彼女の周囲に広まっていく。


 いつしか『聖女』と呼ばれた少女は長く人々を癒し続けたが、『癒しの奇跡』に陰りが見え始める。癒しが遅い、足りない、間に合わないなど。

 それまで「聖女様に診てもらえば助かる」と信じられていたが、その信仰にも影を落とすことになった。

 少しずつ「聖女はインチキだ」という声が上り始めたころ、フォストレアは熱心な信者を集めて、自身を『神域』へと押し上げる計画を打ち明けた。


 神々の大戦で苦しんだ人々は、神自体に対して懐疑的であった。だが、フォストレアの奇跡は神に成ることで強化され盤石となることも容易に想像できた。なによりフォストレア自身の寿命や疲労などといった限界を超える必要が出てきたのもあり、信者たちはフォストレアを神に押し上げることを決めた。


 信者たちは大きな儀式、祭典を開き、信仰を集め、祈り願い奉った。

 その甲斐あって、聖女フォストレアは、無事に『癒しの女神フォストレア』に昇神した。

 フォストレアが起こす『癒しの権能』だけでなく、神官に授けた『癒しの神秘』も人々を癒し、信者全員に掛けられた『癒しの加護』も僅かながら人々の傷や病の治りを速めてくれた。


 こうして人を癒し続けた慈愛の女神フォストレアは、やがて彼女の故郷が開拓され国が興ったときに国教・国神として崇め奉られるに至ったのだった。


「で、今は在界きっての守銭奴、銭ゲバ神フォストレアと呼ばれている」


「どうして……ッ!」


 信仰は歪む。

 それは分かっていたけれど、あまりにあんまりな歪み方をしていた。


「まあ国の神にされたのが失敗だったな。癒しの力を王族貴族が独占しようとする動きがあって、どうしても癒されたければ献金持って来いってなったわけだ」


「めちゃくちゃ分かり易くて想像しやすいだけにカスですね人類って」


「■■■■」


「そう言ってやるな、だってさ」


 言わずにはいられない。

 フォストレアはどこをどう見ても万人のために癒しの奇跡を起こし続けた慈愛と自己犠牲の人だ。

 それが真逆の、金と権力のための商売道具にされてしまっているだなんて、酷過ぎる。


「こうなると、信徒にはなれても神秘を授かるのは難しそうですね……」


「神官になるにも金か権力が要りそうだな」


「最悪……」


「■■■■」


「そう言ってやるな、だってさ」


 知らず、溜息が漏れた。

 師匠が急がないわけだ。大本命の『神秘』が得られそうにないなら、どうしたってこの国の優先度は低くなる。

 わざわざ長旅の末にこの国の皇都にまで来たって言うのに……。


「……そういえば、国境やら関所やらの関税が異常に高かったのって、この国が銭ゲバ教総本山だったことの伏線ですか!?」


「物凄い暴言が飛び出してるけど、ま、そういうことだな」


 ケラケラ笑う神様が師匠と思しき黒い塊になんかされている。

 たぶん、私に汚い言葉を教えるなと言いながら神様をどついているのだろう。

 相変わらず師匠は呪いのせいで理解しにくいけど、ちょっとずつ理解できて来た気がする。


「あー、クロエちゃん? 今のはどつかれてたんじゃないぞ? 肩を組んで一緒に笑ッいってぇ! 神を殴るな! てかどうやって殴ってんだそれ!?」


 やっぱりどつかれてた。

 今度神様の殴り方訊きたいな。概念殴れるってすごく便利そう。


「ぜってー通訳しない」


「えー」


 私の顔を見てなにを考えているのか察した神様が舌を出して拒絶してきた。

 この神様、人間の頃からなんにも変わらないなぁ。

 フォストレアみたいに歪まないのは、そもそも信徒が少ないからかな。


「それで、皇都には着きましたけど、これからどうしますか?」


 無事最後の関所も抜けて今は皇都入り口前の大広場だ。

 ここまでの道中も綺麗だったけど、皇都はずば抜けて綺麗で美しい。


 それだけじゃなく、めちゃくちゃに広い。

 遠くに見える王城は高台に聳えているし、それ以外にも他の建物の屋根越しに巨大建築物がちらほら見切れていた。

 あれの内のどれかが大聖堂だろう。

 なんとなくそれくらいしか大きい物はないと思っていたけれど、こうしてみると普通に大都市だった。


 観光ならわくわくする場面でも、私たちの目的からすると広いのは辛い。

 とはいえ第一目標である『癒しの神秘』は最重要国家機密扱いだろうから調べようがない。ので、広い狭いはあんまり関係ないかも。

 もし知ろうとするなら教会系施設に潜り込む必要がある。


「まー神秘はどうでも良いとして」


「えっどうでも良いんですか?」


 諦める、という感じじゃなく、端から興味無い顔で神様がそっぽを向いた。


「知れるもんなら『癒しの神秘』の前身、『癒しの魔法』の方を知るべきだろう。あっちは人間時代に使ってたんだから解明できればクロエちゃんと相棒にも使えるようになるかも知れん」


「ああ、なるほどっ」


 たしかに、と手をポンと打つ。

 神秘には神の助力が、権能には神に成ることが必要になる。対して魔法であれば独力で使えるし、前例がある分、可能性もある。

 ざっくり言うと、神様が使う不思議な力が『権能』、神様が人に与える不思議な力が『神秘』、人が自力で習得する不思議な力が『魔法』だ。


 うん。『神秘』はやっぱり授かるのが難しいと思う。それで目的が『魔法』にシフトする理由も分かった。

 本来なら「人の身に余る」とされ、誰にも使えない癒しの魔法。それを習得できたなら、私たちの夢の実現にぐっと近づける、気がする。


「なるほど、そうなると神秘はガン無視。今のフォストレア教ではなく過去の逸話を調べてみないとですね!

 とはいえ神話ですから、厳かに装飾されてて原型留めてない可能性もありますが……」


「■■」


「おぐッ! ……クロエちゃん。君のセリフが下品になると俺が相棒に怒られるから気を付けて?」


「?」


 またどつかれたのだろうか。

 今のは汚い言葉を使ったつもりはなかったんだけど。


「■■■■」


「あいよ。クロエちゃん、相棒は図書館とかの記録系を当たってみるって。クロエちゃんは聞き込みとか対人系よろしく」


「はい、わかりました」


 まあ師匠には呪いがあるから役割分担はいつもこうだ。

 戦闘では無類の強さを誇る、っていうかもう反則レベルの『呪い』だけれど、日常生活は本当に致命的な障害だなぁと思う。


「神様って例の『御分霊』は使えるようになったんですか?」


「いや、ちっとも」


 両手をくいっと持ち上げ首を傾げる神様。

 御分霊、あるいは『分身の術』は、文字通り神様を分身させる権能だ。

 神様曰く「日本では神が分裂して見守ってくれてるなんて宗教観はポピュラー」らしいので、神様も出来るんじゃないかと研究しているのだ。

 そんな馬鹿なと思うような宗教観だけど師匠も頷いてたしなぁ。隣界人、奥深し。


 そもそも国の名前も『ヒノモト』『ワノクニ』『ニホン』『ニッポン』と分裂してるし、きっと物事をたくさんの視点で見るのが得意な国なんだろう。

 ……いや、極端に極端な人種、とも聞いたことがあるような? それこそ師匠みたいな……。


「なんで、今日は相棒に付いてくわ」


「あっはい、わかりました」


 別行動を取る時、神様は基本的に師匠について行く。『呪い』対策だ。

 神様の通訳だけでなく、いざとなれば『神降ろしの魔法』で師匠の身体に神様が宿ることで『呪い』を回避したりも出来る。

 これもヒノモトの宗教観を参考にして神様が作った魔法だ。


「■■■」


「通訳は要らなくても調べものには俺が要るだろ? 相棒、推察とかできないタイプだろ」


「……■■■■」


「ははは言ってろ。俺はお前が推理小説で犯人当てられた試しが無い事を忘れてないからな」


「■■。■■■■■■」


「そう言うもんだろ……現実じゃないんだから全情報開示なんてノイズまみれで読みづれーよ」


 黒い塊と半透明の青年が街中に消えていく。

 不思議な事に、あんなに目立つのに誰からも認識されないんだよなぁ。


 神様は半透明の時は信徒にしか見えないらしいし、師匠も「注目されないかぎり注目されにくい」という謎の性質がある。

『意思不通の呪い』は師匠が生物か否かさえ読み取れなくなるからか、視界の端の枯草的扱いとなり、平時は他者の意識から外れやすくなる。

 ただし一度注目されると、理解しようとしても理解できず、その不和が恐怖と混乱を生むから厄介だ。


「そっか、師匠って推理苦手なんだ」


 ちょっと意外でちょっと可愛い真実を記憶に留めつつ、私も私で歩き始める。

 対人系は任せると言われたとおり、私は人から話を聞き出していこう。


「そうなると、一般信者、神官、貴族、あとは神学者がいればそっちにも話が聞きたいかな」


 かなり歴史の長い宗教だし、人から聞けることは少なそうだけど。

 でも、そうだなぁ。


 もしフォストレア本人から話を聞けたら一番良いんだけど。

 残念ながら、それは難しい。

 私と師匠が神様の思い付きで習得させられた『神降ろしの魔法』は、一見すごい魔法なんだけど、実際は大したことがない。

 肝心の『神を降ろす』という力が弱いのだ。


 この魔法が魔法として成立しているのは、我らが神様が協力的過ぎるが故である。

 つまり信仰も無く親交も無いフォストレアを『神降ろし』することは不可能だということ。


 だからまず神周辺から洗ってみよう。

 それで何とか『繋がり』を持てたら、『神降ろし』かな?

 呼べたとしても、話になるかはまた別問題、なんだけどね。


「……人格まで歪められていないといいなぁ」


 愛と献身の女神、フォストレア。

 金と権力の亡者、フォストレア。

 何が真実でどんな秘密が隠されているのか、必要とあらば暴いてみよう。


 かつて神様が私の故郷の神を、『真実の神』を、暴き、殺した時のように。







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