六十:魔法のような夢
木造建築の古い建物が建っており、前には木々に囲まれた校庭。
そして校庭の真ん中で、清と灯は向き合っていた。
周りには空間魔法の結界が展開され、常和や心寧、ツクヨに見守られている。
「……灯、感謝は行動で返すから。――魔力シールド展開」
「清くん、これで手加減は要らないですね。――魔力シールド展開です」
負けたくない、という思いが空間を舞う中、灯の魔法陣展開を皮きりに世界は息をする。
「無制限合成魔法――複合式【ふくごうしき】――」
魔法陣は無数に灯の周りへと現れ、魔法の光線と弾幕が雨のように清を襲う。
心寧の教えもあってか、清は灯の魔法を全て見切れていた。
直線の光線及び無数の弾幕を僅かな動作で避けつつ、清はそっと右腕を前に出し、灯に狙いを定める。
――今狙うは、体になじませるための一撃だ。
「……魔法――神速【しんそく】――」
手の先に展開された小さな魔法陣は、膨大と圧縮を繰り返す光線を放つ。
だが、光線は大きく弾道を外れ、灯には当たらず地面へと直撃した。――その瞬間、高威力の光を発し、凄まじい爆風を巻き起こす。
灯が守りに徹するのは愚か、放った清ですら腕で顔を覆う程の風圧だ。
今の一撃で力がなじんできたのか、体を軽く感じさせてくる。
ふと思っていれば、目の前には弾幕が接近していた。
「……今なら! 神秘の光――星剣【せいけん】――」
清は瞬時の判断で右手に星剣を創成し、魔法及びに灯の魔法陣を、一振りで打ち消した。
両者の魔法は、現段階では互角、と言ったところだろう。
「清くん、力の探り合いはここまでにして――本来の力でいきますよ」
「ああ、わかった。灯、やってやるよ。星の魔石――本来の力で!」
詠唱を唱えながら構えを取る灯に、清も魔法陣を展開し――。
「――ッ!?」
焦って目を覚ませば、そこは見慣れた清の部屋であり、別の場所に居るなど到底ない。カーテンの隙間からは月明かりが差し込んでいた。
自分の魔力及びに魔法陣を確認しても、何も変化はない。
頭を抱えつつも机にある時計を見ればまだ深夜の三時過ぎ。
普段であれば深い眠りに落ちているにも関わらず、今日だけは珍しく目を覚ましてしまったのだ。
(今日から学校だっていうのに……変な夢、みたな)
夢の中は未来の自分を見ているのかと思えたが、灯と対をなせる威力で勝負するなど、十中八九ありえないだろう。
清は先ほどの夢を忘れる様に、もう一度布団の中へと潜りこみ、ベッドで横になった。
四月の始めで外の空気は暖かくなりつつあるが、深夜の三時は流石に肌寒さを感じさせてくる。
「はあ、夢に灯が出てくるって……愛おしいにしても程があるだろ」
清はため息交じりに小さく言葉をこぼした後、そっと瞼を閉じた。
その時、閉じた瞼の隙間から、透明な雫が静かにこぼれ落ちていた。
この度は、数多ある小説の中から、私の小説をお読みいただきありがとうございます。
今回から、第二章開幕致しました! この夢は一体何を意味しているのか?




