第五十九話:君と居る幸せな日常
ピンクの花びらが舞い始める四月の初旬――家族でお花見やお出かけなど、世間では様々な行動が盛んなのだろう。
家から出て友達と遊びに行くことや、家族と笑って過ごせる毎日を、清はいつも一人で手を伸ばし、いずれは叶うものだと信じていた。
――両親の愛は正直知らない。
兄や弟はいつも父に愛されており、話すことも許されていた。そして、母はよく兄を心配し、弟には甘い。家族に……清という名の存在は、必要だったのだろうか。
あの言葉を言われるまでは、両親に少しでも見てもらいたい、と清は思う気持ちだけだった。
努力が実り、清が良い報告をできたと思った際に父からは『弟だからって調子に乗るな』と言われる。そして母からは『兄なんだから当たり前でしょ』と言われただけだ。
この時の清は、灯が誰よりも心配するほど自暴自棄になり、頑張る意味を見失ってしまった。
灯が声をかけ続けてくれなければ、今の清としては存在しなかっただろう――。
ふと清は、温かい感触が額を撫でていることに気づき、視界がにじみつつも瞼をゆっくりとあげた。
見上げた視界に写りこむのは、清をいつも近くで支えてくれている優しき少女――灯だ。
灯は目を覚ました清を、心配そうな眼差しで見ている。
「清くん、おはようございます。うなされていたみたいですが、大丈夫ですか……?」
「……大丈夫だ」
大丈夫だと言いつつも、自分の今置かれている状況が理解できていない。
二人でお昼を食べ終えてから、灯が片づけ終わるのをソファで待っていたのは覚えているが、その後の記憶が無いのだ。
考えるよりも先にわかるのは、灯がこちらを見下ろしており、頭の下には柔らかい感触があるということだろう。
「灯……これはどうゆう状況で?」
「え、えっと、ですね……。清くんが寝ている際にうなされていたのが心配になって、とりあえず膝枕をして、よしよししていたとしか」
好きな子に膝枕をされていた、という事実に恥ずかしくなった清は体を起こし、動揺しつつも灯の方を見た。
灯は前に清があげた白いパーカーに、灰色のデニムというシンプルな服装だ。その服装は清からしてみれば、心臓の負荷を考慮しても安心できる。
様子を見ていた灯はなぜか嬉しそうな表情で微笑んでいるが、こちらの不注意でもあるため致し方ないだろう。
しばらくして落ち着いたころ、灯が優しく話しかけてくる。
「清くんは新学期に、私との魔法勝負……楽しみですか?」
「灯と魔法勝負したのはあの日以降ないんだ。すごく楽しみだよ」
「ふふ。まあ、今の清くんには絶対に負けませんけどね」
「……なんで煽ってくんだよ」
「煽ってないですよ? 事実を言っただけですから」
「はあ、それを煽っているって言うんだよ」
清が呆れながらも言えば、灯は不思議そうにしながらも微笑みを返してくる。
灯は魔法勝負で負けたことがないらしく、そこからの自信も含めて言い切れるのだろう。これ程までの自信過剰より恐ろしい勇気は、他にないだろう。
「まあ、俺は魔法勝負よりも……クラスの方が不安かな」
「前も同じようなこと言っていましたよね?」
清達の学校は少人数が故に、ある例外を除き、クラスが変わらずに新学年へとなっていく。そのため、クラスメイトが変わるということは滅多に無いらしい。
清は高校からこの世界の学校に通っており、学校の仕組みは未だによくわかっていないのだ。ましてや二年生に上がるということ自体が、未知の領域、と言ってもいい程だ。
「ふふ。でも、きっと大丈夫ですよ。いざとなれば、心寧さんや古村さんもいますし」
「そうだな。それにあの二人、何か企んでいたみたいだしな」
今思い返せば、灯との魔法勝負が決まった際に常和がニヤニヤしていたため、何かがあるのは確実だろう。
ふと考えごとをしていれば、手を引っ張られる感覚があった。
焦りつつも手の先を見てみれば、灯が両手でこちらの手を包みこむように、優しく握っていたのだ。
そして目が合えば、小さく微笑まれる。
その時に清は動揺をしつつも、あることを思い出した。
「そ、そうだ灯……渡したいものがあったんだ。ちょっと待っていてくれるか?」
「渡したいもの、ですか? ふふ、待っていますよ」
灯の笑みを見つつ、清は自身の部屋へと足を運んだ。
数分後、清は灯の待つリビングへと戻った。そして、その手には小さな黄緑色の小箱を抱えていた。
灯が不思議そうに見ている中、清は箱の中から物だけを取り出す。
「その……灯、これ。日頃の感謝も込めて……渡そうと用意していたやつなんだけど」
「……クローバーのヘアピン」
四葉のクローバーがモチーフとなっており、葉の形をあしらわれた黄緑色は散りばめられたラメにより、優しくきらきらと輝いている。
縁は細いゴールドの線で覆われ、中央には小さなパールが添えられている。
灯はあまり派手なアクセサリー類を好まないため、シンプルかつ透き通る水色の髪にも合うように、と清は現実世界に行く前に買っておいたのだ。
小さくて目立ちすぎないため、灯のワンポイントくらいにはなるだろう。
「嫌だったか?」
「いえ、嬉しいです。ありがとうございます」
清が灯にヘアピンを渡そうとした時、灯は清の手を止めた。
「その、よかったら……清くんがつけてくれませんか?」
「俺が?」
「嫌、ですか?」
「……わかったよ」
「……ありがとう」
灯がストレートヘアーであることも考慮しつつ、髪の側面へと優しく付けた。
灯は清から付けてもらった瞬間、とても優しい温かい笑みを溢した。それは清からしてみれば、嬉しくもあり、気持ちが跳ね上がりそうだった。
灯はヘアピンの位置を軽く調整しつつ、なぜか頬を赤くしながらも、こちらに微笑みを向けてくる。
「灯、すごく似合っているよ」
「清くんのセンスのお陰ですね」
「俺にセンスなんて無いけどな」
「自分のセンスに自信を持ってください! ……普段はないだけで、ちゃんとありますから。清くんだけにしかない、あなただけの特別な色が」
灯に強く言われると思っていなかった清は、やらかした、と思いつつも言葉を決めた。
「灯、ごめんな。俺のセンスを褒めてくれて嬉しいよ、ありがとう」
「い、いえ……こちらこそ、ありがとうございます」
灯を労われているか、と言われれば否だろうが、今はこの幸せの時間に浸りたいと思えてしまう。それは心からの本音であり、純粋なエゴなのだろう。
少し時間が空いてから、灯は疑問そうに声をかけてきた。
「清くんはこの後どうするのですか?」
「特にやることはないかな」
春休みの課題も無く、灯に少しでも追いつけるように日々勉強をしているため、学力の方は心配ないだろう。
そう考えていれば、灯は清の耳の傍に口を近づけてくる。
「もう一度休みますか? ……今度は二人で」
「……そうする」
清は灯の言葉に恥ずかしくなりつつも、小さくうなずいた。
灯が嬉しそうにしつつも肩に寄り添ってくれば、水色の瞳を閉じ、数分後には寝息を立て始めている。
灯から男として警戒されていない、ということなのだろうか。清はそう思えるほどに、灯が心配だった。
(灯と付き合えていたら……これも愛だったのかな)
清も灯の方に寄り添いながら、瞼を閉じ、小さな温かさに心を沈めた。
この時――窓から覗き込んだ太陽は、二人の眠るソファへと温かい光を差し込ませ、二人を優しく包み込んでいた。
この度は、数多ある小説の中から、私の小説をお読みいただきありがとうございます。
第一章はこれにて完結となります! 次回からは第二章となります!
これからも「君と過ごせる魔法のような日常」をよろしくお願いします。
※第二章からの変更点になります
・第〇話+サブタイトルから→ナンバリング+サブタイトルとなります。
この変更に関しましては、一テン八章の第と話が消えるだけの形になると思っていただければ幸いです。
・文字数は一テン八章くらいになると思われますが、優しく温かく楽しんで読んでいただけるように、今後も精進していきます!
長くなりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました!




