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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第五章:hope union

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百九十三:進むための時間

 時が流れるのは早いもので、暑さは完全に静まりをみせ、十月は中盤を迎えていた。

 秋のひんやりとした風が吹き始めた中、清は現在、灯と心寧と一緒に学校の図書室のテーブルを囲っている。


 授業中なので、図書室は清たちのクラスで貸し切り状態となっており、ペンがカリカリと紙に文字を綴る音を立てていた。


(……久しぶりだな、この感覚も)


 九月から魔力を極める努力をし始め、一つの課題に取り組んできた。だが、主は学生の身分であるため、清は共に勉強をする機会を嬉しく思えている。


 一人では退屈な日常であっても、共に笑いあい、競いあう仲間が居るのは奇跡なのだから。


 ふと顔を上げれば、目の前では灯がプリントと向き合っているのが目に映る。心寧はその隣に座っているが、疲れたのかペンを転がしているようだ。


「よりによって、なんでツキは課題を倍増するのかなー」

「終わらせれば各々の目指す道に迷いなく進める、いいことじゃないですか」

「あかりーって根っからの優等生だよね?」


 まことーも思うよね、と言いたげな様子で心寧がこちらの方を見てきたので、誤魔化すようにノートへと目を向けておく。


 図書室で清たちは、勉強、というよりも授業の時間を使って課題に取り組んでいるのだ。

 十月に行われる中間テストが無しになった代わりに、十一月までに提出する課題をツクヨに出されたため、やらざる得ない状況になっている方が正しいと言える。


 課題はざっと百ページ以上あるが、日頃の積み重ねを怠らない限りは問題ないだろう。


 ちらりと視線を前に向ければ、心寧が不思議そうな様子でこちらを見てきていた。


「まことーは勉強も魔法もそうだけど、教えれば覚えられるのは才能だよねー」

「基礎が分からないだけで、勉強は出来るからな」

「うわー、皮肉が皮肉に聞こえないし、まことーだから説得力が余計に違う」


 何故か心寧に引かれているが、清は先ほどまで灯に教えてもらっていたため、事実を言ったに過ぎなかった。


 話題に上がった灯はキリがついたのか「ううん」と言いながら背を伸ばしてから、テーブルに広げていた教科書を拾いあげている。

 透き通る水色の髪が揺れ、緩やかな輝きを見せた。


「日々の積み重ねがいずれ花となって咲き誇る、それを清くんは知っていますから」

「おー、ずっと一緒に居る幼馴染の説得力は違うね!」


 心寧が感心した様子を見せた時、清は今更ながら不思議に思ったことを口にした。


「そういや、心寧ってメガネかけるんだな?」

「まことー、今更だね?」

「清くんは見たことがないのですか?」


 逆に疑問を向けられた清は、間違えたことを言ったか、と思って首をかしげた。


 心寧は現在、特徴的なビーズの髪飾りを外しており、フレームが細い赤縁のメガネをかけている。

 見慣れている心寧の姿と見比べれば、声を聞くまでは一瞬他人ではないかと錯覚するだろう。


 清自身、ブラウン色のショートヘアを普段から下ろした状態の心寧を覚えていなかったら、勘違いしていた可能性があるのだから。


 心寧も灯と同じく勝るとも劣らない美少女であるため、廊下を歩いただけで周囲の生徒の視線を集めていたのは、清ですら大変そうに思えたほどだ。


 心寧はメガネを外し、手に持ってこちらを見てきていた。


「うーんとね、とっきーが髪飾りを創ってくれるまではメガネで魔力の制御をしてたんだけど、まことーに言わなかったっけ?」

「聞いたこと無かったな」

「知れてよかったね!」

「常和様様だな」


 話題にちゃっかり上がった常和はというと、十数分前に『風に当たってくる』と言って図書室を抜け出して以降戻ってきていない。

 常和の事なので、どこかでサボっているのだろう。


 常和はやるときはやるタイプであるが、脱力するときは完全脱力派であると清は理解している分、とやかく指摘する気はなかった。


 常和との親友関係に、余計な心配はいらないのだから。



 その後、灯と心寧と一緒に勉強を楽しくしていたが、清は気がかりがあって椅子から立ち上がる。

 灯と心寧からは、どうしたの、といったような視線が飛んできていた。


「……常和探してくる」

「とっきーなら心配しなくても、どうせ戻ってくるよ? 授業の終わりくらいにだけど」

「それは戻ってくる、と言わないのでは?」

「心配じゃない、居ないと気になるだけだ」

「なんというか、お互い変わってはいるのに、当初と変わらないね」


 灯と心寧との話もほどほどに、清は図書室を後にした。

 出る際に灯が心寧に、常和と清の関係を聞こうとしていた気がしたが、清は気にせず足を進める。



 清は自分たちの教室を見てから、屋上に続く階段を上っていた。

 静寂の中、足音だけが空間に響いていく。


 清は屋上に繋がるドア前に着き、手を伸ばしてゆっくりとドアを開ける。


 ドアを開ければ、ひんやりとした空気が肌を撫で、穏やかな雲浮かぶ空から光が差し込んでいた。


(……やっぱりここに)


 屋上に足を踏み出して見渡せば、柵に寄り掛かり空を見上げている常和の姿が目に映った。


 後ろ姿ですら絵になるのは、常和の容姿や姿勢が整っているからだろう。

 常和は気を抜いているのか、清が屋上に来たのを感知していないようで、ぼんやりと空を見上げているようだ。


 清は足音を立てず、そっと常和へと近寄る。


「常和、課題を一緒にしなくていいのか?」

「清か、驚かせんなよ」

「すまない」

「青春を謳歌しているんでな」


 常和は清々しく言っているが、こちらに振り向いた目は笑っておらず、誤魔化す口実として言ったように思わせてくる。


 清は軽く手を上げてから、常和の隣に立ち、寄り掛かるようにして柵に手を置いた。


「珍しく悩み事か?」

「はは、ちょっとな」

「俺に出来る事があったら言ってくれよ?」


 常和はそう言われると思っていなかったのか、驚いたように目を丸くしていた。

 常和との付き合いは高校からであるが、清自身、常和の感情は何かしら読み取れるようになったと自負している方だ。


 常和の考えが分からなくとも、聞いてあげる事は可能なのだから。


「まあ、あれだ、常和には助けてもらってばかりだからな」


 と、清が言えば、常和は背で柵に寄り掛かり、片方のひじをそっと添えていた。

 ふと気づけば、常和は真剣な目でこちらを見てきている。


「清――俺は俺がするべきだと思ったからしているだけだ……清が気にすることじゃないさ」


 ナチュラルにイケメン発言をする常和に、清は初めてイケメンが何なのかを理解できたような気がした。

 相手を思いやる心もそうだが、自分の形をそのままに出している、そんなイケメンを。


 イケメンの定義で言えば、容姿や立ち振る舞いが整っている常和は、誰がどう見てもイケメンの分類に入るだろう。

 だが清が感じたのは、心に刺さる、といった感じのイケメンなのだ。


 その時、冷たい風は吹き、お互いの髪を揺らして通り抜けていく。


「質問いいか?」

「別にいいぞ」

「清はさ、自分ではどうしようもない理不尽な壁に当たった時、どうする?」


 清は常和の質問に、思わず息を呑んだ。

 認識している壁が同じであるのなら、常々考えさせられ、幾度となく乗り越えようとした壁について聞かれているのだろう。


 だが常和に聞かれているのは、『理不尽』という更に負を乗せたような存在だ。


 清は考えた後、ゆっくりと息を吐きだす。


「……一人で駄目なら二人で、二人で駄目なら三人で、三人で駄目なら四人で、って俺は魔法世界で過ごす中で実感したから、迷いなく常和や心寧、灯を頼るかな」

「清、学生なのに肝が据わっているんだな」

「はは、常和も学生だろ。……常和ならどうするんだ?」


 感心している常和を横目に、清は思わず同じ質問を返していた。

 清がじっと見ていれば、常和は背伸びをし、柵から息を吸うようにそっと離れる。そして、ドアの方に足を進めていた。


「もうこんな時間か、心寧と星名さんの場所に戻るかー」

「ここに時計はないだろ」

「清の時計がちらっと見えたんでな」

「……誤魔化したな」


 常和は答える気がないらしく「清は戻らないのか」と聞いてくるので、清は駆け寄るように常和の方に足を進める。

 常和が答えなくとも、常和は何れ答えを話す、清はそう思えるのだった。

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