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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第五章:hope union

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百八十九:君と共鳴する想い

 夜ご飯を食べ終え、清はソファに座っていた。


(流石に良くなかったな……)


 夕方頃にした常和達との話を情として背負ってしまったのもあり、夜ご飯を気まずい雰囲気で食べてしまったのだ。

 いつもなら灯との会話に花を咲かせていたところに、沈黙の間が訪れやすかったのだから。


 そんな不調だったのもあり、灯に気を使わせてしまい『今日は疲れているでしょうし、先にソファに座っていてください』と言われ、灯が片づけをしているにも関わらず、清はソファに座る形となっている。


 清としては疲れていないが、灯からすれば今の清は疲れたように見えるのだろう。


 紡との勝負に行く際の件を灯にしっかり話そうとしても、いざ話そうとすれば尻込みをしてしまい、話す機会を失っていた。


 清は自分の手を見て、ため息一つこぼした。

 灯が洗い物をしている時間がここまで長く感じるとは、正直思っても見なかったことだ。


(……心寧は知っていたんだろうな)


 魔法の庭から戻る際に、常和伝いに心寧は聞いたのか『ちゃんと話して、明日も笑顔で会おうね!』と輝く水のように言ってきたので、灯にはしっかり話すべきだろう。


 ふと思えば、常和や心寧にいつも支えてもらっているな、と清は実感が湧いていた。

 魔法世界だから、というよりも、あの二人が仲間を見捨てる真似をしない人柄の塊だからだろう。


 悩んでいれば、灯は後片付けが終わったのか、こちらに近づいてきては隣に目をやっている。

 そして空気が優しく揺れると同時に、灯は隣にふわりと腰をかけた。

 灯は清が悩んでいると知ってか、ただ何も言わず、灯との真ん中に置いていた手に小さな手を重ねてくる。

 ひんやりとした灯の小さな手は、愛おしいほど心地よく思えた。


 ふと灯に目をやれば、透き通る水色の瞳が真剣にこちらを見てきていた。

 今なら話せると気持ちは理解し、清はそっと息を吐き出す。

 そしてゆっくりと言葉を口にする。


「あのさ、灯……悩み、というか相談なんだけど、聞いてくれるか?」

「清くんの相談なら、いつでも聞いてあげますよ。それで清くんが楽になれるのなら」


 小さく微笑んだ灯を見て、清は思わず胸を撫で下ろした。

 もう一度呼吸を整え、清は真剣に見てくる灯の瞳に自分の姿をしっかりと反射させる。

 そこには何の迷いもない、真剣に灯を見つめる、澄んだ黒い瞳をした自分が映っていた。


「紡との勝負のことなんだけどさ」

「……世界をかけた勝負ですね」

「ああ。俺は創成の地に必ず行くけど……灯はその時どうする気だ?」


 灯は話されると思っていなかったのか、目を丸くして驚いたような表情をしていた。

 多分、清が鈍感だからそこまでは気を回さない、とでも思っていたのだろう。

 灯は胸に手を当て、静かに小さく呼吸をしていた。


「清くんに聞かれない限りは言わない予定でしたが、付いていこうとは考えていましたよ」

「灯……疑う訳じゃないんだけどさ、それは自分の意思で言っているのか? 付いてくるってことは、危険と隣り合わせかも知れないんだ」


 優しくも芯のある声で灯に問えば、灯が「それは」と言って縮こまった様子を見せていた。


 灯は、清が紡と勝負したのを実際に目の前で見ており、いかに命の魔法が危険であるかを理解しているはずだ。

 あの時の自分は確かに弱かったかもしれない。それに、容赦のない魔法に立ち向かうというのは、それ相応の覚悟が必要になる。


 いざとなれば清が灯を守ればいい、と思えば簡単な話で済む。だが、灯を守りながら勝負できるかと聞かれれば、限りなく否だろう。

 清自身、強くなっているとはいえ、あの時の勝負で紡は話す余裕があった。


 その余裕が意味するのは、全力を出していない裏付けとすら言える。


 気づけば、灯は自分の両手を丸めるように合わせ、じっとこちらを見てきていた。


「確かに私なんかがいけば、清くんの足手まといになるかも知れません」

「灯が足手まといなはずないだろ!」


 否定的な灯に思わず言葉が先走ってしまい「すまない」と清は慌てて口にした。


 現段階で言えば、無制限合成魔法を扱える灯の方が間違いなく強いだろう。

 灯は自分でも否定的になっていると気づいてか「ごめんなさい」とうつむくように口にしていた。


 それでも透き通る水色の瞳でじっと見てくる灯は、明らかに何かを知っている様子だ。


「心寧さんや古村さんから、命の魔法が古くから伝わる禁忌の魔法であることは聞きましたよ……」

「俺、未だに聞いてないんだけど」

「清くん、弟が魔力シールドを貼らない相手なのに、全力で勝負できるのですか?」


 灯から言われた言葉に、清はくぐもった声を出すしかなかった。

 清自身、解放者(リベレーター)を魔力シールド込みの魔法で相手をするだけでも精一杯であった。また、傷つけてしまうかもしれない、といった迷いが生まれていたのも事実だ。


 気づけば清は拳を握り締め、今の自分に両立できるのか、という迷いが生まれている。

 自分の手で二度と他者を傷つけないと決めているからこそ、下手をする未来を思えば、希望は遠のくだろう。


(……どうすればいいんだ)


 天井を見ても答えが浮かぶはずもなく、下を見ても更に深い溝へと落ちるだけだ。

 上を向いて歩こうにも、今の迷いに光が無いように思えてしまう。

 清が黙って悩んでいれば、見ていた灯は清の手をそっと取り、ゆっくりと優しく包み込んでくる。

 灯は小さく微笑み、透き通る水色の瞳で柔らかに見てきていた。


「……清くんの邪魔にならない範囲で、魔力シールドの魔法を私に補わせてほしいです」

「灯、どうやって?」

「ふふ、私達にはあるじゃないですか、魔法共鳴が」


 魔法共鳴と言われ、清はふと思い出した。

 魔法共鳴、それは灯と生み出した、清と灯だけの唯一無二の魔力を共鳴させる魔法だ。

 灯の意思を尊重したいと思っていた分、自分たちで生み出した魔法を忘れていたことに、清は恥じるしかなかった。


 灯を危険な場所に身を投じさせない、遠くて近いような魔法があったにも関わらず、忘れていたのだから。

 清は灯からそっと手を離し、自分の顔を片手で覆い、ゆっくりと左右に頭を振る。


「二人で生み出したのに……忘れていた何て、情けないよな」

「むっ、情けないなんてありません。私が心から認めた清くんを、情けないと思うはずありませんよ」


 恥ずかしそうながらも、目を逸らさずに肯定してくる灯に、清は思わず息を呑んだ。

 透き通る水色の瞳は揺れ一つ見せず、ただ清を見つめている。


「清くんは確かに一人で背負うとしていたかもしれませんが、こうして二人で進む道を見つけられた……そこのどこが情けないというのですか。本当に情けないのは、勝手に一人であやふやにして、人に頼ることを忘れた人の皮を被った獣じゃないですか」

「灯、それ以上はいいよ。ありがとう。汚い言葉遣いをすれば、灯の可愛い声が台無しだろ……灯が肯定してくれる、俺はそれだけで嬉しいから」


 清は灯を自分の場所に手繰り寄せるように、そっと抱きしめる。

 そして灯の白い頬に籠った赤みを抜くように、優しく頬を撫でる。


 灯は急に抱きしめられると思っていなかったのか、動揺で頬に赤みを帯びさせているが、清の胸で落ちつく場所を探すようにもぞもぞと動いていた。

 灯は居場所を見つけてか、耳を胸に近づけては、上目遣いでこちらを見てくる。

 灯の表情には先ほどの言葉とは裏腹に、美しく咲き誇る可憐な花が宿っていた。


「頑張る清くん、素敵ですし、大好きです」

「灯が大好きと思える自分で居られるのなら、なによりだ」

「清くんを嫌いになんてならないですから」


 そう言ってぎゅっと抱きしめ返してくる灯に、清はむず痒さがあった。

 この小さな温かさが、清も心落ちつく場所である。だからこそ、清も優しくもぎゅっと灯を抱きしめる。


 お互いに温かさを堪能した後、温もり途絶えぬまま、ゆっくりと腕を離す。


「灯のおかげで迷いが晴れたよ」

「清くんの力になれたのなら何よりです。……この先の試練、清くんがどうやって立ち向かうのか、私は楽しみですよ」

「灯が何を言っているのか理解できないが、俺は灯が一緒についてきても、絶対に守れるようになるから」

「ふふ、清くんが迷いなき刃を届かせられるように、離れていようと心は傍に居ますから」


 灯が微笑みながら言ってくるため、清は気恥ずかしさがあった。

 気恥ずかしさを逸らすように、清は思い出した事を口にする。


「灯、もう一度抱きしめてもいいか」

「別にいいですけど……今日はやけに来ますね」

「……努力していて、灯との居る時間が減ってから、寂しかった」

「素直ですし、嬉しい限りですね。どうぞ」


 そう言って両手を広げて誘ってくる灯を、清はもう一度抱きしめる。

 清自身、自分に甘さを無くすように出来る限り我慢していたが、今日だけは甘えたかった。

 常和から『星名さんが寂しそうだからかまってやれよ』と言われたが、常和ありきの気持ちで動いているわけではない。


 本当に、ただ純粋に灯を求めたかった。

 灯の柔らかな体は、抱きしめる清の気持ちを癒すように、温かな人の心を伝えてきている。


「私も清くんとの時間が減って寂しかったのですよ……」

「ごめん」

「わがまま、言ってもいいですか」


 灯の言葉に清は静かにうなずいた。そして話しやすいようにと、清はゆっくりと灯の頭を撫でる。

 体を離せば、透き通る水色の瞳はうるりとした目で見てきていた。


 気づけば、灯の小さな手は清の手を離したくないとばかりにぎゅっと掴んでくる。


「この後も……清くんと一緒に居ても……いいですか……」


 灯のわがままに、清は息を呑むのだった。

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