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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第五章:hope union

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百八十三:魔力を極める意味

「まあ、血筋分けの話はここらへんにしといて、魔力の分類に入りますか」

「魔力って、一括りに魔力じゃないのか?」

「まことー、それを今から話すって話だからね?」

「清くん、人の話は最後まで聞いておきましょう」


 清は灯と心寧に注意され、常和の方に視線を向ける。

 現在、四人は純人間等の話を終え、魔力の話に入ろうとしていた。

 休憩がてらのつまみとして常和と心寧から切り出された話ではあるが、予想以上に灯が真剣に聞いたり、清が食いついたりして賑やかに花を咲かせている。


 世界に関わる話、いわゆる説明であっても、四人が笑顔で話し合える仲であるという証明になるだろう。

 清からしてみれば、勉強というよりも、仲間とまだ見ぬ世界に足を踏み入れるようなワクワク感があるのだ。


「本題に入るぜ! 最初に言っておくが、分類は二種類に分けられているんだ」

「二種類だけなのか」

「二種類じゃないと例外が山ほどあるからねー」


 心寧が鋭いツッコミを入れてきたので、清は一番心当りがあるため、苦笑したような表情を浮かべてしまう。

 灯はそんな清を見てか、くすくすと笑みをこぼしている。


「……で、本題なんだが。一般的に使われているのが、自然の形を自分の魔力で無理やり捻じ曲げた魔法――()がままに扱う力なんだ」

「我がままに扱う力、ですか?」

「ああ。どの魔法であっても、魔法陣を介して使うのは同じなんだ。だけど、その先が違うんだよ」


 清は常和の言葉に首をかしげた。

 魔法陣で魔法を生み出している、という動作は同じであっても、その先が違うとなれば未知の領域と言えるだろう。


「自然のエネルギーを無理やり捻じ曲げて使ってるから、一回一回の魔法の威力に差があったり、魔力の消費も多くなったり、って使ってるだけだと感じにくいデメリットがあるんだ」

「二人は星の魔石で、魔力の底が無いようなものだから気にならないかもだけど……魔法勝負を楽しむだけなら、少ない魔力で美しく見せた方が勝ちまであるからね?」

「確かに心寧の魔法勝負は美しかったよな」

「清くん、多分そうじゃないですよ」


 変に感心したのが悪かったのか、灯から呆れたような視線が飛んできている。

 心寧は、褒めてくれてありがとう、と明るく乗り気であるため、常和は折れ気味にため息一つこぼしている。


 気づけば、ひんやりとした風が肌を撫でてきていた。


「……清には言いづらかったんだが、この我がままの力にはさ、群を抜いて『命の魔法』が君臨しているんだ」

「命の、魔法……」


 この時、清は思わず息を呑んだ。

 命の魔法――それは、清の弟である、黒井(つむぐ)が扱っていた得体の知れない魔法の名だ。

 我がままに扱う力に分類されていたから驚いたわけではない、この話が根のように関わっていた事実に清は内心驚いている。


 常和が、命の魔法の詳細を今ここで話さないという確信はできる。だが、動揺隠せぬ気持ちがあるのは、心の隙間に隠した闇が覗いてきているからだろう。


 ふと気づけば、灯は清の動揺を察してか、何も言わずに、ただただ手を包み込んできていた。

 空っぽになった紙コップはいつの間にか灯に回収されており、その代わりとして灯の手が差しのべられている。

 清の心を覆い隠そうとした雲を、灯も一緒になって支えるように、晴らそうとしてくれているのだろう。


 灯は真剣にこちらを見て、ただ心を落ちつかせるように、小さな手にある温もりを分けてくる。

 そして、透き通る水色の瞳は僅かな揺れもみせず、輝き一つを清の心に落としていく。


(……そうだよな。今の俺には、何よりも大事で失いたくない存在、灯が居るじゃないか)

「灯、ありがとう。もう大丈夫だ」

「真実を受け止めるのは勝手ですが、無理は駄目ですよ」


 めっ、といった感じでおでこに人差し指を灯が当ててくるため、清は気恥ずかしさがあった。


「お二人さん、世界に入っているところ悪いんだけど、話し続けてもいいか?」

「とっきーは二人の支え合う愛を見習ったら?」

「す、すまない。せっかく話してもらっているのに」

「……な、悩んでいる清くんを見たら、放っておけないだけですから」


 灯が白い頬を赤らめながら言ったのもあり、心寧から、罪な男だね、というような視線がにやりと飛んできている。

 清は知らん、といったように常和へと視線を向けた。


「まあ、お二人さんはいいとして……」

「視線が痛いから先に進んでくれると助かる」

「はは。本題の命の魔法――それに対抗するため、この後に話す、それは!」

「自然のままに扱う力、をまことーが扱えるように、試練という名の努力をしてもらっているんだよ!」

「……この説明は心寧が適正だし、任せるわ」

「常和、折れたな」


 常和が苦笑しつつ紙コップに口を付けたのを好機のように、心寧は嬉しそうに口を開く。


「ざっと説明するとねー……自然のままに扱う力っていうのは、環境である木々や草花、水や風に含まれる魔力から力を使わせてもらって、魔力を自由自在に扱える者のことを指すんだよ!」

「本来ある魔力を自由自在に、ですか?」

「星名さん、それとはちょっと訳が違うんだよ」

「魔力自体は本人の内側から湧き上がってくるようなものだけどね、そこに自然の魔力を捻じ曲げないで使わせてもらう感じなの!」


 つまり心寧は、本来ある魔力、自然にある魔力、その二つを共存させている魔力とでも言いたいのだろう。

 清自身、先ほどの滝の気づきを得ているため、宙に舞う自然の魔力はある程度見えているので、心寧の言葉に納得がいっている。


 灯はというと、相変わらずのように魔力には疎く、不思議そうに首をかしげて心寧を見ていた。

 灯がなぜ魔力を感じられないのか、といった悩みの種を植えそうになってしまうが、自分は自分、灯は灯と割りきるのが妥当だろう、

 同じ星の魔石使いであっても、星の魔石に宿る力にも差があるのだから。


「そういえばさ、常和と心寧はその力を使えているのか?」

「ああ、俺と心寧は魔法の庭で育った以上、息をするように日常生活で使ってるぜ」

「そもそも、力を当たり前のように使えなきゃ教えられないからね?」


 心寧の鋭い言葉に、清は顔を引きずらせるように苦笑するしかなかった。

 ふと気づけば、灯が滝の方を見ているようだ。

 不思議に思いながらも、清は灯に疑問を尋ねる。


「灯は使えるのか?」

「使えないですし、今日初めて聞きましたよ」

「まあ、あかりーは規格外な魔力だから、規定された魔力分類で分けられるような器に無いかなー」


 灯はさらっと人外扱いされていると思ったのか、むっ、としたように頬を膨らませて心寧を見ている。

 心寧は灯の反応が予定外だったらしく、あかりーごめんね、と言いながら両手を合わせている。


 清からしてみれば、灯は仲間外れにされるのを嫌うと知っているため、人外扱いされたのを気にしているというよりも、皆と同じように扱われないのが嫌と言っているように見えていた。

 珍しく他人に頬を膨らませている灯を見て、可愛らしい微笑ましさはあるが、清は宥めるように灯の頭を撫でておく。


「まあ、星名さん、星の魔石がそれほどまでに複雑で奥深い、ってことで多めに見てくれないか?」

「……清くんもこうしているわけですし。心寧さん、今日だけですからね」

「うう、気をつける」


 わざとらしく落ち込んだ様子を見せた心寧を、灯は本気だと思ったらしく、仲直りの印と言わんばかりに紙コップにお茶を入れて渡していた。

 心寧はただ灯の作るお茶を飲みたかっただけなのか、分かりやすいほど明るい表情を浮かべ「あかりーありがとー! 大好きー!」と喜んでお茶を飲んでいる。


 そんな微笑ましい二人のやり取りを、清は常和と顔を見合わせて笑みをこぼした。

 ふと気づけば、常和はその場から立ち上がり、背伸びをしてみせる。


「話はこれくらいにして、滝つぼの洞窟にこの後行くけど、心寧と星名さんも行くか?」

「お二人のお邪魔にならないのであれば、この先は見たことがないので行ってみたいです」

「あかりー、いい機会だし行こうか!」

「決まりだな。清もそれでいいよな?」

「俺は四人で居た方が楽しいから構わないな」


 各々の意見がまとまり、四人で滝に隠れて見えない洞窟『滝つぼの洞窟』に向かうこととなった。

 清と灯、心寧がその場から立ち上がっている時、常和はこっそりと近くにあった枝を一本拾うのだった。

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