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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第五章:hope union

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百七十八:向かうは滝という名の自然の洗礼

 一定の走り込みに区切りがついた放課後、清は常和と共に、魔法の庭で未だに踏み入れていなかった土地に足を踏み入れている。

 校舎と転送魔法の出入り口として通っていた森には足を踏み入れていた。だが、今回向かう先は湖よりも更に奥にある、木々の生い茂る未知なる領域となっている。


(……ここまで来たことなかったな)


 常和の背を追いかけつつ、並ゆく木々を見ながら清はふと思った。

 心寧や常和から以前、結界近くやメモ用紙に書いていない場所には行かない方がいいと言われていたため、四人での行動以外は校舎か湖が多かったのだ。


 夕方前であるのに薄暗い森中を歩いていれば、何処からともなく水の音が聞こえてくる。水の音、正確に言えば、水の落ちる音の方が正しいだろう。


「常和、この音は?」

「うん? ああ、もうすぐ目的地だ」


 常和が後ろを振り向かず背中で語るので、本当にもうすぐなのだろう。

 草花が減っていけば、視界に光が差し込み始め、開けた場所に出た。

 急な明るさに目が慣れず、清は視界を腕で隠しつつ、ぼんやりとした中その場を見渡す。


(この音だったのか)


 気になった水の音の正体は、見渡す必要なく判明した。

 清達が抜けた先には、周囲が木々に囲まれ、目の前が断崖絶壁とも言える崖となっている場所だ。そして一番目に映るのは、その崖の上から勢いよくこぼれ落ちる滝だろう。


 滝はどこにも溢れないようになっているのか、崖の下が青く輝く滝つぼになっており、落ちゆく水は音を立てて跳ねている


 肌を撫でるひんやりとした風は、水の冷たさを間接的に伝えてきていた。


 森の奥底に潜む神秘的な光景と言える美しさに、清は思わず息を呑んだ。

 現実世界で田舎に近いところ、ましてや鳥籠の外を知らない清だったからこそ、自然に流れ落ちゆく水が美しく見えている。


 沈黙の間に水の音が滴っていた時、清はふとある事を思い出してポケットの中を漁った。そして、一枚のメモ用紙を取り出す。


「お、懐かしいのを持ってるな」

「常和、この地図的には、ここはどこを指しているんだ?」

「えっとな、ちょっと触れるぜ」


 常和がそう言って、以前心寧から渡された魔法の庭の行き場所が書かれたメモ用紙に触れれば、常和の魔力に反応してか、文字が浮かび上がるように空白の場所に色が付いていく。


「ま、それはおいおい見てくれよ」

「ああ、わかった」


 メモの変化が気になりはするが、今はぐっとこらえ、メモ用紙を再度綺麗に折りたたんでポケットに戻しておく。

 常和を見ればこちらを真剣に見てきており、目的地とも言っていたので、今後の努力する場所は少なからずこの場所になるだろう。


 清は不思議に思う感情を心の箱にしまい、常和の方を見る。


「そう言えばさ、ここで何をする気なんだ? あるのは滝くらいだしさ」

「清、ここでやる事をやる前にだ。……魔力シールドを展開できるか?」

「魔力シールドか、わかった。――魔力シールド展開」

「……ああ、やっぱり初期のままか」

「どういうことだ?」

「命の魔法を使う弟と勝負する気なら、今の魔力シールドを対魔法勝負用の魔力濃度じゃなく、限界まで上げた魔力シールドの強度にしないと保証できなくなるんだ」

「魔力シールドの、強度?」


 この世界での魔法勝負は、魔力シールドが破壊されれば負け、という簡単な内容だ。

 そして今展開した魔力シールドは、展開者本人の周りを薄い透明の魔力が包み込む、としか清は知らなかったため、常和の言っている事に思わず首をかしげてしまう。


 どれだけ魔法が弱かろうと、魔力シールドの薄さで少しでも強弱と知恵の駆け引きに楽しさが生まれる、それが魔法勝負なのだから。

 管理者から清が魔力シールドを教わった際、魔法勝負時の魔力シールドに規定以上の魔力を流さないように、と注意をされたのも思い出した。


「魔力シールドは魔法勝負以外……ていうより、要注意危険人物や危険人物同士なら、魔法で壊れにくくしないと不味いんだよ」

「そうだったのか」

「管理者が何を考えたのか知らないが、清の魔力シールド、明らかに対一般人ともできるようなんだよなー」

「常和、魔力シールドはどうやったら強度を上げられるんだ?」

「お、乗り気になってくれたか!」


 そう言って常和は簡単に理解しやすく、さらっと魔力シールドの強度のあげ方を伝授してくれた。

 魔力シールドは強度が上がったとしても、今までのとは違いに違和感がなく、体に何も影響がないようだ。


 清が手を握ったり、腕を(くう)に振ったりする様子を見ていた常和は、嬉しそうに笑みをこぼしている。


「というか、改めて見ると本当に凄いな」


 滝の方を再度見れば視界がぼやけていて気づかなかったが、滝として落ちる水の勢いは強固な岩をも砕くような強さを誇っており、滝つぼに生身で近づけば危険じゃないかと直感に思わせてくる。


 滝の落下点である滝つぼを見れば、そこから重い音を立てて水が跳ねているので、見ているだけでも勢いが理解できる程だ。


 流石に滝の近くで何かするだけだろう、と清が心の中で思っていた、その時だった。


「じゃあ清、このあとやる事を教えるから……しっかりその目で見ててくれよー」

「え、おい、常和!?」


 清は思わず目を疑った。

 魔力シールドを現在纏っている清ならまだしも、纏っていない常和が何の躊躇も戸惑いもなく、滝つぼの方に向かって行ったのだから。


「え、嘘だろ……?」


 生身で近づくのは不可能、と誰が決めたのだろう。

 常和がお手本を見せるために溜まった水へと足を踏み入れれば、水は常和を故意的に避けるかのように、小さく円状に常和の外側を回っているのだから。

 回っていると言うよりも、常和に寄り添っているが正しいのだろうか。


 そうして常和は滝という名の自然の洗礼を受けず、一滴の濡れもない状態で滝の付近へと近づいてみせる。


 滝に近づくのが目標か、と思っていた清はもう一度自分の思考を疑った。

 常和は滝に近づくなり、腕を伸ばして手を滝に付けたのだ。

 滝は手を付けた常和に反応してか、常和の付近を避けるように、手を中心にしてアーチ状の流れを作って見せる。


 もはや自然という名の物理法則を無視していそうな感じだが、これは魔法だ、と自分に暗示しておくべきなのだろう。


(……あれは?)


 常和の行動に驚かされっぱなしで気づかなかったが、常和を避けていた滝の先で洞窟が姿を露わにしていたのだ。


 滝に隠れていて本来は見えないため、誰が何のためか、自然的に形成されたものなのか、気づけば考察の幅が広がっている。


 清が滝つぼの先にある洞窟に驚いていれば、お手本を見せ終えた常和は手を離し、滝を元の流れに戻してこちらに近づいてくる。


「清には最初、さっき俺がやったみたいに、滝に手を付けて自然に認めてもらうことだ」

「あのさ、さっき見えた洞窟はなんだ? それと、どうして滝を避けさせる必要があるんだ?」

「四の五の言わず、まずは出来るようになってから、な」


 常和が先を答える気は無いと理解できたので、清は答えを言ってもらうために、行動で示すように滝の方へ向かう。

 その際に常和から「魔力シールドは解除するなよ」と言われ、常和との距離の違いを感じさせられる。


 教え無しでやってみることになったのはいいが、改めて滝の目の前に立てば、清は息を呑むしかなかった。

 滝の勢いは離れていた時には感じなかったほど凄まじく、誰も寄せつけないと言わんばかりの圧を発している。

 清自身、走り込みで足の筋力はある程度付いたと思っていたが、気を抜けばすぐにでも吹き飛ばされそうな勢いに、思わず尻込みしてしまう。


「……まずは常和に追いつくためだ、俺だって! うっ!」


 水に足を踏み入れた瞬間だった、常和はすんなりと水に入っていたが、清は水に足を踏み入れる事すらままならず、流れ落ちる水圧に吹き飛ばされてしまう。

 魔力シールドが無ければ、今ごろ無事では済んでいなかっただろう。


 常和は水に押し戻される清を見て、苦笑気味に表情を浮かべていた。


「清、滝までの行き方を知りたいか?」

「いや常和、まだ自力やってみるよ!」

「はは、一人で泥臭いような努力を出来るのが清の良いところで、不器用なところでもあるよな」


 常和はそう言って、再度水へと足を踏み入れていた。

 常和は多分、今の清はここまでが第一の関門、とでも言いたいのだろう。

 努力をすると決めた自分に手を差し伸べてくれる常和の協力に答えられるよう、清は常和を見て、日が沈むまで何度も挑戦するのだった。

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