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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第五章:hope union

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百六十八:前向きに変化していく

 次の日の朝、魔法の庭で朝ご飯を食べた後、清は灯と一緒に、自分たちの過ごす自宅へと帰ってきていた。


 久しぶりの帰宅だったのもあり、懐かしいように思う玄関に入った瞬間、清は息を吐きだしたほどだ。


 部屋やリビングの掃除は、前々から清が徹底してやっていたのもあり、埃が化粧程度だったのでさっと掃除するくらいで済んでいる。

 日々の努力を怠らなかったのが、今の結果として功を奏しているのだろう。


 清としては、灯が料理を毎日作ってくれるのもあり、自分に出来る掃除くらいは徹底してやっておきたい気持ちが混ざっていたのも事実だ。


 その後、お互いに荷物の整理を含め、リビングに集合の話をしてひと時の解散とした。



 数十分後、清は灯を待ちながらゆったりとソファに座っていた。


 そわそわした気持ちがあれ、待っていれば階段の方から小さな足音が聞こえてくる。

 音する方を振り向けば、そこにはリビングを覗く少女の姿……灯が笑みを宿してこちらを見てきていた。


 そして灯は、軽やかな足取りでこちらへと近づいてくる。透き通る水色の髪は灯の後をつくように柔らかく揺れ、静かな時間の流れを感じさせてくるようだ。


 清がソファの端によれば、灯は自分の場所を再度確認するように探し、ふわりとソファに腰をかける。


「……こうしてソファに隣同士で座るのも、なんだか新鮮だな」

「まあ、うちにはソファがありませんでしたからね。どちらかと言えば、ベッドに隣同士で座るのも悪くなかったですよ」

「あれはそうするしかなかったからだろ」

「清くん、もしかして照れていますか?」


 灯の茶化しに、照れていない、と清が言えば、本当かなといった視線を向けられている。

 清は灯に手を出すようなタイプでは無いが、異性とベッドに隣同士で座る方がどこか気まずさがあったのだ。


 ふと気づけば、灯は川の水面すら揺れぬような透き通る水色の瞳で、真剣にこちらを見てきていた。


「清くんは、その……本当に努力をする気なのですか? えっと、止めたい、というわけじゃなくて……」


 もじもじとした様子で言う灯を見て、清はそっと灯の頭に手を伸ばし、優しく撫でる。

 艶のあるなめらかな髪は、清の手を受け入れながらも、柔らかな温かき感触を伝えてくるようだ。


 清が無言で撫でていれば、灯はうつむいていた顔を上げてこちらを見てくる。


「これ、俺の本音なんだけどさ……灯の隣に立っていても、もっと自分に自信を持てるようになりたいから、前から決めていたことではあるんだ。まあ、紡の件を含めて、行動に移すのが速まったんだけどな」


 灯の頭を撫でていた手を離せば、灯はえっといった様な物寂しそうな表情をしつつも、そっと息を吐きだしている。


「……清くんとの時間が減るのは寂しいですが、私はずっと隣で支え続けますからね」

「ありがとう。灯にはいつも救われているよ」

「ふふ、清くんは私が居ないと駄目になっちゃいそうで心配ですから」


 そう優しく言いつつ、灯は清の頬に小さな手を伸ばし、そっと触れてくる。

 灯の手はひんやりとした冷たさがあるにも関わらず、今の清にとっては温かく包まれるような感覚があった。

 柔らかな笑みで見てくる灯は、清の内側にある秘めた思いすら見透かしていそうだ。


 灯の言う通り、灯とあの日に再開していなければ、今も尚インスタント食品での生活をしていただろう。

 灯が隣で支えてくれる、奇跡という名の運命に、清は心底感謝をした。


 灯がゆっくりと手を離した時、清はふと思っていた事を口にする。


「そういえば、灯は結局、その間はどうする気でいるんだ?」


 昨日、灯の情報は何一つ得られなかったのもあり、清は気になっていたのだ。

 灯は軽く首をかしげ、指を口許に当て、悩んだ様子を見せている。


「……魔法の庭のお手伝いをしようかな、とは思っていますね」

「魔法の庭の手伝い?」

「はい。古村さんの事だから、きっと魔法の庭を清くんとの練習メニューで使うかもしれないから、と心寧さんが言っていて……そのついでに魔法の庭の管理を手伝わない、と昨日話があったのですよ」

「そうだったのか。まあ、お互い無理の無いようにしような」


 お互いに無理をして心配し合えば、複雑な心境に飲まれあってしまうだろう。支え合う心の気持ちが移ろわない限り、清と灯は常にお互いの心配をしているようなものなのだから。


 気づけば灯は嬉しそうな笑みを宿し、ゆっくりとソファから立ち上がる。


 灯は「飲み物を用意してきますね」と言って、キッチンの方へと向かっていく。


 数分後、灯は氷の入ったコップに紅茶を注ぎ、目の前のテーブルに置いてくる。

 氷は紅茶の世界の宙に舞い、互いにぶつかり響き合い、協調した世界の旋律を奏でていた。


 清が紅茶を飲んで喉を潤していれば、灯がゆっくりと口を開く。


「清くん、いつくらいから努力をするおつもりで?」

「うーん……さっき連絡入れたけど、常和が練習メニューを作ってくれるから、早くても明日になるらしい」


 灯は清の言葉を聞き、手に持っていたコップを静かにテーブルに置く。

 氷の当たる音が空間に鳴り響いた時、灯は清が予想していなかった言葉を口にした。


「頑張りすぎちゃうと疲れちゃうと思いますし、先に甘えておきますか?」


 灯がそう言って柔らかな笑みを向けてくるため、清は息を呑んだ。

 灯の誘いはありがたいものではあるが、清的には今の自制心が揺らぎかねないことが心配であった。


 灯に依存してもいい、と言われているが、自ずとその場に飛び込むのは違うように思えているのだから。

 透き通る水色の瞳でじっと見てくる灯に、清は息を吐きだして心が折れる。


「その……少しだけいいか?」

「ふふ、どうぞ。少しと言わず、たくさん甘えてもいいのですよ?」


 灯はそっと手を広げ、清を誘惑してくるようだ。

 灯からしてみれば、清を誘惑しているつもりは無いかもしれないが、清としては充分な刺激そのものだった。


 灯は清に抱きしめてほしいのかもしれない、灯が清を抱きしめたいのかもしれない、といった様々な考えが脳裏を一瞬の間でよぎれば、清は気づけば顔が赤くなっていた。


 灯はそんな様子の清を見ても、顔色一つ変えず、清らかで優しい笑みを宿している。

 桃色の風が肌を撫でるような感覚に落ちついた時、清は灯の頬に両手を伸ばす。そして、灯の温かな頬をぷにぷにする。


「……可愛い」

「へ、へんなかほになってないでふか?」

「俺は灯しか見てないし、変かどうかわからないんだよな」


 清が灯の頬から手を離せば、灯は薄っすらと頬を赤くしており、今にでも沸騰するのではないかと思わせてくる。


「うう、一途なのは嬉しいですが、あまり言わないでくださいよ」

「そうか、じゃあ言わないでおくよ」

「な、なんでそこで否定しないで素直に受け入れるのですか!」

「灯があまり言わないでほしいって言ったから」

「もう……純粋な清くんにはこうです」


 灯は誤魔化すように背に腕を回し、ぎゅっと抱きしめてくる。

 瞬く間もなく灯に抱きしめられ、清は気づけば灯の温かさに包まれていた。

 華奢な体からしっかり伝わってくる柔らかさに、灯の甘い匂いは、清の気持ちをそっと撫でてくるようだ。


 清としては、灯に抱きしめられるのは嫌でない為、抱き返して更に堪能しておく。

 灯は清の胸の中で落ちつく場所を見つけたのか、体をゆだねるようにしながら頭を当てている。

 それでも抱きしめた腕は離さんと言わんばかりにぎゅっとしており、なめらかな髪が顔を軽く撫でてくるため、清はむず痒さがあった。


「温かい」

「ふふ、寝落ちしちゃいますか?」

「……灯が先に寝落ちするだろ」

「そうかもしれませんね」


 お互いに存在という名の温かさを堪能した後、ゆっくりと手を離した。

 灯は清に抱きしめられて満足したのか、小さく微笑みながら胸に手をあて、残った温もりを今でも実感しているようだ。


 灯を見ていれば、灯はこちらに視線を戻し、不思議そうに尋ねてくる。


「清くんは、魔法を今はどう思っていますか?」

「今は、嫌いじゃなくなったけど、好きだと思ったことはないな……今は紡の件もあるし」

「私が言うのもなんですが、一人で抱え込みすぎちゃ駄目ですからね? でも、良いことを聞きました」


 灯に「良い事ってなんだよ」と聞けば、灯は誤魔化すように「お昼の準備をしてきますね」と言ってソファから立ち上がりキッチンへと向かっていった。


 清は楽しそうな足取りで向かっていく灯の背を、ただ眺めるしかなかった。

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