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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第五章:hope union

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百六十七:新たな花は芽生える

第五章開幕です!

 清は常和と共に、自分たちの帰りを待つべき者が居る、魔法の庭に戻っていた。

 転送魔法陣から魔法の庭に出る頃には、出発前に見た青空の面影はなく、黄昏時を迎えていた。


 空で時間を確認した後、清は常和と顔を見合わせる。

 森の中に出たのもあり、灯と心寧、ツクヨの待つ校舎へと駆けていく。


 校舎の校庭についてから清と常和は、灯と心寧とツクヨに、創成の大地で紡と話した内容を共有した。

 その際に灯が、何事もなく無事に帰ってきた清の存在が嬉しかったらしく、今にでも涙をこぼしそうな程うるりとした瞳をしていた。


「……まあ、そんな感じの話を紡としました」

『なるほど。それで君は、十二月三十一日に弟と世界をかけた戦いをすると』

「紡とは戦いじゃありません。俺からしてみれば、救うための勝負です」

「清、ツクヨ先生は管理者の手出しを心配してんだ。……気持ちはしっかり伝わってると思うぜ」


 思わず熱くなってしまったが、常和の言葉を聞き、はっと我に返る。

 ツクヨは常和の言葉通りの事態を心配しているようで、どうしたものか、と悩んだ様子を見せていた。


 その時、静かに聞いていた心寧が呆れたように口を開く。


「ツキ、案の定魔法世界から出た魔法使い……ましてや、純魔法使いで間違いなさそうだね」


 肩を落としてため息をつく心寧を心配に思ったのか、常和はすかさず励ましの言葉をかけている。

 夕日が五人の影を模す中、灯が不思議そうに首をかしげていた。


「心寧さん、純魔法使い、ってなんでしょうか?」

「そういや、俺も前に常和から『純人間』や『純魔法使い』って聞いて気になっていた」

「あー、お二人さん、簡単に言うとだな……血縁関係を示しているんだ」

『黒井君に星名君、その話は休み明けの授業で詳しくする、もしくはこの二人から後で聞く、で今は納得してもらってもいいかね?』


 清は灯と顔を見合わせ、ツクヨの返答に迷いなくうなずいておく。


 今のところ、魔法世界には魔法世界のルールや呼び方がある、という風に思っておけばいいのだろう。


 ツクヨの発言通り、現在は紡の話をまとめている最中であり、夕暮れ時でもあるのだから。


『とりあえず、この件は現当主中立派だけの問題として隠ぺいしておこう。仮に広まるとなれば、黒井君と星名君の安全を保障しきれなくなるからね』

「ツクヨ先生、俺はそれで賛成だ」

「とっきーと同じくー」


 ツクヨは清達の生活の心配を優先したらしく、常和と心寧は疑問なく賛同している。


 その後にツクヨから、現在管理者が機能不全に陥っている事、解放者がこれ以上の被害を出さないという主旨の手紙を送ってきていた事、を軽く説明された。


 清としては、解放者がなぜ個別で人を狙ってさらっていたのか、という疑問が残ったままではあるが、これ以上の被害が出ないのに越したことは無いだろう。


 話が終われば、ツクヨは『私は用事があるから後は頼むよ』と言って、この場を後にした。


 ツクヨを見送った後、清はどうしたものかと悩んだ。

 紡との話を周囲に伝える事は済んだものの、この後の行動を一切考えていなかったのだから。


 清がふと悩んでいれば、隣に立っていた灯の透き通る水色の髪が優しく風に揺れる。


「……灯、この後はどうするか?」

「え、えっと、その……」

「まことー、あかりーと夜ご飯作っちゃったし、時間も時間だからここに泊まっていけば?」

「お二人さん、心寧もこう言ってんだ、今日は泊まっていけよ。俺は現実世界の土産話も聞きたいしな」


 清は灯と顔を見合わせ、お互いに承諾の上で、心寧の言葉に甘えて魔法の庭に一晩泊めさせてもらうことにした。

 また、今日の出来事が全て連なっているのもあり、家に数分しか帰宅していないのを含めれば尚更ありがたい話だろう。


 四人で校舎に向かって歩いている最中、黄昏時の夕日は優しく見送るように、山の中へと沈んでいくのだった。



 食堂にて、夜ご飯の時間を迎えようとしていた。

 今日の献立は、灯と心寧が用意してくれた、夏野菜の盛り合わせ特製カレーとなっている。

 色鮮やかに盛られたカレーのお皿が食堂のテーブルに並べば、食欲をそそるかぐわしい香りを漂わせていた。


 待っていた常和は食べるのが楽しみなようで「美味そうだな」と言って、今や今やと持っているスプーンで金属音を鳴らしそうだ。


 常和の我慢の無さをさらっと注意している心寧は、彼氏彼女の微笑ましい一面を見せている。注意されても、お互いの表情には笑みが宿っているのだから。


 清がそんな幸せな空間の空気を感じていれば、灯が清の隣の席に着くのを合図に、四人は食への感謝をする。


 いただきます、という何気ない感謝に、ありがとうが込められた魔法のような言葉を。


 清は夏野菜カレーを食べるのは初めてであるが、口の中に広がる野菜の交わる甘みや匂い、そしてちゃっかりと姿を現すカレーのピリリとした辛さに、ついつい頬が緩んでしまう。

 清でも食べられる辛さになっているのは、灯も清と同じく辛いのが得意では無いからだろう。

 灯と心寧に「美味しい」と言えば、灯が「おかわりはたくさんありますからね」と嬉しそうな笑みを携える。


 カレーを食べ進めていれば、心寧が食べていた手を止め、思い出したように口を開く。


「そう言えば、二人は今後どうするの?」


 そう言って、水を飲みながら首をかしげている心寧は、ふと気になったのだろう。

 清は食べていた手を止めないようにし、カレーを一口だけスプーンで口に運んだあと、考えていたことを頭でまとめる。


「常和に話そうと思っていたけど……俺は灯を守るため、紡に勝利するために、常和の都合さえ良ければ指導を頼もうと考えていた」

「俺は良いけどさ。……清、努力をして鍛えるってことは、その分二人で居られる時間が減るんだから、星名さんをちゃんと納得させてからにしろよな?」


 常和の言っていることに間違いはなく、清は危うく灯を独りぼっちにさせかけていたことを思い出す。

 清自身、灯と一緒に住んでいるとはいえ、毎時間くっついているわけでは無いが、付き合ってからほとんど同じ空間の範囲内で過ごすことが多くなっていたのだから。


 ふと灯の方を見れば、灯もこちらの視線に気づいてか、透き通る水色の瞳で優しく見てくる。


「灯はこの件についてどうなんだ?」

「……私的には、余り無理をしてほしくはありませんよ。でも、決めたのなら、それを応援するだけですから」

「うーん、あかりーの様子も様子だし、この件は一度持ち帰って決めなよ? とっきーも練習メニューは勝手に考えるだろうしね」


 心寧の助言もあり、清と灯は納得し、話を持ち帰ることにした。

 灯を一人にさせたくない、という気持ちも清の中にあるが、今のままでは紡に勝てない、という焦りがあって周りが見えなくなっていたのだろう。


 その時、心寧が水を飲んでいる灯に対して「あかりーはどうする気なの?」と聞いていた。


 灯は音を立てずにコップを置き、言いづらそうに縮こまっていた。

 灯も灯で何か言いづらい予定でもあったのだろう。そのため、心寧に聞かれるとは思っていなかったのかもしれない。


「あかりー、無理に言わなくてもいいよ?」


 心寧はカレーを美味しそうにほおばりながら言っており、灯から何かを察したのだろう。

 清としては、なぜ灯が悩んでいるのか理解できていない為、心寧が話の手綱を握ってくれることに感謝しかなかった。


「そうそう、今日は部屋が別々だし、夜の恋バナで聞かせてよ」

「わ、分かりました」

「心寧、星名さんをあまり困らせるなよー」


 可憐に咲く花のような空間に苦笑気味の常和は、微笑ましい感情に飲まれているのだろう。

 小さく微笑みの感情に包まれている灯と心寧を見ていた時、清もふと気になったことを口にした。


「そう言えば、二人はどうする気なんだ?」


 清が尋ねれば、心寧は分かりやすく肩を落とし、カレーの盛られたお皿を見つめていた。


「うちは、管理者の件や魔法の庭管理の件もそうだけど……お父様の様子も心配だし……」


 落ち込んだように言う心寧は、余り触れてほしくなかったのだろう。

 清が内心で心寧の陰に触れてまずかったと思った時、常和が庇うように口を開く。


「俺はやる事は特にないし、清の練習メニュー決めかな。無論、お二人さんが一緒に居られる時間を調整してな」

「常和……本当にありがとう」

「はは、本気で頑張っている奴を陰ながら応援するのは好きだからな」


 簡単に言い切る常和を見ていると、自分は出会いに恵まれていたんだな、とついぞ思わされる。


 清がカレーを食べ終わった時、灯はその様子を見ていたらしく「清くん、おかわりいりますか?」と優しく聞いてくる。

 清が静かにうなずけば、灯は嬉しそうに清のお皿を手に持つ。


 また対面上に座っていた二人の方から「常和の分もついでに持ってくるね」と心寧から半強制的にお皿を奪われている常和の姿が目に映る。


 常和は嫌な顔を一つしていないため、心寧のこの行動に慣れているのだろうか。


 灯と心寧が一緒に席から離れた時、常和がこっそりと耳打ちしてくる。


「清、あっちは二人でどうにか出来るだろうし、俺らは俺らのやるべきことをやろうな」

「あのさ、常和……心寧、何かあったのか?」

「うーん、まあ、ちょっとな。……どうせ後で知るだろうし、その時に、な?」


 常和の言葉に嘘偽りは無いと言い切れるため、清は静かにうなずいておく。


 その後、心寧は灯と軽く話したのか、戻ってくる頃には雲一つない笑顔を携えていた。

 先ほどよりも多く盛られたカレーを、清と常和は嫌な顔一つせず、美味しく食べるのだった。

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