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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第四章

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百六十五:君依存にさせられていく

 灯達の方に近づけば、二人は湖から上がり、こちらへと近寄ってくる。

 また灯は機嫌が悪いのか、むすったしたような表情をしていた。


「清くん……遅いですよ」

「灯、すまない」


 そう言って、灯の頭を優しく撫でれば、むすっとした様な表情は柔らかな笑みへと変わっていく。

 灯は、清が常和との話を長くしていたことに不機嫌だったのか、近づいた際はジッと見てきていたが、今ではその面影を感じさせない表情をしている。


 それでも、灯がフリルの付いたビキニ姿である事に変わりないため、速まる鼓動は動揺を隠せないでいるようだ。


 ツーサイドアップの灯の透き通る水色の髪が風に緩やかに揺れた時、心寧が小さな笑みを浮かべてこちらを見ていることに、清はふと気がついた。


「まことー、吹っ切れた感じ? 顔つき変わったね!」

「輝いている時が、一番俺らの清らしいよな」

「そんなに変わったか?」


 心寧が「変わったよー!」と笑顔で言ってくるため、清はそっと心の中で温かく受け止めておく。

 自分では理解できていない部分は、日頃から一緒に居る仲がいい人ほど、一番気づきやすいのだろう。

 心寧は常和に劣らず周りをよく見ているため、小さな変化に気づいては褒めて肯定してくるタイプだから尚更かもしれない。


 灯は心寧の発言を聞いてか、にこやかな笑みを浮かべている。また、その表情は清からしてみれば、何故か寒気がしてならなかった。


「清くん、今なら私を直視しても大丈夫ですか?」

「え、あ……それは、だな……」


 灯のビキニ姿は、太陽に照らされているであろう眩しい肌から目を避けようとすれば、小さな果実の強調された胸元にどうしても視線がいってしまうため、清は顔を赤くするしかなかった。


「あれだよね? あかりーって鈍感じゃないんだろうけど、抜けている一面がまことーに容赦なく刺さるよね?」


 苦笑しながら言う心寧に灯は動揺してか、どういう意味で言ったのか問い詰めようとしている。


「妖精さん達や、可愛くいちゃつくのは程々にしといて、皆で遊ぼうぜー」

「とっきー、あかりーとイチャついてないから!」

「い、いちゃついてなんていません!」

「常和……分かっていて言っただろ……」


 常和は自然と四人を引っ張っていくため、本当に影ながら和ませる大切な存在だろう。それは、自称して名乗っていたムードメーカーという言葉が一番似合うくらいだ。


 四人で湖に足を踏み入れれば、水が弾けるように跳ね、青春を飾る星へと置き換わっていく。


 魔法の庭の湖は、四方八方が木々に囲まれ、上からは鮮やかな太陽の光が差し込んでいるため、魔法のような輝かしさを感じさせてくるようだ。

 中央に行くほど湖の底が深くなっているため、岸近くの浅い部分で四人は遊ぶことにした。


 泳ぐのもありだと思われるが、今の清からしてみれば、灯のビキニ姿に慣れておきたい気持ちもあるため、ありがたい気遣いだろう。


 気づけば、清と灯、常和と心寧の彼氏彼女ペアで固まっているが、お互いの距離感的には仕方ないことだと思われる。もしくは、心寧が灯と最初に遊んでいた為、常和と二人で遊びたかったのだろう。


「……このくらいかな」


 清は手で水を掬い、灯に優しくかける。

 灯は嬉しそうに「きゃっ」と言いながら腕で顔を隠すような仕草をし、仕返しとばかりに水をかけ返してくる。


 水をかけあえば、水滴ははじけ飛ぶように宙に浮かび、太陽に照らされ輝けば、その先に居る灯を美しく見せてくる。

 清は、灯が可愛く遊んでいる姿に、気づけば目が釘付けとなっていた。それは、灯がビキニ姿であるのを意識させないくらいに。


 ふと意識を戻せば、心寧がこっそり灯の背後に近づいているのが目に映る。


「あかりー、まことーが混ざってから楽しそうだね!」

「ううっ……清くんと一緒ですと、幸せで楽しいですから……」


 恥ずかしそうに灯が言ったのもあってか、常和と心寧からは微笑ましいような視線が飛んできている。


 その時、灯が小さく水音を立て、清の方に近づいてきていた。

 軽やかな灯の足取りを不思議に思って見ていた、その瞬間の出来事だった。


(……え?)


 灯は小さな手を自然的な動作で伸ばし、清の腕をぎゅっと抱きしめてきたのだから。

 抱きしめられた腕は、自然と灯の方に寄せられ、ビキニに隠れた小さな果実の柔らかさを教えてくるようだ。


 ぎゅっと腕を抱きしめられているのもあってか、清は動揺や困惑という、焦るような感情が露わになりそうだった。

 灯を抱きしめる際、確かに胸は当たっているだろう。だが、今回は腕という自らの一部を抱きしめられる形になっているため、尚更意識がそこにいってしまうのだ。


「あ、あかり……急になんで?」

「その……心寧さんから、男の子はこうすれば喜ぶと聞いたのですが、どうですか?」

「どうですか、って……」


 思わず視線を心寧に送れば、常和に心寧自身も張り付いて誤魔化そうとしているため、灯に吹き込んだのは事実だろう。

 常和からは「余り心寧を怖がらせないでくれよ?」という言葉と共に、明らかに確信犯の苦笑が飛んできている。


 味方が居ないと察した清は、焦った気持ちに息を吐き、ゆっくりと灯を見た。

 下から見上げるような灯の姿と視線は、今の清からすれば充分以上の刺激そのものだ。


「あのさ、灯、心寧の言葉をあまり本気にし過ぎないでくれよ。……その、俺らは俺ららしく進めばいいんだからさ」

「……清くんの喜ぶ顔が見たかっただけですし……私だって子供じゃないですから、駄目なことと良いことは理解していますから……」


 灯は悲しそうに言い、そっと目線を水面へと下げていた。しかし、ぎゅっと抱きしめた腕は離そうとせず、素肌に当たる確かな温もりを感じさせてきている。


 ふと気づけば、常和と心寧から、灯を悲しませた、といった視線が刺さるように飛んできていた。


 清は息を呑み込み、うつむく灯の頭を、抱きしめられたのとは逆の手で優しく撫でる。


「灯、すまない。灯の水着姿は可愛いし、確かな温かさを感じられて嬉しかった。……灯がしてくれたのは嬉しいけど、心臓的な意味を含めても程々にしてくれると助かる」

「程々ならいいんですね!」


 笑みを浮かべながら明るく言う灯に「そうしてくれ」と清は言うしかなかった。


 その時、手を叩く音が聞こえてくる。


「お二人さん、この後は皆で楽しく遊ぼうぜ!」

「そうだよー! 水遊びはまだまだ始まったばかりだよ!」


 明るく言い切る二人に、清は気づけば笑みが宿っていた。


 二人の所に近づこうとした時、灯が小さな手で撫でるように清の手を取ってくる。

 振り向けば、灯は輝くような花を咲かせていた。


「清くん、思い出させるようで申し訳ないですが……現実世界、確かに辛い出来事はありましたよ。でも、清くんがどんなに落ち込んでいようと、私は清くんを傍で支え続けますからね」

「灯……この馬鹿。今も昔もずっと支えられて俺は生きているよ。君の居ない生活が考えられないほどにな」

「ふふ、私はずっと清くんの傍に居ますから、心配しなくても大丈夫ですよ」

「……そんなこと言われたら、俺は灯依存になるだろ」

「じゃあ、そうなってください。私と過ごせないと泣いちゃうくらい、依存してほしいですから。だから、私はもっと清くんを甘やかして、私依存にさせちゃいますから」


 清は、灯のそっと気持ちを撫でるような言葉に、思わず息を呑み込んだ。


(……俺は今でも灯依存なんだけどな)


 清は常和と心寧が何かを察して目を逸らしている瞬間、ゆっくりと灯を抱き寄せる。

 灯が動揺したようにピクリと震えた時、優しく灯の額に口をつける。これは、灯が依存させようとしてきた事に対してのささやかなお返しだ。


 出来るなら灯の口を奪いたかったが、二人が居るため自重して額だけに口づけしておいた。

 灯はキスをされると思わなかったのか、白い頬に薄っすらと赤みを帯びさせている。

 そして清は、灯の耳元に口を近づけ、囁くように言葉を口にした。


「灯、今の言葉、忘れるなよ」

「……もう、私が先に駄目にされちゃいますよ……ばか、ずるいです……」


 灯と小さな約束を交わした後、清はゆっくりと手を離す。

 灯は耳が弱いのか、今でもくすぐったそうに、耳元に指をあてて違和感を実感しているようだ。


 頃合いを見計らってか、常和と心寧の呼ぶ声が聞こえたため、清は灯の手を取り二人の元へと向かっていく。

 その時、灯が足を滑らせ清に抱きつく形となったため、清は灯の柔らかさに顔を赤くするのだった。

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