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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第四章

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百六十二:鳴りやまぬ不安に休息を

 常和たちに救われた後、木造建ての校舎の屋根下で、清は灯から手当てを受けていた。

 心寧が展開していた魔法陣は、魔法の庭に繋がっていたらしく、その足で現在は休息を取る形となっている。


 空は青く澄みわたっているが、気持ちは紡と望まぬ接触だったのもあり、雲がかかるようだ。

 迷い、不安、絶望、そんな甘い感情では無いだろう。複雑に入り混じった、言葉としての表現を許さない感情だ。


「清くん、服の上から魔法で冷やしますから……動かないでくださいね」

「ああ、すまない。本当に、灯が無事でよかったよ」

「……相手が弟だったからとはいえ、迷った挙句に怪我をして……少しは自分の心配をしたらどうですか」


 辛辣な言葉であるが、灯の発言はごもっともであるため、静かにうなずくしかなかった。

 灯が冷えたような声で言ったのは、こちらを心配しているが故の不安からだろう。

 灯を心配させないようにするつもりが、こうして心配させ手当てまでされており、覚悟と行動が見合ってなさすぎだろう。


 灯は解放者(リベレーター)に魔法玉をなん十発も打たれていたが、全て魔法で防いでいたらしく、外傷的な意味では無傷だったらしい。


 清の考えを気にも留めず、灯は魔法陣を展開して小さな範囲で冷やしてくる。


(……内側に結構来るな)


 灯に魔法で冷やされている清は、紡の近接攻撃を魔力シールドありきとはいえ諸に受け、強く地面に体をぶつけた衝撃もありで、あざにならない程度で赤く腫れていたのだ。

 灯は冷やすと同時に回復魔法を使用しているらしく、清は痛みが和らぐのを感じていた。


 灯からの手当てを受けていれば、魔法の庭の見回りの為に席を外していた、常和と心寧の姿が目に映る。

 その時、常和と心寧はこちらに近づくなり、二人揃って頭を下げてきたのだ。


「清に星名さん、助けに行くのが遅れてすまなかった」

「これは油断してたうちも原因だから、ほんとうにごめんね!」

「し、心寧さんに古村さん、頭をあげてください! 二人が来てくれたおかげで、こうして無事に生還することが出来ましたから!」

「……ああ、二人が悪いわけじゃないから」


 未だに複雑な感情に蝕まれていたのもあり、清は小さく呟くしかなかった。

 回復魔法に重きを置き始めた灯ですら「……清くん」と心配そうに小さく呟くほどだ。


 見ていた心寧が、肩を落としつつも、真剣な表情でこちらを見てくる。


「解放者の創設者がまことーの弟君だったから、困惑するのも無理はないよね」


 そう言い切った心寧に、思わず心が揺らいでしまう。

 自分では理解しているつもりでも、改めて言われるとなれば、気持ちが対応し切れていないのだろう。

 紡と亀裂を生み出したとなれば、今後相対するのは必然なのだから。


 他の誰かが手を加えることの出来ない、家族問題とすら言えるだろう。

 仮に手を出せるとすれば、紡が望んでいた星の魔石の使い手である、灯くらいだ。


 清としては、灯の手を汚させず一人で解決したい、という気持ちが高く存在している。


 清が考え込んでしまった中、常和は心寧の発言が不味かったと思ってか、言い過ぎだと注意しているようだ。

 心寧が呆れたように常和に反論していれば、黒いローブを着た人物、ツクヨが焦った様子で近づいてくる姿が見える。


 三人も気づいたのか、近くに来て息を整えているツクヨに目をやっていた。


『黒井君に星名君、君達を危険な目にさらした事、本当にすまなかった』

「ツクヨさん、そんな謝らないでください。俺は、灯と現実世界に行けて、灯が無事だっただけも幸せですから」

「ツクヨ……私のお母さんは無事なの? どうせ、現実世界に事後処理にでも行ってきたんでしょ?」

「あかりー、相変わらずツキには冷たいね」


 苦笑気味の心寧を横目に、ツクヨは『君の魔法のおかげで無事だよ』と満星の今がどうなっているかを灯に話していた。


 灯の魔法があったおかげで、魔法による事後処理が星名家の庭内だけで済んだらしく、ツクヨはすぐに戻ってこられたらしい。


 ツクヨから事情を聴いた灯は、安心したように胸を撫で下ろしていた。

 魔法で守ったとはいえ、満星のその後が心配だったのだろう。四人で現実世界を後にしたため、解放者に待ち伏せされている可能性もあったのだから。


 その時、心寧がツクヨの元に近づき、静かながらも穏やかではない様子を見せている。


「ツキ……純人間であるあの子【命の魔法】を使ってたけど、その犯人は見つかったの?」


 心寧の問いに、ツクヨは黙って首を振った。


「心寧、命の魔法ってなんだ?」

「えっと、それは……」

「清、それは俺が後で話す」


 心寧が話ずらそうにしているのを察してか、すかさずカバーを入れる常和は、命の魔法が何を意味しているのか理解しているのだろう。

 清としては、教えてもらえるだけでも嬉しいため、静かにうなずいておく。


 紡が魔法を使わずに互角以上に勝負してきたのを理解できる、というのは知って損はないだろう。

 心寧は悪い雰囲気なのを察してか、小さく手を鳴らした。


「ツキ、二人のケアはうちらがするから、管理者と解放者に動きがあったら伝えに来てよ」

『全く、人使いが荒い子だね。まあ、二人の方が適任だ、私は私のやるべき事を優先させてもらうよ』

「ツクヨ先生、心寧がすまない」


 ツクヨは後ろ向きで手を上げ、瞬く間にぼやけて消えていく。


 心寧がツクヨに別行動をさせたのは、管理者と唯一やり取りしている人材だからだろう。


 清は灯の手当てが終わった後、改めて魔法の庭に目をやる。

 視線は自ずと、現在いる校舎から、校庭を挟んだ木々へと移っていた。

 以前来た魔法の庭は木々が凛と綺麗に生えていたが、今映る光景はいくつか木々が倒れているのだから。


 常和はこちらの視線に気づいてか、そっと口角をあげる。


「あの木か……清達を助けた際に使った魔法の練習をしていた残骸だな」

「まことーにあかりー、あれだよ? 練習していた際のとっきーがね『皆を守るために俺が強くならなきゃいけないんだ』って言って風来剣の練習に力を入れてたんだよー!」

「常和、ありがとう」

「古村さん、私からも改めて……清くんを助けていただき、ありがとうございます」

「ふん、礼なんて言うなよ。……俺はお二人さんに救われたんだ、これくらい当然さ」


 心寧がサラッと暴露したのもあってか、常和は恥ずかしそうにしながらも、あっさりと言い切っている。

 そんな隠れた努力の痕跡に笑みを浮かべれば、心寧は悩んだように口許に指を当てていた。

 また灯もどこか悩みがあるのか、そっと首をかしげている。


「今のところ、解放者の手がかりもないし、この後どうしよー?」

「後一週間ほどの夏休みも過ぎれば、九月ですからね……」


 解放者の強襲があって忘れかけていたが、今は夏休みの真っただ中にいる。

 不安や迷いがあれ、四人での楽しい思い出は作りたいものだろう。


 解放者に動きがあれば、ツクヨが教えに来てくれると思われるため、神経がそこに集中する必要は無いのだから。


 清と常和も、灯と心寧の言葉にふと思いだし、悩むしかなかった。

 小さな風が肌を撫で、近くの草花を鳴らした時、心寧が思い出したように言葉を口にする。


「じゃあ、皆でこの後あそぼっか! もちろん、二人のメンタルケアも含めてね!」


 何故か元気な心寧に、清は口を開けるしかなかった。

 そんな清の様子を見ていた灯と常和から、やっぱり鈍感、といった視線が優しくも飛んできているのだった。

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