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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第四章

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百五十三:君とのおはよう

 小鳥のさえずりが聞こえてくる中、清は目を半開きにし、かすむ視界の中に温かな体温を感じた。

 目の前には透き通る水色の髪が映り、一定の間隔で柔らかな寝息が聞こえてくる。


 そして、自分の腕の中で静かに眠りについている灯の姿を認識した。


(そっか……灯と一緒に寝たんだよな)


 灯は眠りながらも清の腕に頬をすりすりしたり、心地よさそうな表情をしたりして、気持ちよさそうに眠っている。

 男の腕の中ではあるといえ、灯が安心して眠れているのであれば、この上ない幸せの一つを感じさせてくるようだ。


 灯がしっかりとした睡眠を取れていない、というのを聞いていたからこそ、灯が自分の元で眠っているのを嬉しく思えるのだろう。


 灯に手を出す気が無いのに、気づけば、灯の上に置いていた手を頬へと移動させていた。

 灯の頬を撫でれば「ううん」とくすぐったいような声を出し、逆の頬を腕にすりすりしてきている。


 灯の体温はひんやりとしているはずなのに、清の心の内側からは温かであり、燃えゆくような感情が沸き上がっていた。

 清は静かに灯の頬から指を離し、灯を自分の方に抱き寄せる。


 灯の小さな体から感じる温かさを、全て自分のものにするかのように。愛するように。

 大切な人にだけ出来る、自分の持っている愛を、ぎゅっと流し込むようにして。


 灯の体温が心地よいせいか、気づけば清の瞼は再度落ち始め、灯の姿を認識しづらくしてきている。


 清の腕は、灯という名の小さな希望を離したくないとわがままを言うようにして、灯を起こさないようにしてそっと抱きしめた。

 カーテンから薄っすらと差し込む光だけが、灯との今を教えてくるようだ。


(……もう少しだけ、おやすみ)


 気づけば、清は脱力しきり、灯を包み込むようにして意識を水の中に落とした。心の雫が湖に波を打ち、心が満たされる温かさで包まれるかのように。



 二度寝をしてから、何時間ほど寝たのだろうか。

 うやむやとした意識の中、腕の中にある温かさを心地よく感じてしまう。


「……まこ……」


 一人が寂しいなんて、口が裂けても灯に言えたようなものでは無いだろう。

 灯が大好きだという気持ちがずっとあれ、灯にこれ以上弱い自分を見せたくない、と清は思っているのだから。


「……くん……清くん、くすぐったいです」

「あか、り……」

「もう……もう朝ですよ」


 優しく聞こえる声に、重たい瞼をあげ、ゆっくりと光を差し込ませる。

 モヤッとした視界には、薄っすらと頬を赤らめた少女が映りこんでいるようだ。

 清は思わず、その少女を求めるように手を伸ばしていた。


「ふふ、甘えん坊さんな清くん、可愛いですね」


 灯はそう言って、優しく清の手を包み込むようにして握り、自分の方へと手繰り寄せている。そして「私を守ってくれる優しい手」と小さく恥ずかしそうに呟いていた。


 清は、未だに覚醒しない朦朧とした意識なのもあり、灯の声が耳に届いていない。

 視界に映る灯の姿を視認できたとしても、脳が答えを回すのを諦めるかのように、思考を放棄しているのだから。


 灯と掛け布団一枚の同じ布団の中に居る……認識できるのはそれだけだろう。


 包まれた優しい手は、眠った後にも関わらず、睡魔を呼び覚ますような温もりだけを感じとっている。

 灯は清が起きそうで起きない状況を良いことに、清の頬をふにふにしたり、頭をなでなでしたりしていた。


 灯の行動は、ただただ清を三度寝の状況に負いかねない行動だ。


「……くすぐったい……でも、あかりのて、すきだ……」


 心の底から眠たがる自分の心から出た言葉は、目の前にいる彼女に対する本音だった。

 灯は恥ずかしくも嬉しかったのか、薄っすらと頬を赤めながら「しょうがない人ですね」と言って更に優しく撫でている。


 灯の母性という名の愛情に魅了され、高校生であるはずなのに、灯にはどうしても甘えてしまうのだ。

 もう少し灯に甘えたいから寝たふりをしたい、と思ってしまう自分はわがままなのだろうか。


 清はほとんど覚醒しているが、灯に起きていると悟らせない程、瞼をやんわりと上げている状態だ。


 夢の中にも聞こえた灯の声で目を覚ませる自分は、灯に出会うために生まれてきたのだろう。


「清くん、朝ですよ……甘えてないで、いい加減起きてくださいね? 寝たふりバレていますよ?」

「はは、バレてた?」

「バレていましたよ」


 灯は清が目を覚ましている、と理解した上で遊んでいたようで、朝の時間を大事にしてくれたのだろう。

 目を覚ましたとしても、体は謎の気怠さに襲われているらしく、手を伸ばすことしか出来なくなっている。


 気づけば、灯に助けを求めるかのように、自分の手を自ずと灯に伸ばしていた。


「清くん、大丈夫ですか?」

「体……動かない」

「……仕方ないですね」


 灯は柔らかくそう言った瞬間、清の目の前に顔を近づける。そして、そっと清の頬に手を触れさせていた。


 透き通る水色の瞳は、水面すら揺らさずに清を見ている。


 数秒であるこの時を、まるで数十分の時が流れているのではないかと錯覚させてきているようだ。


 温かな温もりが頬に残った時、一瞬だけ唇に柔らかな感触が触れていた。


「……え」


 その一瞬、灯にキスをされたのだと、直感は理解していた。それでも、脳はなにが起きたのか理解したくないようで、硬直するしかなかった。


「ふふ……おはようのキス。やってみたかったのですよね」

「……ありがとう、いい刺激になった」


 気づけば、気怠かった体は灯のキスをトリガーにして、思うように動くようになっていた。


 灯が自分のやってみたかったを優先しようとしたのか、清を救おうとした優しさでとった行動なのか、真実を知るのは灯だけだ。


 清が上半身を起こせば、布団の中に隠れていた灯がネグリジェ姿で露わになる。


「……灯、可愛いな」

「……この姿を触らせたり、見せたりするのは清くんだけですからね」

「うん、知っている」

「もう……馬鹿」


 灯はそう言って、ベッドから降りて床に立つ。


「早く着替えて下に下りましょうか」

「ああ、そうだな……灯」

「どうしました?」

「よく眠れたか?」

「……ええ。清くんのおかげでよく眠れました。ありがとうございます。……大切な人と一緒に寝られてよかったです」

「……こっちこそありがとう」


 世界の垣根を越えても、灯との愛が途切れることは、未来栄光あり得ないだろう。


(俺が灯を手放す時は、人としての終わりを迎える時がいいな。灯の可愛さは、俺が誰よりも知っていて、心から好きなんだから)


 部屋を繋ぐふすまを閉じてから、お互いに着替えを済ませた後、一階へと向かった。大切な彼女の小さな手を取りながら。

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