表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

141/258

百三十五:もう一度帰りたい場所

 お昼休憩となり、清は灯と心寧と共に教室で机を寄せ合い、お昼を食べようとしていた。

 常和に関しては、食堂に行くついでに朝の件も含め、ツクヨの居る職員室に向かったため不在だ。


「清くん、どうぞ」

「灯、いつもありがとう」

「どういたしまして」

「二人は何と言うか……あれだね?」


 心寧がむず痒そうに、それでいてニヤリとした様子でこちらを見てきている。


 首をかしげるとまではいかないが、心寧から見れば灯との距離感に違和感があるのだろうか。


 清は心寧の様子を気にも留めず、笑みを携えたまま、灯の小さな手からお弁当箱の入った包み袋を受け取る。


 そのままお弁当箱を取り出し、蓋を開けた。

 お弁当箱の中には、形の整った綺麗な卵焼きに、焼き鮭、ウインナーと少量のサラダが入っている。また、灯は清の事を考えてか、白米は海苔付きおにぎりになっている。


 栄養バランスが考えられているお弁当の中身に、清は思わず幸せな笑みをこぼした。


 そんな清を、灯はまんざらでもない笑みで見ている。


 夏だねー、と心寧に苦笑されながらぽそりと呟かれ、清は灯と顔を見合わせ頬に赤みを帯びさせた。



 話に花を咲かせつつ雑談をしながら箸を進めていれば、心寧が口許の下に指をあて首をかしげる。


「そういえば……二人は夏休み、何をする気なの? お互いに付き合ったわけだし、多少の変化はあるでしょ?」


 心寧は残り数日で夏休みが控えているのもあってか、疑問そうに聞いてきた。


 急に夏休みと言われ、理解するのが気づけば遅れていた。それは、この学校に長期休みが定められたのは、ツクヨが来た後の話であるのが原因だろう。


 ツクヨが来なければ、夏休みは愚か、現実世界に行った春休みすら訪れない可能性があったのだから。


 清はおにぎりを手に持ちつつ、ふわりと脳裏に思い浮かべる。


「……特にないかな。強いて言えば、暇が合えば常和と遊ぶくらいか?」

「まことー、青春って言葉知ってる? じゃあじゃあ、あかりーの予定は!」


 灯は心寧が勢いのまま振ったのもあってか、ええと、と困惑した様子を見せている。


 灯の場合、こちらと違ってしっかりと計画を立てるタイプの為、頭の中で話す順序でも整理しているのだろう。


「ダメもとではありますが、現実世界にもう一度帰れないか……ツクヨに聞こうとしていました」

「灯、どうしてだ?」


 静かに聞いているつもりだったが、予想外の言葉に清は疑問気に尋ねてしまっていた。


 現実世界、と言っても清からしてみれば良い思い出はなく、ただただ不思議に思ってしまったのだ。


 灯の口からもう一度帰りたい、という言葉を聞くと予想だにしていなかったせいだろう。


 灯は持っていた箸を置き、はあ、と息を吐きだしてからこちらを真剣に見てきている。

 食べていた位置も加味してか、見つめてくる透き通る水色の瞳は鮮やかな光を帯びていた。


「清くん、お母さんに『良い報告を持って絶対に帰る』約束をしたからですよ」


 そう言われ、脳裏は光を生み出すように、別れた日の光景を鮮明に映し出してきた。


 水をあげ忘れていた花が、日光と水を受け、命を再度芽生えるかのように。


 思い出しただけで心が温かくなる優しい記憶に、清は鼻で笑う。


「思い出した……確かにそうだったな」

「そうですよ。ですから、お母さんに清くんと付き合った知らせを直接伝えたくて」


 灯は小さく微笑みをこぼしていた。


 気づけば、灯と一緒に現実世界に帰りたい、と清はしみじみと思い始めていた。

 辛い過去のある実家ではない、自分を温かく出迎えてくれるであろう――帰る場所をくれたあの場所に。


 その時、灯の帰りたい理由を静かに聞いていた心寧が口を開く。


「二人の会話は聞いているだけで温かいねー」


 心寧が恥ずかしげもなく言い切ったのもあってか、灯は目を逸らし、白い頬をうっすらと赤くしていた。


 心寧から、あかりーも反応が素直になったね、と茶化されている。


「安心して……もし許可が下りなかったら、うちらが極秘で現実世界まで運んであげるから!」

「おーい、心寧、現当主とツクヨ先生の中立隠ぺいが大変になるから程々にしろよなー」

「あ、常和」

「古村さん、後処理ご苦労様です」


 声のした方に目をやれば、常和が天ぷらの乗った蕎麦を手に持ち、苦笑しながら近づいてきていた。


 常和はツクヨとの話が終わったのか、教室に戻ってくるなり机を心寧の隣に寄せている。


 表情には薄っすらと疲弊した様子が見えるため、色々言われたのだろう。

 常和の自業自得とはいえ、明日は我が身であるかも知れないため、清は心の中で静かに同情しておく。


「そういや、何を話していたんだ?」

「夏休みの予定を話していたんだよ」

「で、あかりーがまことーを引き連れて現実世界に帰りたいらしいから、もしもの場合はうちが援助してあげる、って話してたの!」

「……清くんと帰りたいのは事実ですが……そう言う心寧さん達は何か予定はあるのですか?」


 灯は小さく本音を呟いていたが、近いこともあり、心寧と常和にしっかりと聞こえていたらしい。


 二人は微笑ましいような視線を飛ばしてきつつも、夏休みの予定を話してくれた。


 常和と心寧は夏休み中、魔法の庭で殆どを過ごす予定らしく、魔法世界に居ない時間が多くなるらしい。


(……思い思いの過ごし方があるんだな)


 しばらく軽く雑談をしながら食べていれば、常和が思い出したように口を開く。


「言われると思うんだけどさ、放課後に清と星名さんでツクヨ先生の部屋に行ってくれないか?」

「……灯も一緒に?」


 首をかしげつつ聞けば、常和も詳細の理由までは聞かされていないらしく「本人に直接聞いてくれ」とのようだ。


「灯もツクヨさんに用事があるし、丁度いいか」

「そうですね」


 ツクヨの用事は予測できていないが、聞きに行く手間が省けると考えれば楽だろう。


 その後、灯が心寧から「夏休みの何処かで水遊びをしよう」という誘いを受けており、清は常和と共に微笑ましい様子で二人を見るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ