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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第三章:record with you

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百三十:気づけなかった自分への痛み

(……本当に、何で気づけなかったんだ)


 屋上での話が終わり、清は食堂で常和とお昼を食べようとしていた。


 灯と心寧に関しては、こちらの気持ちを酌んでか、別々の場所で食べている状態だ。


 好きな人から貰ったお昼の包み袋を前にしているというのに、気持ちは雲渦巻く感情に支配されている。


 屋上では、灯の探させたかった者が分かった後、常和と心寧が姿を現して合流した形となっていた。そして困惑した清の姿を見てか、お昼休憩をしよう、という経緯に至ったのだ。


(先に気持ちを伝えなきゃいけないのは、俺だったはずなのに……)


 灯の気持ちというよりも、好きな人が自分であると気づかなければ駄目だったのだろう。


 自分が鈍感と言われているからを理由に、逃げていい理由があるとは限らない。

 ましてや灯から気持ちを告白してきたのにもかかわらず、動揺で動けなくなり、言葉が上手く出なかったのだから。


 灯としても不本意だったかもしれない、と思うのは野暮というものだろう。


 全ての考察が巡る脳を抑えるように、清は包み袋を開け、自分の為だけに用意されたお昼を取り出した。


 中から姿を見せたのは、灯と二人きりのお昼で初めて食べた、塩の塩梅が清好みのおにぎりだ。


 三つ入っていたおにぎりの一つを手に取れば、隣で先にお昼を食べ進めていた常和が口を開いた。


「清……本人の口から言わせたけど、この後どうする気だ?」

「どうするも……秘密探しを続行できる程の度胸は……」


 思わず暗いトーンで、清は肩を落とすように視線を下に移した。


 常和の言う通り、この後は灯の番であり、自分を探す予定になっている。

 ただ、先に灯から同じ手法で気持ちを鏡に映されたため、悩んでいる状態だ。


 探させるべき本人に迷いが生まれている状態で、灯に全力で楽しんでもらえるかと聞かれれば、否だろう。


 灯だけやらせない、という行動が間違っているとしても、今の清には言葉が浮かんでこなかった。


 その時、肩を落とした清を見ていた常和は、分かりやすい程に深くため息をついてみせる。


「鈍感馬鹿。口悪く言うけど――覚悟はいいか?」


 一瞬で張り詰めた空気に、清は顔を上げ、うなずくしかなかった。


 常和を見れば、真剣にこちらを見てきており、瞳の奥から揺れ動かぬ信念を感じさせてくる。


「現実世界を捨ててまで、魔法世界に本気の覚悟を背負って……好きでもない奴を救いに来る奴がいると本気で思ってんのか?」

「そ、それは……」

「清と星名さんは、確かに幼馴染からの付き合いかもしれないけどさ――」


 そう言って呼吸を整える常和に、清は思わず息を呑み込んだ。


「大切な人、って本人が言ってても、好意がなきゃ……やろうと一緒に過ごしたり、料理を毎日振舞ったり、記憶を思い出させたりしようとしないだろ?」


 常和の言葉は、清の中に足りていなかった、相手を知るというピースを埋めているようだった。


 脳は時が止まった感覚に陥り、今までの全てを記憶が巡りだしている。


 少し前から、灯から目を逸らさないようになっただろう。ただ、それは灯を見ているだけという行為に過ぎなかったのかもしれない。


 どれだけ大切な人を見ていようと、表面上だけを見ているのであれば、咲かぬ気持ちを知れるはずが無いのだから。


 清は確かに、灯という存在は見ていた。だからこそ、日常にある幸せを感じ、楽しく過ごせていたのだ。


 家族との別れを切り出せたのも、灯が居てくれたおかげだろう。


 最後に決めたのが自分であっても……行くまでの道中で支えてくれた者を、亡き者にして得るものは零の境地だけだ。


 ふと今までの全てを見直していたのもあってか、常和が胸に拳を当ててきた時、気持ちはあるべき場所を思い出す。


 常和を見れば、真剣なのに温かな感情を宿していた。


「結局さ……ずっと近くで一緒に居たお前自身が、俺に言われなくても一番知っているんじゃないのか?」

「常和、気づかせてくれてありがとう……頼れる最高の親友で、本当によかった」

「へへ、感謝はやめろ。本当なら清自身が気づかなきゃ駄目なんだからな?」


 常和に再度感謝をし、清はおにぎりを食べ進めた。


 たった一つでも幸せを感じられる、灯の作ってくれた料理の一つを。


 鼻の下を指でこすっている常和は、正々堂々と言うのが気恥ずかしかったのだろう。



 最後のおにぎりを食べていれば、チラリと見てきた常和が何かに気づいたらしく、首をかしげながら口を開く。


「その一番下にあるのはなんだ?」

「……これは」


 敷かれていた経木(きょうぎ)の下に、一枚の紙が目に映る。


 おにぎりを口に放り込み、清は経木を避け、一枚の紙を手に取った。


 紙は綺麗に折りたたまれている。言うならば、手紙に近いだろう。

 手紙に纏わされていた梱包を剥がし、折りたたまれた手紙を開き、清は文字に目を通す。

 柔らかな文字の特徴から、完全に灯の手書きであると確信させられる。


『黒井清くんへ。これを読んでいるということは、屋上で真実を知った後だと思います。清くんが望まない形での告白になってしまったのは、ごめんなさい』


 明らかに未来を見据えて書かれている文章は、清の心を静かに射抜いてきていた。

 灯がどれほどの覚悟を持っていたのか、文脈からでもひしひしと伝わってくるのだから。


『この後、私は清くんに星を見るまで会うことが無いと思います。覚悟が決まったら、魔法のような草原で会いたいです。そして、世界を渡る流星を一緒に見たいと思っています』


 灯の文章はここで終わっていた。


 未来を見据えた手紙に、清は思わず拳を握りしめた。


 本当なら、声を出して叫びたかっただろう。灯の想いに気づけなかった、自分の不甲斐なさを。


 叫びたい気持ちを抑えても、握り締めた拳は今という現実に痛みを教えてくる。


「手紙の内容は知らないけどさ……この後、どうするんだ? 星名さんは、既に心寧の家に居るだろうし」

「……秘密探しを、継続させたい」

「良い覚悟だな。星名さんへの連絡は心寧から通してやるよ」

「それと、ヒントに関して何だけどさ」


 完全に自分勝手である、と清は理解していても、灯の為だけにルールを変えた『秘密探し』の主を常和に伝えた。


 ヒント内容は常和に驚かれたものの、修正をしつつ心寧に連絡を取ってくれている。


 清は連絡を入れ終えた常和から「最後の覚悟を決めろよ」と励ましの言葉をもらうのだった。




 灯に送ったヒントは『同じ(せかい)(もと)で』だ。

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