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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第三章:record with you

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百二十八:響き合う想いは誰の為

 食堂で常和を見送った後、清は次のヒントの紙に手をかけた。

 綺麗に折りたたまれた紙を開けば、先ほどと似たような単語が並んでいる。


 心寧は内容を知っている、というのもあってか、微笑ましいような視線を飛ばしてきていた。

 清はじっとこちらを見てきていた灯に視線を向けてから、文字に目を戻してぽつりと呟く。


「……えっと『接触と共鳴』か」


 ヒントが『接触と共鳴』となれば、心当たりは一つしかない。


 先ほどの感じで行くのなら、接触、という言葉を先に解明した方が良いだろう。


「思い当たる場所は一つくらいだし、とりあえず行くか」

「今回は簡単すぎましたかね?」

「あかりー、答えに導かれなきゃ、難問そのものだよ?」


 心寧が気になる事を言っていたが、一旦思い当たる場所に向かうため、三人は食堂を後にした。

 不思議に首をかしげて悩む清の姿を、灯は小さく微笑みながら見ている。



 思い出を巡る位置となれば、ここしかない、という判断で校庭に出ていた。


 校庭は晴天に輝く太陽の光に照らされており、あの日の天候とは一変を化している。


 灯の透き通る水色のポニーテールが揺れた時、この場で起きた出来事を鮮明に思い出させてくるようだ。


「……ここで初めて、管理者、ツクヨさんを知ったよな」


 校庭で一番鮮明に残っている記憶は、ツクヨとの出会いに、ペア試験で常和と心寧と魔法勝負をした事だろう。

 今思い返せば、ツクヨが灯のお父さんである月夜だとは、あの頃の自分は思ってもなかったことだ。


 秘密探し、というよりも、灯との思い出巡り、と思えてきた清は静かに笑みをこぼす。


 その時、隣で静かに立っていた心寧が前に出て、くるりとこちらへ振り返る。


「あかりーがツキを魔法で狙って、その魔法を止めたまことーが事故るなんて……思いもしなかったよ」

「あの頃の清くんは、星夜の魔法に目覚めていないのに、私の魔法を抑えるために魔力を流してきていましたからね」

「でも……ツクヨさんと出会ったことで、四人が一緒に居られる事実もあるからな」


 思いもよらない出来事ではあったものの、今ではツクヨも仲間のように加わっているため、悪い事では無かったのだろう。


 ペア試験という唐突な行事が無ければ、ツクヨに出会えていなかったのだから。


 また、灯がどれだけの思いを込めて魔法世界に来たのか、それを再認識させられた瞬間でもあった。


 蘇るという名の記憶の旅は、脳裏に優しく語りかけてくるようで、痛みを伴う悲しい過去を消していくようだ。


 ふと気づけば、そっと吹いた風が肌を撫で、ワイシャツの袖をなびかせてきている。


「それよりー、ペア試験での魔法勝負、あかりーとまことーの連携凄かったよね!」

「まあ、灯と何度も合わせて、お互いに信頼していたからな」

「ええ、だからこそ、心寧さんと古村さんの連携を崩せたのですよ」

「あかりー、言うねー! でも、今なら全力で行けるから、負ける気がしないけどね!」


 元気満々で言い切れる心寧に、常和との信頼性の高さを改めて実感させられる。


 ペア戦での魔法勝負は、ぶっつけ本番だったとはいえ、常和が創成魔法にならなければ負けていたのかもしれないのだから。


 常和を清が引き付けなければ、灯は近距離に詰められ、先に魔力シールドを破られていただろう。それは、個々の持つ魔法を理解しているからこそ、予測できると言える。


 ふと鼻で笑えば「何笑っているのですか」と灯に言われ、頬をふにふにと指でつつかれている。


 心寧から微笑ましいという視線が飛んできたところで、校庭には隠されていない、という判断になり歩を進めた。


 接触の次のヒントと言える『共鳴』は校庭の先に思い出があり、地を踏みしめる音が鳴る。



 次に訪れたのは、魔法関連の思い出を生み出し続けた、第二グラウンドだ。


 常和の体慣らしに付き合わされる場所となっており、今ではすっかり見慣れた風景と言える。

 それでも、以前跡形もなく消し飛ばしたため、周囲にはツクヨ特製の魔法制御装置がいくつか設置されるようになっていた。


 第二グラウンドで遠慮なく魔法を使えるように、というツクヨの粋な計らいらしい。


 三人でグラウンドに足を踏み入れ、清は先に前へと出る。そして、静かに手を伸ばして掴む仕草をした。


「ここで……灯と魔法勝負して、共鳴魔法の星座(レゾナンス)を使えるようにした思い出の場所の一つだよな」

「二人の魔法勝負は見てたけど、あの共鳴魔法が生まれた場所ねー」


 そう言ってしみじみとした様子でうなずいている心寧は、共鳴魔法に興味を示していた為、考え深いところがあるのだろう。


「まあ、今だとお互いの負担も考えて、レゾナンスは使いづらい魔法になっちゃいましたけどね」

「二人共、お互いを思いやる気持ちが信頼と安心のある優しさみたいだね」

「灯のおかげだな」


 灯に魔法世界で会っていなければ、口が悪いままの状態だっただろう。

 清自身、灯と関わって言葉が丸くなった、という自覚があるため偉く言えるような口ではない。


「……ここで、灯との距離が近づき始めたよな。手を握ったり、届かせようとしたり」

「……清くん、私の隠したものが見つかりましたか?」

「え、いや、まだわかってない。近くはなったよな、って浸っていただけだ」

「そう……ですか」


 なぜか灯がしょげたような表情をしているため、こちらとしては困惑してしまう。

 分かっていないのは事実であり、もの、となるような形は見当たらないのだから。


 気づけば、隣で聞いていた心寧ですら呆れたような視線を飛ばしてきており、気が引けてしまう。


(……というか、今まで辿ってきた場所の話……全て灯の目線だよな?)


 話す思い出は自分の視点となっていたが、灯や心寧から話された内容は、全て灯の目線となっている。


 導き出せそうで導き出せない答えに、清は苦虫を噛み潰したような表情をするしかなかった。


 悩んでいれば「これが最後のヒントだよ」と心寧が紙を差し出してきている。


 ありがとう、と感謝を述べつつ紙を受け取った。


「じゃあ、うちはとっきーの様子を見てくるから、後は頑張ってね!」

「え、おい……相変わらず行動が早いな」


 心寧は言葉を口にした瞬間、魔法を使って地を蹴り、飛ぶように校舎の方へと戻っていったのだから。

 彼女は制服でスカートを履いている、という自覚を持ってほしいが、色々と対策済みなのだろう。


 常和も苦労人だな、と思う反面、気づけば灯と二人きりになっていた。

 ルール上、問題提供者も共に行動しておかしくはない筈だが、二人きりになるとは思わないだろう。


 ましてや、その相手がこの後に探してもらいたい、と想いを重ねている少女なのだから。


 清が困惑しながら息を吐いて肩を落とせば、灯はその様子を見て苦笑している。


「お二人に気を使われているみたいですね」

「とりあえず、次のヒントを見てみるかー」


 そう言って、清は綺麗に折りたたまれたヒントの書かれた紙を開く。


 ヒントの内容を見て、これ程までに明確な示す位置があるか、と瞬時に思わされた。


「……二人きりのお昼」


 小さく呟いた清を、灯は小さく微笑みながら見ていた。

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