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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第三章:record with you

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百二十七:行く先は、始まりと心配

 あれから数時間後に心寧の番が終わり、清の番が近づいてきていた。


 現在は校門前におり、常和と心寧と共に話をしている。

 心寧は常和が隠したもの、花型のビーズの髪飾りを身に着けてウキウキした様子だ。

 そして、ニヤリとした笑みでこちらを見てきている。


「次まことーの番だね! 今の心境をどうぞー」

「心寧、あまり清を刺激するなよ。問題提供者の俺ですら、星名さんの隠したものを教えてもらってないんだからな」

「常和が教えてもらえてないのか?」

「教えてないよー」


 省かれている、というよりも、常和が気を効かせて深入りしてないが正しいのだろう。

 また肝心の灯は、こちらの探すものを隠すため、この場に居合わせていない。


 心寧しか知らない状態である灯の隠しものに、清は不思議と首をかしげていた。


 清としては、灯の隠したものは必ず見つけると約束をしているため、どんな形でも手を伸ばす気でいる。


 どんな感じになるか、という話をしていれば、透き通る水色の髪と瞳を持った少女――灯が戻ってきていた。

 灯はこちらの姿を視認してか、早足で駆け寄ってきている。


「おまたせしました」

「灯、準備お疲れ」

「ふふ、清くん、これが最初のヒントです」


 灯はそう言って、ヒントの書かれた紙を手渡してきていた。

 小さな手からそっと受け取り、折りたたまれた紙を開いてみせる。


 書かれていた文字に、清は思わず「ほー」と声を漏らしていた。


「『始まりと心配』……か」

「わかりますか?」

「あかりーも何かと罪だね?」

「しおんー、俺だけにでも答えを教えてくれよー」


 常和は抑えきれなくなったようで、心寧が「しょうがないなー」と言って、こちらに聞こえない程度の位置で教えてもらっているようだ。


 始まりと心配、というのが何を意味しているのかは、灯から聞いていたヒントと照らし合わせた方が良いのだろう。


 悩みつつも、過去を巡るように思い出せば、清は始まりの位置をある程度予測できた。


 灯の言っていた通りであれば、ヒントの単語を巡った先に答えがあると思われるため、一回で答えに辿り着くのは不可能だろう。


 始まりだと思う位置に移動するため「とりあえず行ってみるか」と清が笑みで言えば、灯は嬉しそうにうなずいている。


 常和と心寧にも呼びかけ、四人で校門前を後にした。



 始まりと思われる場所、自分たちの教室へと訪れていた。


(……本当の始まりはあそこだけど、学校での始まりは此処しかないよな)


 新学年で教室は移動となっているが、始まりの節は此処しかない、と思っている。

 綺麗に並べられた四つの机に椅子。一つの関わりが無ければ、今頃はこれ以上の数があっただろう。


「始まり……心寧の失敗から、灯が同じクラスに合流したよな」

「ええ、あの時に心寧さんの連帯責任にならなければ、清くんに学校で近づけませんでしたからね」

「今だから言えるけどー、星の魔石を一緒にする目的があったからね」

「お二人さん……美咲家現当主とツクヨ先生の命令だから、許してやってくれ」

「許すも何も、俺は灯と一緒に居られる今が嬉しいから、気にしてないけどな」

「過去は過去、一つ一つの積み重ねも、いずれは輝きますからね」


 今思い返せば、初めに心寧に突き飛ばされ、灯が魔法で救ってくれたのも、良い思い出の一つだろう。

 あの頃の灯を知らなかった自分からすれば、関わり自体が驚きだったのかもしれない。


 心寧からサラッと白状されたが、気にする気もなければ、逆に感謝しかないだろう。

 灯と一緒にならなければ、一つ目の記憶のカケラでさえ、存在を知れなかった時間軸もあるのだから。


「でもさ、四人で一緒に続く、とまでは思ってなかったんだよな」

「まあ、お互いって言うよりも、俺が心寧を少し避けていたからな」

「え、何それ酷い!?」

「……清くんらしいですね」

「あかりーまで!?」


 お互いに何気ない告白であるものの、笑って許せる仲にまで成長したのは、数少ない大切な幸せなのだろう。


 灯曰く「教室には隠していないです」とのことなので、清は心配に当たるものを思い出そうとしていた。


 心配に当たるもの、となった時、清の脳裏に薄っすらとツクヨの面影が姿を見せる。

 そして、下を見ていた顔を上げ「あ」と声を鳴らす。


 三人から、次の移動場所は決まったみたい、となり移動することにした。



 四人は心配に当たると思われる場所……食堂へと足を踏み入れていた。


 今では灯がお弁当を作ってくれるため、常和の学食ついでにしか来ることがない場所の一つだ。


「食堂ではさ……心寧が灯に迫って常和がお灸をすえたり、刺客との争いがあったりしたよな」


 今では見ること無いが、心寧の急激な性格変化、ともいえる様子は驚きでしかなかっただろう。


 教室でツクヨの事を思い出したのは、ツクヨが刺客を創り出していた張本人だからだ。

 教室で刺客と争った後、一緒に食堂に来ていた常和が離れた瞬間、魔法で強襲されたのだから。


「うちのことは良いとしてー」

「心寧、俺に本気で怒られるのは二度目だったもんな」

「刺客……今ではツクヨの操り人形。大変でしたよね……当初の私には秘密にされていましたけどね」

「灯、もしかして根に持っているのか?」


 と聞けば、持っていませんよ、と灯は笑みを携えて言っていた。

 心寧が常和の話から集中を逸らすように、手を叩いて小さく音を立てる。


 常和から怒られたことを思い出したくない、という心寧の思いを感じたため、清は聞き耳を立てた。


「あれだよー? 刺客がまことーを襲った時、展開された空間魔法であかりーが一番心配してたんだよー」

失われた魔法(ロストオブマジック)――皮肉の策とは言え、傷つけないようにするにも、範囲を広げる必要があったからな」

「でも……そのおかげで、清くんは記憶を失っていても、魔法を憎んでいても、優しい救いがあると理解できましたから」


 小さく微笑みながら言う灯に、気持ちが突っつかれるようで恥ずかしくなり、視線を逸らすしかなかった。


 その後、食堂には無いとなり、常和から次のヒントが手渡される。


「……俺はお二人さんが、辿り着く場所に先に行くから、後は頑張ってくれよ!」

「え……常和は一緒に辿らないのか?」

「清、風のように見守っているからな」

「……わかった。常和、探しだして見せるから」


 常和から向けられた真剣な視線は、言葉を交わす必要が無い、と言えるほど気持ちがこもっていた。

 再度心の中で決意を固め、ゆっくりと息を吐きだす。


 息を吐き出せば「頑張れよ」の言葉と共に、常和は肩に手を置いてきていた。


 多分、常和は灯の隠したものが分かったからこそ、察したような立ち振る舞いをしているのだろう。


(……このヒントの先に、なにがあるんだ)


 食堂を後にする常和の背を、清は静かに見守った。

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