百二十六:秘密探し開幕
秘密探し当日、曇りなき青空が広がり、鮮やかな光が世界を照らしている。
そんな晴天の中、四人は学校で合流し、絶え間ない笑みを宿していた。
世界を渡る流星が休みの日と被っていたのもあり、校内に他の学生の姿は見当たらない。
心寧は誰よりも楽しみにしていたのか、ツクヨの開始の声がかかると同時に、常和の探すものを隠しに行っている。
またツクヨも、探すものの安全を考慮し、陰ながら見守るように心寧の後を追って行った。
教室に残った灯と常和と一緒に、清は秘密探しの全貌を再度確認し終えた後だ。
探す順番は、常和、心寧、清、灯といった感じになっている。そのため、三番手に灯の隠すものを探した後、灯に清の気持ちを探してもらえる形のようだ。
朝からテンションが高めな雰囲気なのもあり、世界を渡る流星を見る頃には疲弊してしまうのではないか、と清は思ってしまう。
清としては、秘密探しで灯の隠すものを探すのも楽しみだが、想いを伝えた後に見る星の世界を堪能したいと思っている方だ。
首を長くして心寧の帰りを待っている常和を横目に、清は机にもたれかかりながら口を開く。
「心寧、楽しそうだな」
「行事類は誰よりも率先して楽しそうにこなすからな……」
「……ああ、過去は一人だったんだよな」
「清があまり気にするなよ? 俺と心寧は今が楽しいんだから!」
と、明るい笑みを浮かべる常和は、過去は過去と割り切っているのだろう。
話を聞いている限り、二人はお互いに支えてきたからこそ、今を受け止めて立っているのかもしれない。
ふと気づけば、灯が清の隣に立ち、こっそりと顔を覗かせて聞いている。
「心寧さんが率先してくれたからこそ、こうやって楽しくできているのですよ」
「星名さんの言う通りだな!」
「心寧には感謝しかないな」
「感謝を忘れない清くん、素敵です」
灯との会話を聞いていた常和はむず痒そうに、苦笑して表情を誤魔化していた。
俺を焼け野原にするなよ、と注意してくるほどだ。
灯との何気ない会話であるが、常和からしてみれば毒だったのだろう。
灯がうっすらと頬を赤くした時、教室のドアが勢いよく音を立てる。
音鳴る方向を見てみれば、特徴的なビーズの髪飾りを付けた少女……心寧が嬉しそうに常和へと近づいてきていた。
「おまたせー! 準備できたよー!」
「心寧お疲れ、偉いぞー」
「えへへ」
さらっと目の前でイチャつける二人は、通称バカップルとでも言うのだろうか。
常和が心寧の頭を撫でている際に、心寧はちゃっかりとヒントの紙を渡していた。
イチャついていたとしても、やる事に抜け目ないのは流石だろう。
初陣は常和になるため、こちらの番になった際の見本と言える。
「ヒントをもらったし、読み上げるかー」
「早くやろうやろう!」
常和は急かす心寧の言葉にも慌てず、ヒントの書かれた紙を開いていく。
「ヒント内容は……『ヒント―』って書いてあるな!」
「……ヒントってどういう意味だ?」
「清、ヒントはヒントだ……最後が伸びてるから、風の向くままに的な感じだろ」
「さあ、どうだろうね?」
「俺と灯はついて行けそうにないな……」
「清くん、今は二人の番ですし、二人が分かればそれでよいかと」
「それもそうだな」
「とっきーは察しが良すぎるから、変にヒント出しすぎると最速で終わるからね」
「俺の風魔法のようにな」
最後に星が付いていそうな常和の発言に、三人は笑いをこぼした。
常和が「とりあえず感覚で探すか」と言った為、四人で教室を後にする。その際、二人一組のようにペア同士で自然と手を繋いでいた。
数十分後、常和は二つ目のヒントを得て、ようやっと心寧が隠した場所までたどり着いていた。
清は問題提供者であり、事前に心寧の隠すものと位置を知っており、本当にヒントだけで探し当てる常和には驚かされている。
一枚目の追加ヒントが『あっちこっちー』となっており、二枚目が『鬼さん音の鳴る方へ』なのだから。
心寧が隠したのは体育館の中央で、心寧お手製の箱で空間が軽く歪んでいた。
常和は箱を手にし、疲れたように息を吐きだしていた。
「心寧、やっと見つけたぜ」
「あーあー、ばれちゃったー」
「常和、よくあのヒントで見つけ出せたな……」
「心寧さんのヒント、もはやヒントなのか疑問でしたからね」
「あかりーが言う?」
「はは、二人とも落ちつけって。今までのヒントは、魔法の庭で過ごした箇所になってるんだよ」
「過去となれば、俺と灯が分かるはずもないな」
常和は「そういうこと」と言いながら箱に手をかけていた。
ふと気づけば、ツクヨも近づいてきており、本当に遠くから見守ってくれていたのだろう。
常和は開けた箱の中身を覗き、口角をあげた。箱の中に手を入れ、こちらにも見えるように掲げて見せる。
心寧が常和に探させたものは『一日中一緒に過ごせる券』と書かれた紙だ。
「心寧、見つけたぜ」
「とっきーおめでとう! あ、その券は高校卒業したら永続だからね」
「当たり前だな」
そう言って、常和は目の前で、心寧を後ろからぎゅっと抱きしめてみせる。
目の前でナチュラルにイチャつかれたのもあり「ええ!?」と灯が声を漏らすほどだ。
普段なら心寧から常和にイチャつく様子が多いため、常和からという予想外の行動に動揺したのだろう。
常和の腕は心寧のふくらみの近くにあり、また何か言いたそうな目でこちらを見てきている。
「清……恋人同士だから、柔らかさを堪能できるんだぜ」
「恋人ってそういうものなのか?」
高らかに自慢げにする常和に、流石にため息をつくしかなかった。
明るく自慢する常和を注意するかのように、心寧がぺちぺちと常和の腕を叩いている。しかし、嫌な顔は一切していない。
「とっきー、あかりーに失礼だよ」
「心寧さん……どういう意味で?」
「まことーがあかりーを抱きしめられない、って意味で言ったんだけど、期待しちゃった?」
「分かりました、後で詳しくお話ししましょうか」
「ええ、今回はあかりーの自滅でしょー」
清が二人の会話を止めず苦笑していれば「笑ってないで止めてくださいよ」と言いながら、灯は呆れたような視線を送ってきていた。
灯は灯のままでいいんだ、と言って頭を撫でて宥めれば、灯はとろけたように表情を緩める。
「……あれだけやってて気づかないのがおかしいんだよなー」
「まことーはナチュラル鈍感だからねー」




