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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第三章:record with you

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百二十一:見つかっている探しもの

 清は学校から出た後、その足で常和と共に、灯から頼まれた買い出しを先にしていた。

 普段は、気づけば灯が買い出しも全て行っており、こちらに買い出しを頼んでくるのは無いと言える。


 だからこそ、灯から買い出しを頼まれたという事実が嬉しく、紙を見ては品物をかごに入れていた。

 食品類のお店に行かないのもあってか、常和からは微笑ましいような目で見られている。


 一人でもお買い物ができていた、と常和から灯に話しを回されれば、迷いなく褒められるのだろう。


「つーか、星名さんと清は付き合ってないにしても……買い出しを迷いなく頼まれるって、夫婦みたいだな」

「常和にはそう見られているんだな?」


 夫婦と言われたのに驚きはありつつも、疑問の方が勝ち、清はぽかんとしたように首をかしげた。

 灯との仲が良いのは確かだが、夫婦かと問われれば、間違いなく否だろう。

 今のところ、こちらが灯の事を片思い状態の好きであり、灯が好きな相手は知らないのだから。


「はは、一応言っておくけどさ……それで付き合っていないを信じる方が難しい話だからな?」

「灯とは幼い頃からの付き合いだし、それが影響しているのかな……」

「もどかしい二人を見てると、こっちが先に焼けちまいそうだ」


 常和の苦笑している理由が理解できず、清は首を更にかしげるしかなかった。

 それでも手は止めないようにしつつ、紙に目を通しながら、かごには頼まれた品物が入っていく。


 買い物が終わり、清達は店内にあるこじんまりとした飲食スペースへ足を運んでいた。

 常和に頼まれた飲み物を差し出せば、常和は渋々とした様子で清の手から受け取っている。


 常和から飲み物は断られたが、相談に乗ってもらう時間等も含め、清は少しながらのお気持ちを返したかったのだ。


(……この世界での出会いも、今は大切な宝石だからな)


 清はそう思った自分に鼻で笑うのとは裏腹に、真剣に常和の方を見た。

 飲み物を口に含んでいた常和も変化に気づいたらしく、カップをテーブルに置いた後、目線だけでその場の雰囲気を変える。


「常和……やる事と決まるであろう、探しもので協力して欲しいんだ」


 常和は首をかしげ、手を顎に当てている。

 直球に言いすぎたのもあり、協力して欲しい内容を抜いてしまったせいだろう。


「ほう、俺は何を手伝えばいいんだ?」

「心寧に話してもいいから……灯の探しものを、俺自身にしてほしいんだ」


 常和は清に真剣に見つめられ、懸命に頼まれたせいか、むず痒そうに苦笑いしている。

 苦笑してはいるものの、常和の瞳は揺らがぬ形を保ち、真剣に考えてくれているようだ。

 そして苦笑が笑いに変わる頃、常和は飲み物を口に含む。


「清、いくらなんでも星名さんの探しものを自分、って直球すぎないか?」

「それは分かっている……けど」

「けど?」


 自分自身では理解しているはずの言葉を、今の清の口からはすぐに出せなかった。

 不安とか変わってしまうではない、足りないものを感じたからだ。


 口で言うのは簡単だが、実行に移すために親友を巻き込んでしまう、という代償を軽く見積もっていたせいだろう。

 清としては、今のままでは灯に一歩及ばず言葉を伝えられない、と思う焦りのあまり、周囲を見ていなかったからだ。


 このまま話してしまってもいいのか、と心が慎むような言動を投げかけてこようとした――その時だった。


(……常和)


 彼は清の肩に、何も言わず手を置き、ただ静かにうなずいてみせる。

 慌てている清の気持ちを落ちつかせ、伝えたい言葉を口にしてくれと言わんばかりに。


 ふと常和の表情を見れば、ただうなずいてくれるだけでも、心からの安心感がある。

 この世界に来て独りぼっちだった清に、ただ一人話しかけてくれた、最高の親友だから。


 清が軽く息を吸い込めば、常和はいつものように笑みを浮かべる。

 覚悟を決めて、何気ない日常に潜む大切な宝物を見るように、常和の目を真剣に見つめた。


「記憶を失っていた時でもずっと支えてくれた灯に――本当の想いを伝えたいから」

「はは……似た者同士だな」


 常和は、清が覚悟の籠った瞳で見ていたのもあってか「わかったわかった」と言って軽く指を鳴らした。


 鳴らされた指の音で魔法が解けるように、清はふと我に返る。

 常和は先ほどの空気を一変させ、こちらを和やかな視線で見てきていた。


「清のその覚悟が本当かどうかは理解しているさ」

「それはどうも」

「ルールが完全に決まったら、心寧にも話を通して出来る範囲で動かしてやるよ」

「常和……ありがとう」


 最高の親友だから同然だ、と言いたそうな常和は、本当は誰よりも四人の仲を心配しているのだろう。

 やる事が決まっただけであり、ルールまでが明確化されていないのは常和の言う通りのため、協力してもらえる事実だけが清は嬉しかった。


「じゃあ、俺からも清に代わりと言っちゃなんだが、この約束を引き受けてくれないか?」

「約束?」


 不思議と復唱すれば、常和は手招きをしていた。

 常和の方に耳を傾ければ、小さな声で約束の内容が提示されたのだ。

 約束の内容に、清は思わず固まってしまう。


 まるで未来を見据えているような内容であり、常和は本当に心寧思いだな、と改めて思わされる。


 灯との間にある足りない何かを、常和や心寧なら知っているのだろう。

 答えを聞きたいと思っても、その答えを探すのは、紛れもない自分自身だ。

 灯を思う気持ちは誰よりも強く、一番理解しているのも清なのだから。


 約束の内容にうなずいた後、常和にある程度の予定を清は聞かれるのだった。



 空がオレンジ色と黒色で交じり合い始めた時、清は帰宅していた。

 玄関のドアに手をかけ、空気を持つように優しく開ける。すると、玄関に見慣れた靴が綺麗に置かれていた。


「灯、ただいま」


 帰宅の言葉を口にすれば、リビングの方から透き通る水色の髪が姿を見せる。

 透き通る水色の瞳を輝かせ、白色のエプロンを揺らしながら、灯が笑顔で出迎えに来たのだ。


「清くん、おかえりなさい」

「た、ただいま」


 普段は意識していなかった灯のエプロン姿を、この時だけは妙に意識してしまい、清は顔を赤くしていった。

 清の手から手際よく買い物袋を取っていた灯は、気が抜けたように棒立ちしている清の変化に気づいたらしく、目を丸くして首をかしげている。


「どうかしましたか?」

「え、あ、ごめん……灯のエプロン姿をちゃんと見たことが無かったから、動揺していた」

「に、似合っていませんでしたか……」

「いや、すごく似合っているよ! ……灯が可愛くない理由はないだろ」


 思わず本音をこぼしたせいか、灯は頬をわかりやすく赤らめていた。

 少しの沈黙の間が訪れ、どうしようかと悩んだ時、灯は静かに買い物袋を床に置いている。


 そして、瞬きのする間もなく、なめらかでさらさらした髪が肌を優しく撫でた。


 考える必要が無い程、灯が率直に抱きしめてきていた。

 強くも弱くもない加減で抱きしめられ、肩に乗るような灯の背伸びから来る柔らかさは、むず痒さを感じさせてくる。


 思わず抱きしめ返したくなったが、清はその手を止めるしかなかった。

 それでも、片手だけはそっと、肩に頭を乗せている灯の髪を静かに撫でる。


「清くん……今だけは堪能していいですよ」

「馬鹿……ズルすぎだろ。でも、ありがとう」


 耳元で小さく囁く小悪魔は、どこか嬉しそうな表情をしており、逆に本人が一番堪能していそうだ。

 清も灯の柔らかさを堪能しているので、何も言わずに受け入れておいた。


 灯は数分程抱きしめて満足したのか、静かに腕を離す。


「ご飯の準備はもうそろそろ終わりますから……片づけと手洗いを忘れないように」

「分かっているよ」


 買い物袋を持って、嬉しそうにしながらリビングに戻っていく灯を、清は静かに眺めた。

 首を小さく横に振った後、靴を脱いで揃えつつ、清は一つの電気が灯る玄関の天井を見た。


「……俺の探しものはとっくに見つかっているんだよな」

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