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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第三章:record with you

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百十四:君との間にある壁

 翌日、清は自室でテスト勉強をしていた。

 灯とは昨日話した通り、お互いに個人で勉強をすることになっていた為、朝ご飯を一緒に食べてから解散している。


 勉強机に置かれた教科書や、灯から借りている参考書と向き合っているが、清はどうも落ちつかなかった。

 灯から言われた『清くんを支えるためですから』という言葉が未だに脳内に残っているのだ。


 考えすぎは良くない、と理解していていても、気を抜けばすぐに頭の中に浮かんできている。


 清は椅子の背もたれに寄り掛かり、天井を見ながら、手を上にして持っていた黄色のボールペンを眺めていた。


(灯からこの世界で、初めてもらった宝物だよな)


 ふとそんな事を思った自分に、清は鼻で軽く笑った。

 思い出に浸るよりも、今も近くに灯という大切な人が居るのだから。

 壁に挟まれていようが、同じ空間に存在している、という事実に変わりないだろう。


 清は首を軽く横に振り、再度教科書などと向き合った。

 灯に言われた言葉を自分の中から追い出すように、息を吐いて一つに集中する。


 雑念として追い出し、今あるべき壁を超えるために。


 ページをめくりゆく音と、ボールペンと紙の擦れる音が協和音となり、静かな部屋に旋律を奏でる。


 集中していたのが功を奏したのか、近くにあった時計に目をやれば、針はお昼が少し過ぎたくらいを刺していた。


「……疲れた」


 少しの雑念があったとはいえ、疲れを実感できる努力は良いものだろう。

 ふと腕を上に伸ばした時、目の前の視界が温かな声と感触と共に暗闇に染まる。


「だーれだ?」

「灯」

「正解です」


 そう言って灯が手を離せば、視界には光が差し込んでくる。

 後ろを振り返れば、エプロンを着用した灯が立っており、頬を薄っすらと赤くしていた。


「お昼を作ったので呼びに来ました」

「ああ、いつもすまない。ちょうどキリも良かったし助かる」

「ふふ、じゃあ、行きましょう」

「そうだな」


 灯は部屋に入ったのが恥ずかしかった、というよりも、目を隠して驚かせようとしたのが原因だろう。

 誰かを故意的に驚かせるのが苦手らしく、こちらに仕掛けた灯自身が動揺しているようだ。


 リビングに下りれば、テーブルにはオムライスが並べられており、優しい香りが鼻を刺激してくる。

 いつものように、灯と相向かいで椅子に座り、互いに姿勢を正す。


「いただきます」

「いただきます」


 食に感謝を込め、清はスプーンでオムライスを食べ進めていった。

 また、美味しく食べる清の様子を、灯は微笑ましそうに頬を緩めて見ていた。



 お昼を食べ終えた後、灯と一緒にソファ前にあるテーブルに集合している。

 食べている最中に『午後は一緒に勉強しませんか』と灯に誘われて、今に至る形だ。


 お互いに勉強は出来る方だとしても、清がつまずかないように、という最終的な地固めに近いだろう。


「清くん、どこか不安なところとかありますか?」

「……ここを詳しく知りたいかな」

「そこですね、えっと……」


 知りたい場所を指で指し示せば、灯は自身のノートを開き、まとめているページを見せながら説明をしてくれている。

 清としては、灯の説明はいつ聞いても理解しやすいため、天からの恵みと思えてしまう。


 また、先ほどはエプロンをしていて気づかなかったが、灯は現在パーカーを着たシンプルな服装だ。そのため、目のやり場に困らないのは救いだろう。


 灯を不埒な目で見ているわけではなく、心臓の負荷を考えて、の意味合いが大きい。


 お互いに得意な範囲や苦手な範囲を教え合っていれば、気づけば数時間は過ぎていた。


「時間も良いですし、一旦休憩でも挟みますか?」

「三時だし、休むのには丁度いいか」


 灯が「そうですね」と言えば、その場から静かに立ち上がり、キッチンの方へと歩いていく。


 清も灯を手伝おうと思い、灯の後に続いた。


 お茶と軽くつまめる茶菓子を用意してから、お互いにソファに着いた。


 お茶を飲んで一息つけば、灯がこちらをじっと見てきている。


「灯、どうしたんだ?」

「あ、いえ……清くんの全体の順位が高かったら、ご褒美の質を上げようかな、と思いまして」

「ご褒美の質を上げる、って……」


 心臓は鼓動を速く打ち、清は息を呑み込んだ。


 以前のご褒美だけでも清はだいぶ追いつめられており、それよりも上となれば耐えられる自信は無いだろう。


「その順位って……誰基準だよ?」

「私の思う基準です。まあ、今の清くんなら、へましない限り心寧さんの下には付けますよ?」

「灯の下じゃないんだな」

「心寧さんは、私から見ても強敵ではありますから」


 灯が保険をかけているのは、心寧が難関の壁になる、と予測しているからだろう。

 現に前回のテストでは、灯と心寧が同率で一位となっており、清は手が届いていないのだから。


 それでも、今回のテストはツクヨが作っているわけではないため、努力が結果を生むと理解しているからだろう。


 手を抜こうと微塵も思っていなければ、あわよくば灯を抜かす気でいる。


「俺は今を頑張っていきたいし、灯にも手を伸ばして見せるからな」

「ふふ、楽しみにしていますね」


 灯は余裕そうな笑みを浮かべ、幸せそうにお茶を飲んでいた。

 いずれ思いを伝える、という遠回しの言葉は、恐らく灯に伝わっていないだろう。


 ふと気づけば、灯が片方の手で清の手のひらを包み込み、指を絡めてきていた。

 灯は知らないふりをしているが、赤くなった頬が真実を物語っている。


「そういや……灯が俺の時間を欲しい、って言った時点で、俺は二回ご褒美をもらえるよな」

「ば、馬鹿! サラッと言わないでくださいよ……もー」


 清は「はいはい」と言って灯を宥めた。


 灯のご褒美は清のご褒美であり、拒否する気は一切ない。お互いに幸せであれば、それで十分だから。


「休憩済んだら、ここ教えてくれないか?」

「ふふ、しょうがない人ですね」


 小さく笑みをこぼす灯は、見ていて心が和らぐようだった。

 一人で勉強するよりも、灯と楽しく勉強して、一緒に居られる今が幸せだからだろう。

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