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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第三章:record with you

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百十:ねだるは形の無いご褒美

 その日の夜、清は目をつむってソファに座っていた。

 小さな足音が近づいてきて、ゆっくりと目を開ければ、目の前のテーブルに灯がマグカップを置いていた。

 ショッピングモールでお揃いにして買った、星が控えめにデザインされたマグカップだ。


「今日はアイスティーにしてみました」

「灯、いつもありがとう」


 灯は小さく微笑むと、隣にふわりと腰を下ろした。

 軽く浮かび上がった透き通る水色の髪がくすぐったく肌を撫でてきた為、灯との近さを実感させてくる。


 清はアイスティーを口に少し含んだ後、灯の方を見た。


「そう言えば、次の休みの日に勉強会になったよな」

「まあ、休み明けが試験当日になりますし、ちょうどいい機会かと」


 魔法科目は一週間の間で行われるらしいが、今週で全てが決まるのだろう。

 常和に聞いたところ、心寧が試合をしている裏で常和は三位に浮上したらしく、実質一位は獲得したらしい。


 あっさりと上位に上がっているのは、流石常和と言ったところだろう。


 そのため、心配事が無くなったのもあってか、食べた後の帰り道に心寧から提案されたのだ。

 清と灯が断る理由はなく、次の休日に清の家集合となっている。


「……勉強頑張るか」

「やけにやる気ですね」

「まあな。灯に近づきたいと思っているからな」


 そう言えば、灯は「私も負けませんよ」と何故か火を燃やしている。


 勉強能力では灯が上なのは目に見えているが、前回よりも清は努力をしてきており、灯に負けていられないのだ。

 灯の隣に立っていたい、小さな一歩ずつの思いを胸に。


(灯に思いを伝えるの……いつにしようか)


 清がふと悩んでいれば、灯は不思議そうに首をかしげていた。


「清くん、今回のご褒美はどうしますか?」

「え?」

「ですから……ご褒美をその、あげたいなと」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ」


 清は思わず言葉を漏らした。

 灯からのご褒美をもらえるのは嬉しいが、以前のだけでもだいぶ清は心臓が追いつめられたのだ。


 悩んだ様子を見せている間、灯は透き通る水色の瞳を輝かせてこちらを見ている。

 要求を断った場合、灯が引き下がる様子を見せるとは思えないだろう。


 もらいっぱなしであるため、清としては心苦しかった。


「じゃあ……灯のお任せでいいよ」

「ふふ、順位関係なくしてあげます」


 灯が嬉しそうに微笑んでいる為、清は何も言う気力が起きなかった。というよりも、嬉しそうにしている灯の笑みを見ていたいが本音だろう。


 微笑みは柔らかく、何でも受け入れてくれそうで怖くなってしまう。

 順位関係なく、と言った時点で、灯は元からご褒美をあげる気だったのだろうか。


 清はそんな灯の笑みに照れつつ、ゆっくりと息を吐いた。


「灯は、ご褒美は何が良いんだ?」

「え、私ですか……欲張りですよ……」

「欲張りでも構わない。聞きたいと思ってさ」

「私の欲しいご褒美は……」

「ご褒美は?」

「まこ……がほし……」

「何て言ったんだ?」


 小さく呟かれた言葉が聞き取れず、聞き返せば「この鈍感!」と何故か理不尽に清は怒られた。

 怒ってはいないが、灯は明らかに不服そうにしている。


 灯に手を出していないため、何が何だか理解できず、清は頬を引きずるしかなかった。

 苦笑いしながら、灯のマグカップを目の前に取ってあげれば、許しを乞うてくれたようだ。


 灯はアイスティーを小さく飲んでおり、その仕草もかわいく思えてしまう。


「その……」

「ああ」

「出来るなら、ご褒美は清くんの時間が少し欲しいです」


 そう言って透き通る水色の瞳で見てくる灯は、清の心臓を揺さぶるように強く打ってくる。


 好きな人から時間が欲しいとせがまれて、断る理由はどこにあるのだろうか。

 恥ずかしそうにうるっとした瞳が、更に脳への刺激を強めてきている。

 清は気おされかけているが、自制は保てていた。また、灯の笑顔が見たいと思える気持ちは一途のままだ。


「分かった……そのご褒美叶えてやる」

「ふふ、嬉しいです」

「灯の笑顔が見られるのなら、俺はなんだってしてやる」

「ま、清くん……そうやってさらっと言うのは禁止です」


 灯の頬はゆっくりと赤みを帯びていき、こちらから視線を逸らしていた。

 清からしてみれば、自分の思いをそのまま言葉にした、という単純な理由だ。それでも灯からは、本当にこの人は、といった横目で視線を送られている。


(俺……なんか悪いこと言ったか?)


 普通の言葉を述べたのにもかかわらず、灯からは禁止令が出されたため、清は意味が分からなかった。

 灯を大事にしたい、という気持ちは今も昔も変わらないままなのだから。


「とりあえず、試験を頑張らないとな」


 意気込んだとき、肩にぽすっ、と柔らかな感触が襲ってくる。

 ぎこちない動きで肩の方を見れば、灯が清の肩に頭を乗せていた。

 うとうとしているのを見るに、少々無理をしていたのだろう。


 灯が隣で寝落ちしかけるのは何回目かも忘れるほどだ。しかし、今回は寝る前なのが救いだろう。

 灯は瞼が閉じそうで閉じない状態を保っており、今にも寝てしまいかねない。


「清くん……私、少し眠いです」

「お風呂入る前には起こしてやるから、安心して仮眠でもしてくれ」


 そう言って頬を優しくふにっ、と触れば、灯はとろけたように甘い表情を見せてくる。

 灯は清の肩に柔らかな頬をすりすりしながら、満足そうにしていた。


 数分もすれば、灯は小さな寝息を立てて眠りについている。

 清は逆の腕で自分の顔を押さえ、静かに首を振った。


「本当に灯は……愛おしい程ずるいやつだよ」


 心臓の高鳴りを抑えつつ、清は灯が起きないよう、静かに姿勢を保ち続けた。

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