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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第三章:record with you

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九十九:穏やかな時間の中で

 その日のお昼休憩、清は灯と心寧の三人で、食堂に来ていた。

 常和は心寧の含め、魔法科目試験の最終受付をしているらしく遅れてくるようだ。

 常和の分の席も確保しつつ、三人は席に着いた。


 清は食に感謝してから、灯から受け取ったお弁当を食べ進めた。

 灯の味付けは清好みが多く、あまり味が濃くないのは嬉しいものだ。

 その時、灯の隣でお弁当を食べていた心寧が箸を止めていた。


「そう言えばさ、今月の終わりぐらいにテストあるよね」

「確かにありますね」

「また皆でテスト勉強をしたいよね!」

「魔法科目の試験が忙しくならないかそれ?」


 清と灯は魔法科目の試験に参加しないため、放課後を使うとか合わせる時間はいくらでもある。

 常和と心寧の場合は、魔法科目の試験が放課後に行われるのも考えれば、集まるのが難しくなるだろう。

 一年生時も参加していないが、全学年が躊躇なく混雑するお祭りだと認識している。


 そう思っていれば、灯が水を飲んだ後、ゆっくりと口を開いた。


「清くん、休みの日に皆で勉強会をする時間を取れば良いと思いますよ? 噂によれば、今回のテスト……一筋縄じゃいかないらしいですからね」

「ああ、それもそうか」

「今回のテスト、特別枠になってない学年共通の期末だもんねー」

「心寧さん、妙に不服そうですね」


 心寧が、別にそんなことないよ、と不思議そうに言っていた。

 以前の中間テストは、魔法合宿の期間も含めて早めにされただけで、今回は特別枠でのテストといかなかったのだろう

 何気に勉強会をすると決まったが、清の家集合になると思われる。


 清は今回も頑張ると決めている為、断然やる気だ。

 そんな清を灯は見ていたようで、小さな笑みを浮かべており、清は頬を赤らめるしかなかった。


 心寧が頬を赤めた清をからかっていれば、声が聞こえてくる。


「心寧、何があったかわからないけど、からかいすぎるのはやめてやれよ。清が普通に可哀そうだから」

「分かっているなら哀れむなよ。というか、ツクヨさんも一緒だったのか?」


 常和に気を取られて気が付かなかったが、常和の隣にはツクヨが立っていたのだ。

 存在に気づいた灯と心寧が鋭い視線を向けているが、ツクヨは気にした様子を見せていない。

 教室以外で最近は見かけていないため、食堂で見るのは珍しさがある。

 いずれにしても、理由があって来たのには変わりないだろう。


「なぜツクヨも?」

『後ほど面談がある、というのを伝えに来ただけだよ。古村君とは偶然出会っただけだからね』

「ツキが言ってる事が本当かわかんないんだけど?」

「俺がツクヨ先生と偶然出会ったのは本当だ」

「面談、ですか?」


 清が首をかしげつつ聞けば、ツクヨはこくりとうなずいた。


『細かいことはまた後で話すとしようか。今は休憩を存分にしたらいい』


 ツクヨはそう言って、食堂を後にした。

 灯の「何をしたかったのでしょうか」という言葉に、悩むしかなかった。

 常和が注文した品物を持ってきたところで、改めて各自箸を進める。


 心寧がツクヨをなぜ『ツキ』と呼んでいるのか、という話をしていれば、常和が目の前に紙を差し出してきた。


「常和、これは?」

「魔法科目試験の日程表」

「なぜ?」

「あー、星名さんが心寧の試合を見る予定があるって言ってたから、全員分貰って来ただけだ。心寧と星名さん、これ二人の分」

「とっきー助かる」

「古村さん、ありがとうございます」


 灯が感謝して常和から受け取ったのを見た後、清は紙に目を通した。

 日程表というのもあり、放課後に試合をする人数、対戦相手は既に決まっているらしい。

 全学年が参加する魔法勝負祭りの感じもあってか、学年全体でのランキングになっているようだ。簡潔に言ってしまえば、何年生であろうと、一位になった者が『参加していない者を除いて』学校内最強と言えるらしい。


 常和の試合の日程を探せば、本日の放課後の枠にすでに入っていた。


「常和は今日からあるんだな」

「ペア試験の際に、魔法がちゃんとした『創成魔法』になったからな」

「とっきー、前回一位からだったのに、下からやり直しだもんねー」

「清や星名さんくらいの怪物が潜んでない限り、俺の一位は決まってるけどな」


 常和が自身満々に言ったせいか、周りから殺意とブーイングの嵐が飛んできている。

 常和は現に一位推奨格ではあるが、不服な者が多いのだろう。ましてや、一位だったものが下から開始なのが、更なる燃料を生み出しているのかも知れない。


 周りが妥当常和連合を組もうとしている中、笑顔の絶えない常和の空気感は流石としか言いようがないだろう。

 清は常和を最後まで応援する気だ。それは、勝つとわかっている試合だろうと対象になる。


「常和、今日は見に行けないけど、頑張れよ」

「ああ! というかさ、清も参加しようぜ」

「来年あったら考える」

「まことー、言質取ったからね! あ、とっきーの試合はうちが見てるから、二人は安心しても大丈夫だよ!」

「考える……あー、行事を破壊した張本人二人の会話は説得力が違いますね」

「え、灯??」


 何気に灯が笑顔で晒してくれたが、清は苦笑いするしかなかった。

 体育祭を滅ぼした炎と風の魔法使いは、間違いなく清と常和の二人なのだから。


 その後、心寧がなぜ防衛戦のみなのか、という話をしてお昼休憩は終わりを迎えた。


 放課後の帰り道、清はいつものように、灯と手を繋ぎながら一緒に帰路を辿っている。

 ワイシャツなのもあってか、肌を撫でる風が更に身近に感じていた。

 そして隣には、ローブを着用していない、夏服姿の灯が居てまぶしく見える。


 二人の足音が響き渡る中、灯が口を開く。


「清くん」

「灯、どうした?」

「今度の休日、一緒にお買い物しに行きませんか?」


 笑顔で言う灯に、清は動揺を隠せなかった。

 灯と買い物に行きたくない、というわけではないが、なぜ急に言ってきたのだろうと疑問に思える。

 灯が一緒に行きたいと言えば、いくらでもついていくし、離れるつもりは一切ない。以前の買い物の反省を含めてだ。


「別に構わないけど……急だな」

「……清くんとの日々を、記憶に残していきたいから」


 灯から小さく呟かれた言葉は、清の耳にしっかりと届いている。


「わかった。どこに行きたいか、一緒に考えるか」

「ありがとうございます」

「俺の方こそ、ありがとう」


 灯は小さな笑みを浮かべ、嬉しそうにうなずいていた。

 そして、お洋服も見に行きたいですねや、帰りに寄り道もしてみたいなど、灯は楽しそうに考えてくれている。


「どこに行くか楽しみですね」

「うん、そうだな」


 優しくも離さないと言わんばかりに握られた手は、二人の間に差し込んだ温かな光に、優しく包まれている。

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