九十五:親友から託された幸せの優しさ
六月の始めに入り、暑さが本格的にじりじりと体内の水分を奪い、気温を上げている。
魔法世界の天候は変わらないが、太陽の陽ざしだけは刻々と輝きを増し、季節を夏へと移り変わらせていた。
そんな暑い中、清達は食堂でお昼を食べている。
「にしても熱いねー。とっきー、溶けちゃいそうだよー」
「魔法……はダメか」
「まあ、俺達学生は校内だと魔法禁止だしな」
「衣替えを考えないといけないですね……後は日焼け対策も……」
「なんというか、まことーとあかりーって衣替え遅くない?」
「衣替え期間とか定められていなかったからな」
「私はうっかり忘れていましたね」
常和が、忘れるものなのか、と疑問気に言葉をこぼしていた。
常和と心寧は魔法合宿が終わるなり夏服へと着替えていた為、不思議に思ってしまうのだろう。
清はただ単純に衣替えを忘れていたが、灯もうっかりで忘れていたのは意外に思える。
現実世界みたいに蒸し暑い、というわけでもないので、感覚がおかしくなっていたのだろうか。
ふと気づけば、常和が箸を進めながらも、こちらを真剣な目で見てきていた。
「そういやさ……清は結局、魔法科目はどうする気なんだ?」
「あー、常和達には言ってなかったよな。俺は不参加で、普通科目の方に今回は力を入れるつもりだ」
「真面目だねー」
「ライバルが一人減るのは寂しいが、これもまた一興、か……」
「とっきー、なんか意味違うと思うよ?」
魔法科目に参加しないが、参加する常和と心寧には頑張って欲しいと心から思えている。それは、二人が信頼できる存在だからかもしれない。
常和は今から勝負するのが楽しみと言っており、やる気が見るだけでわかる。
心寧は楽しく上を目指すと言っているあたり、常和と一位と二位を独占してもおかしくないだろう。
「私も清くんと同じく参加はしませんが、心寧さんの魔法勝負は見に行こうかなと思っていますよ」
「え! 絶対見に来てよ! 星の魔法よりもきれいな魔法勝負を振舞ってみるから!」
「ふふ、楽しみにしておきますね」
灯が参加しないのは初耳だが、灯の性格や魔法を考えれば妥当と言えるのだろう。
(……灯の誕生日プレゼント、どうするか)
灯と心寧が楽しそうに会話している中で、考えごとをしている清を常和は静かに見ていた。
放課後の帰り道、灯とは別行動でショップへと立ち寄っていた。
もはやプレゼント探し恒例となりつつある場所、時代をモチーフにしたような内装のお店だ。
一人で来たのは良いが、結局のところ、灯の好きなそうなものが未だにつかめていない現状だ。
灯と同性である心寧の知恵を借りようとも考えたが、誘うに至らなかった。嫌いとかではないが、自分で決めたいというエゴのせいだろう。
「……誕生日プレゼント、何が良いかな」
そう呟きつつ、アクセサリーやらハンドクリームなどに目を通す。
深く考えていたのが原因だろう。清は、後ろから見守っていた二人が接近していたことに気づけなかった。
「よ、清」
「と、常和か……急に驚かせるなよ。それに心寧も」
急に肩に手を置かれた感覚に後ろを振り返れば、常和と心寧が立っていたのだ。
二人は表情に笑顔を携えているが、明らかに考えを察していると感じとれる。
「まことー、一人で考え込むなんて清らしくないよ? 少しくらい、うちらを頼ってもいいんだからね?」
「そうだぜ、清。星名さんの誕生日を祝いたい気持ちは同じだが、今回はおとなしくしているつもりだ」
「二人共……」
灯は心寧に誕生日を教えたことがあったらしく、心寧はちゃんと覚えていたのだろう。また、二人は灯の誕生日を祝う予定であっただろうに、バトンを一つとして託してくれている。
最高の親友に囲まれている自分は幸せ者であり――気づけば、清の瞳には涙が込み上げてきていた。
――悩みを持っている自分に、親友が駆けつけてくれるという今の優しさに。
清は自分一人でという考えになりかけていたことを、悔やみたかった。それは、こんなにも支えてくれる親友が居るのに、一人で抱え込んでしまっていたのだから。
清は泣きかけていた目を拭い、常和と心寧をしっかり見る。
「そういえばさ、二人はなんでここに?」
「あー、それはね……とっきーが『清が悩んでいるみたいだから、後をつけてもいいか』って心配そうにうちに相談してきたからだよ?」
「心寧、それは言わないでくれ」
「いいじゃん、親友を心配して見守るとっきー、かっこいいよ!」
「本当にやめてくれ」
「常和、心寧、ありがとう」
常和は恥ずかしそうにしながら顔を隠しつつ、小さくうなずいていた。
「清は大切な家族だし、灯も大切な家族だから――うちらも日頃の恩を込めて、手を貸すからね」
「心寧、助かるよ」
「お、まことー素直だねー」
「最後に決めるのは清だけどな」
「後悔のないように、だろ?」
「おー、わかってるねー」
改めて二人に感謝の言葉を送り、店内を見回した。
二人が来てくれたおかげか、今まで見えていない範囲が見えるように思えてくる。
それでも、灯にどんなプレゼントがいいのかは定まらないままだ。
「アクセサリーとかの趣向から変えてー、こっちのなんてどう?」
そう言って心寧が向かう先についていけば、数々のぬいぐるみが並べられた場所だった。
灯は可愛い物は好きであるみたいだが、ぬいぐるみというのは話に出たことが無かったから意外だ。
「ぬいぐるみか」
「あかりー、部屋にひとつ置いてあったから、好きなのかなって思ってね」
「ひとつだけ置いてある、ぬいぐるみ……」
「まことー、何か思うことがあるの?」
「いや、俺の勘違いかも知れん」
「ま、詮索はしないでおくね」
間違いで無ければ、あのぬいぐるみのことだろうという考えが、清の脳裏に記憶されている。
灯の事情を勝手に話す気はないため、詮索されないのは安心だ。
ぬいぐるみを見れば、ウサギに猫、犬などと様々に置かれている。リボンが付いている種類があったりするため、ぬいぐるみと言っても多種多様にあるのだろう。
「誕生日なんだからさ、シンプルにケーキとかもどうだ?」
「あー、灯の喜ぶ顔が見たいから、買おうかなと思っていたよ」
「ケーキだったら、うちが以前まことーに教えた場所がおすすめだよ!」
「あそこか……帰りに寄ってみるよ」
「とっきー、うちらも付いていこうよ!」
「お、そうだな」
(心寧と常和に何かしら奢るか……)
清はそう思いつつも、ぬいぐるみやら本などに目を回した。
「まことーとあかりーに花が咲くのも近そうだね」
「なんでそうなる……」
「まあまあ、清。俺たちは、清が星名さんを理解しようとし始めている成長を見守りたいだけだから」
常和と心寧の真意までは不明だが、見守られているのは悪いことでは無いだろう。
灯にあげるプレゼントは以前に一つだけ決まっていたので、残り一つを選んで、清は常和達と共にお店を後にした。
ケーキを二人に奢った際、根掘り葉掘り心境を聞かれそうになったのは言うまでもないだろう。




