玄武と青龍-7
皆がエリシオンに帰還すると、シボラ、ユースティア、ブーケの皆が玄関口で待っていた。シボラとブーケはともかく、基本司令室から出てこない社長の姿がそこにあることに驚いていると、医務室で回復を受けたのかキズナの襲撃から回復したアルマローズはこう云うのである。
「みんな、どうやら自我が目覚めたみたいなんだよね」
「なんだと……」
「指揮者同様、物語の全てを知っておるわけではないがな」
シリウスはそう云い、大型ゴーレムに命じてキズナを隔離施設へ移送する。その場所は問題を起こしたものを罰する幽閉場所であり、キズナの居場所としてはこれ以上ないピッタリな場所であった。
彼女を……玄武が世界の裏側に飛ばされたのと同様にゲームの表舞台から消失させないのは甘い判断のように思えるが、ラスボス以上の存在である黒幕のいるところに移送すれば何が起きるのか分からなかったのでこの判断は適切なものであった。単純に考えて、目の届かないところで何を企んでいるのか分からないままの状態を危惧したのである……。
「我々はゲームのキャラクターであることは、ある程度アルマローズから話に訊いた」
ユースティアは云う。
自分が人間ではない存在にショックを抱くものだと思っていたが、その事実は社長のみならず皆にアッサリと受け止められ、肯定された。その自認は非人間……やはり、人間っぽい存在、根っこからキャラクターであったからこそ受け入れられる真実なのだろう。最早、正体は人間だと云われた方が懐疑的な雰囲気さえあるほどだ。
「指揮者同様、情報室とやらで物語の全てを承知していない以上、この先未来は既定であるが未知の状態だ。不思議な心持ちだよ」
「社長……関係のない話ですが、あなたには兄弟とかいたりします?」
どこか感慨に耽るユースティアに対して、玄武の場違いな質問。だが最高司令官は怒ることなく不思議そうな表情を浮かべたものの、「いや、いないが」と簡単に返事を返す。玄武はユースティアとフルトゥーナの名前の意味を考え、とある類似点に気付くのだがわざわざソレを口にするのはどこか憚れた。
「社長……私は一度世界の裏側に飛ばされ、どこかあなたの存在によく似たキャラクターに出会ったんですよ」
「ほう……」
「その人は黒幕らしいのですが、再会の約束をしました」
プレイヤーにリリースされた、物語は歪められている。
すべてのひずみが元通りになれば、再会することが出来よう。
玄武はその楽しさを隠せないまま、果たしてラスボスを超えた黒幕はどういった脅威を用意して待機しているのかと思うと、胸がドキドキするのである。社長は……未来は……物語は既に決められ未来は既定だと述べていたが、物語のエンドを超えた先で待っているであろうフルトゥーナのことを思えば、すべてが既知の状態ではない。
未知は未だあると思うのである。
「あのー……そのことですが……」
皆がエンドまで至る既存の物語を認知せぬばならぬ。そう意気込む中で、指揮者がヒッソリと声を上げた。ユースティアとブーケが注視していると、「僕はこのままの状態でもいいんじゃないかって思うんです」と云うのであった。
「指揮者、このままで良いとはどう云う意味だ?」
「物語を知らない状態」
一同は黙した。
それは指揮者に反対意見や反発の感情を抱いたのではなく、顔を見合わせる疑問の時間であった。
「どういうことじゃ、指揮者?」
「皆さんには申し訳ないのですが、僕は未知の物語を楽しみたい。自分のことさえ分からない記憶喪失の輩が何を云っているのだと思われますが、僕からすれば未読の本を手渡されて読書している途中なんです。ですから、いきなりネタバレのような行為をされるのは……何と云うか……」
「それに関しては同感だ」
意外にも指揮者の加勢に入ったのは青龍である。
「俺も指揮者ほどではないが、断片的にしか物語のことを知らない。精々熟知しているのは、キャラクターの皆や相棒である玄武のことだ」
俺の認知は四方祭から先は止まっている。
だから――これから先を味わいたい身の上としては不用意に先の未来を認知することは、避けたかった。
「ふん、殊勝なことだ。だが……僕からも云わせてもらうならば、まあ……分からなくはない……」
『社長!』
更なる意外な加勢に皆は驚きの声を出した。
正直な話どれだけ云い包めたとしても、ユースティアは現実的に未来のことを知っておくことは重要だと述べ、単独で物語のエンドまで周知する。そのような行動を起こすものだと、その性格上思っていたからである。
「ブーケはどう思う?」
「あたし? う~ん、どっちでもいいかな。確かにネタバレは食らいたくないけど、取り返しのつかない事態になる前に未来のことを知っておく必要もあると思う。だけど……あたし達が自我を得た理由は、『そうあれかし』。この物語のプレイヤーの多くが望んだ、本当の物語の展開を迎えることが目的なんでしょう?」
そのストーリーは没案の中にあって、新章を迎える度に新しい変化を齎す。
ならば、わざわざ歪められた本編の内容を知ることにどれほどの意味があると云うのであろうか。
「全ての元凶、歪みの元であるキズナは隔離室に入れられるし……これから先のストーリーにおいて、没案の中から正式な物語が姿を現す。全てを知っておく意味は、そう強くないと思うんだ」
「……決まりだな」
ブーケの言葉を最後まで聞いたユースティアは電動車椅子を操作して、管理室に戻る。ブーケは大怪我を負ったアルマローズの傍に寄り添い、棒立ちになった玄武と青龍に対してキズナのレベルを1に戻すべく、素材回収の為の強力を仰ぐのであった。
「バードとタイガーには別の任務を命じたが、この任務で得る素材回収は危険じゃぞ。油断なきようにな」
「大丈夫だ」
青龍は書面にリストアップされた回収物を目視で確認しながら、こう云う。
「何せ、俺と玄武は相棒なのだからな。なあ、玄武? 俺の強さは知っているだろう」
「ああ……」
玄武は答える。
いつもなら空しい定型文であるソレだが、はじめて自分の意思でハッキリと口にするのである。
「強いよ。とても強い。私と青龍、二人が合わさると強力無比さ」




