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そもそもガチャは引いたのか-7

「なぜだ! 何故こうなる! 相手はあの産廃だぞ! それに引き換え俺はプレイヤーらを人海戦術で苦しめた章ボス! なんであんな雑魚なんかに負けるんだ! 納得いかねえ!」

 わずかな自由が許された口元から喚く、事実を認められない大声。

 玄武は背後でそれを耳にしながら、洗脳が解かれ倒れ伏すブーケの全身を受け止めた。周りを見ればブーケと同じく、洗脳にされたモブたちも同じように音を立てながら倒れていく。

 玄武は「こうなるのは当然だろ」と云いながら、洗脳により意識を失ったブーケの調子を見る。彼女に何らかの後遺症……洗脳の再発……がないか注意深く観察するのであるが、医者でもないので確かめようがない。専門医に診せた方が良いかと思いながら、おんぶをするのである。

「許せねえ、許せねえ、許せねえ! そうあれかしと作られた俺は、ただ本能に忠実だっただけなのに! エリシオンを乗っ取ろうと暗躍していたのは本編通りの設定なのに、どうしてこうなる! いや……そうじゃねえ! なぜお前みたいな雑魚が……使えもしねえキャラが俺との勝負に勝つことが出来たんだ! 俺はプレイヤーたちの中では屈指の難易度だったんだぞ!」

 畜生、口は動くが全身が凍って指一本動かすことができねえ!

 そう叫ぶシボラを玄武は冷静な目で眺めながら、「それは当然だろう」と答えるのである。そして解説した。なぜ勝負は一瞬でついたのか……その理由を。

「確かに章ボスとして立ちはだかった時のお前は、仲間を次々と行動不能に陥れ、毒属性の混乱によってプレイヤーたちは苦戦を強いられていたようだ。だがその話は、お前がボスであった時が前提だろう?」

「あ?」

「今のお前はプレイアブル化されたキャラクター。SRとSSRでは……基礎スペックとでも云おうか……出せる出力に差異はあれども、味方になったキャラクター同士は基本的に同じ土俵にいるんだよ」

「話がわからねえ。端的にまとめやがれ。今後の参考にする」

「参考って……またエリシオンを乗っ取るのを諦めてないのかお前は。呆れた……」

その不屈の精神はどこからくるのか。

 やはり、そうあれかしと作られたキャラクターは製作者の意図を汲んだ立ち回りを意識した方が精神的に強いのかと一瞬だけ玄武は思ったが、元々シボラはこういうキャラクターであったことを思い出すのである。何せエリシオンに捕らえられてもなお、虎視眈々と組織を乗っ取ろうと最後まで画策し続けたキャラで、主人公である指揮者に別れの挨拶をした時でさえ諦めた様子はなかった。撤回の言葉は無かったのだ。

「話は簡単だよ。ボスがプレイアブル化する。ガチャから出て来る……その後のお前は、指揮者に強化して貰ったか?」

「あ……」

「如何なSSR、そして人権キャラとは云えども未強化、レベル1の状態で勝てるわけがない。当然の事実だろう」

「なるほど、そう云う……ちなみにお前のレベルは?」

「デイリーミッションで強化素材を貰った指揮者から限界まで育てられているよ。ちなみに完凸済みだ。初期配布キャラの強みと云うか、お前より来る時期が早かったお陰で一通りの強化は受けている。だからいくら私が産廃でも、SSRかつ章ボスであるお前に勝てることが出来たわけだ」

 話はとても単純だ。

 スタート地点の現状、指揮者が強化できるキャラはブーケ、シリウス、キズナに玄武のたった数名しかない。レアリティの違いがあれども十連分ガチャを回せるほど強化素材の周回を終えている指揮者は、可能な限り仲間の強化を行っていたと云うわけである。

 しかもシボラは指揮者に休むよう頻繁に忠告していた。

 その作用も多少……働いていたのだろう。強化等の細かい作業は後回しにされ、忠告を受け取って休んでいたのである。

 しかも、それだけではない……。

「皮肉なことに自我がある所為で……プレイヤーを苦戦させた記憶、章ボスであった意識の所為でお前は敗北したと云うわけだ。それに、戦術も悪かった」

「戦術?」

「モブではなくブーケを襲撃させたら勝てただろうに。彼女も同じく、私のように限界までレベルが上がっている。ブーケが戦えば、奥義が出せない私は負けていただろうな」

「そいつぁ……確かに試しで洗脳したが、まだ乳臭いガキじゃねえか。いくら自我のないキャラクターやモブのみが洗脳できるとわかっていても、ギリギリ未成年にそんなことぁできねえよ。例外はあれども基本的に本編でもそうだったろ、俺は……」

「確かにお前は――いや、待て! 聞き捨てならないことを……シボラお前は、自我のあるキャラの区別がつくのか⁉」

 これはシボラの洗脳技術による含蓄か。

 玄武は驚きの隠せず、大声になった。

 首から下が氷像のようになったシボラに詰め寄ると、「お前は気付いていなかったんだな」と口を割った。

「なんだっけ……異物索敵機器……それが渡された時、俺とお前、キズナが手にした時、わずかに光った」

「確かに……そんなことがあったように思えるが……」

「指揮者とブーケは光らなかった。もしや異物索敵機能はフェイクかと思い、試しに洗脳してみたんだよ。そうしたらブーケとモブたちには効果があった。俺はその時点では誰にでも……本編通り洗脳の効果があるのだと思いてめえにもやってみたが、一切通じねえ。この違いは何だろうなって考えると、やはり自我の有無が関係あるんじゃないかと思ってよ」

 想定するにシリウスにも自我があるんじゃねえか。じゃなきゃ、意思のあるキャラクターがその発明品を手にした時にのみ光るだなんて動作を取り入れる必要があるか――と、シボラは云う。

「念の為に聞くが、お前は人格があるかどうか確かめるために洗脳をしていた、なんてことはないよな……?」

「あるはずがないだろう。誰がするかよ、そんなこと。キャラじねえキャラじゃねえ。しかも自我のあるキャラクターには俺の洗脳が効かないのがハッキリと分かったのは、てめえにかけた直後に確信を得た。俺はよぉ、意思がなければ反発もねえ、資本である身体にメンテナンスの必要なんざねえ有益な労働力を、俺の夢の為だけに使われるべきだ。そう思ってキャラクターとしての本能に従っただけだぜ」

「そうだな。お前は骨の髄までそう云う奴だった。忘れていたわけじゃないが……」

 玄武は気絶したままのブーケを見る。

 彼女には自我・自由意思がないのかと思いながら、これから……ブーケをエリシオンの医務室に送った後、シリウスと話をしなければいけない。シボラの云うことが本当ならば、あちらの方にも自我がある。そうじゃなければ、わざわざフェイクじみた索敵器なんぞ作って試すような真似はしないだろうから。

「シボラ……シリウスに自我がある……他のキャラクターにも自我の有無があるかどうか確かめようとしたこの事実が本当なら、この話はすべて聞かれていたと云うことになるぞ」

「はっ、この道具には盗聴器の役割もあるってことか。確かにあの油断ならねえあの研究者はそれぐらいやるだろうな。何せ本編では、俺の洗脳を解くメタ敵でもあった。いや……いいねえ。発明キャラって云うの? 博士キャラは便利で羨ましい限りだぜ。なんでそういうキャラに限って自我があるのかねえ。洗脳できねえじゃねえか」

 会話は筒抜けかよ。

 面の皮の分厚さを発揮して素知らぬ顔で居座ろうと思っていたが、それが罷り通らないことをシボラは自覚するのである。

「お前のような反省はあっても改心のないキャラは殴っても後腐れがなく引きずることもないから、安心するよ」

「そうか、それは嬉しいねえ」

「……なあ、おい」

「どうした、玄武……」

「お前の夢ってなんだっけ?」

「云わずとしれてらぁ」シボラは不敵に笑った。「子供達が何にも怯えることなく笑って過ごせる……そんな平凡な日常を過ごしてもらいたいだけだ」

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