3.体育祭、前日譚
体育祭まで残り一週間。各々出る種目も決まり、競技の練習も追い込みといったところまで来ている。
「氷高さんは結局リレーと何に出ることになったの?」
「リレーと玉入れとかけっこね。そっちは?」
「僕は綱引きと騎馬戦。」
団体競技は個人競技とは異なり目立たなくて良いのだ。
「無難ね。」
「だな。」
「まあ、でも、一応応援しとくわよ。」
何故だろう。不思議と体育祭に対するやる気が湧いてきたぞ。
「そういえば体育倉庫の呪いの噂知ってる?」
「ああ、知ってるよ。毎年この季節になるとクラスのどこかしらで話題になってるからな。」
体育倉庫の呪い。それは突如として体育倉庫から女性の泣き声が聞こえるというもの。毎年体育祭前に噂になっている。
「私、あの噂について気になっていたのよね。そしてあなたみたいに仮説を立ててみたの。」
「おお〜。是非とも聞かせて欲しい。」
僕は何かに対する仮説や考察を聞くのが好きだから良い機会だと思った。
「私は、あの噂は生徒会か体育祭実行委員会が意図的に流していると思うの。」
「ふむ、理由を聞いても?」
「私はあなたに習って「誰がしたか」ではなくて「何のためにしたか」から考えたわ。もしこの噂を意図的に流したとしたら必ずそれには意味があるはず。要するに噂を流すことで起こることから何かしらの利益を得るところが黒幕だ、と。」
所々相槌を打ちながらその話に耳を傾ける。
「それで、利益を得るのが生徒会と体育祭実行委員会だと?」
「そう。普通の生徒なら噂を聞いたら体育倉庫に近づきづらくなるでしょう。体育祭前に一般生徒がいなくなると体育祭の準備がしやすくなって、結果的に生徒会と体育祭実行委員会が利益を得る。」
確かに筋は通っている。けど、、、、
「でも毎回こんな遠回りなやり方をするのかな。学内放送とかですれば良いことなのに。」
「う〜ん、、、やっぱりそこなのよね。」
このことについてただの噂と思って流していたけど、そろそろ対処したほうがいいかもしれない。
「実のところ本当に女の子が泣いてるんじゃない?」
「驚いた。あなたがウワサを鵜呑みにするなんてね。」
「まあまあ、、、ちょうどいいし一緒に体育倉庫に行かない?」
「いいけど、噂を確かめに行くの?」
「うん。この件は半ば付喪神と化している。」
「付喪神って長い間使われてた物とかがなると言われているあの?」
「そう。今回の場合は長い間使われたことではなく、噂という一種の乗り移る呪いによって力が増幅した結果なったと考えられるよ。」
「? えっと〜、、付喪神とか色々突然言われても、、」
「ごめん。少し急ぎ過ぎたね。この続きは体育倉庫へ向かいながら話そう。」
ガチャ
そう言って僕は教室の扉を開けて僕らは歩き出す。
「まず付喪神について話すけど、付喪神とは物などが意思を持った存在だ。過程はどうであれね。」
氷高さんは少し考えたあと相槌を打った。
「今回は体育倉庫何付喪神になったと?」
「そう。きっかけはまあ噂なんだろうね。皆が噂によって一つのことを考え、話す。その印象や考えの集合体が付喪神となった、といったところだろう。」
まだ氷高さんは信じがたそうにしている。
まあ当然だ。いきなり付喪神がどうだとか言われても困惑するだけだ。
「まあ最初は軽い噂だったんだろうね。氷高さんの仮説のように生徒会か体育祭実行委員会が流したのかもしれないし、誰かが面白半分で流してみたのかもしれない。」
なんて話していると体育倉庫の前に着いていた。
泣いている。確かに誰かが泣いている。誰もいないけど泣いている。噂の通りに泣いている。慰める者は誰もいない。しくしくしくと泣いている。
「ねえ、東雲くん。泣いているわ。本当に。誰もいないのに。」
「やっぱりもう付喪神と化してしまっていたか。」
「本当にいるのね。付喪神って。」
「うん。意外とどこにでもいるものだよ付喪神って。さて、僕らは帰ろう。体育倉庫が付喪神となっていたのは確認出来たし、今の僕らに出来ることはないからね。」
「え?あ、うん。」
そう言って僕らはその日、そのまま帰った。
翌日の放課後。
「東雲くん。付喪神が意思を持った存在だってことはもうわかったけど、何で泣いてたのかしら?」
鋭い質問を投げかけてくるな。
「まあ憶測に過ぎないけど、自分に対する悪い噂に傷ついているんじゃないかな。ましてや意思を持ってからまだ日も浅いのに自分に対する悪口を皆が言っていたら誰だって悲しむだろう。」
「意外と人間味があるのね。」
不思議そうな顔をしながら氷高さんは言う。
「そりゃそうさ。元を辿れば噂。そして人の意思によって生まれたんだから。」
「ところで、彼、いや彼女かもしれないけど、体育倉庫の付喪神をどうにかしてあげられないの?」
「どうにかって?」
「そりゃ、、、、、でも、、、ううん、やっぱり私はせめてその付喪神の涙を止めてあげたい。」
今日、僕は氷高さんの新たな一面を知れた気がした。
「でも具体的に何をすればいいのか私にはわからない。だから力を貸して欲しい。東雲くん。」
全く罪な人だ。氷高さんがそんな顔をしているのに断る男子なんてそうそういないだろう。
それにまた頼ってくれたことが僕はシンプルに嬉しかったのだ。
「まずは噂を消そう。それも簡単な方法で。」
「何か考えがあるのね。」
「もちろん。」




